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20:姫化聖女

※20170323:内容の流れはそのままに、文章量を上げました。

「そうだ。ローヴァルさんが荷物を取ってくる間に、この一団に、ジルドレット……"ジル"さんと言う仲間が新しく増えたんですよー」



私はローヴァルさんに生活用の幌馬車に案内しながら、ジルさんの事を軽く話した。

ローヴァルさんは私の話しに一瞬、眉を寄せたけど、直ぐに「そうか」とだけ、返してくれた。

何だろう? まぁ、突然の増員だもんね。

私は関所を抜けたらチノア達とは別れるつもりだけど……。

それまではこの一座にお世話になるからね!

この街に着いてチノアとの契約が終わって、ローヴァルさんに多分……しばらく護衛をお願いする事になるだろうなぁ。


そして歩いて目的の幌に着いたら、そこにジルさんが立っていた。

ジルさんは私とローヴァルさんを交互に見てから、柔和な笑顔で喋り始めた。



「こんばんは。この一団の金銭的な補佐と向こうでの通訳で来ました。これから宜しく、ジルドレット……"ジル"と気軽に呼んで下さい」

「……どうも。俺は"ローヴァル"。俺は正確にはこの一団に所属していない。雇い主はこのシオだ。……宜しく、ジル」



おお? 二人の自己紹介が思ったより早く出来て良かったー!

……でも、何だか目が笑ってない……。微妙に怖い?

ま、最初だしね? お互い警戒しれるのかも?



「それじゃ、ローヴァルさんは向こうの幌で生活して下さいね!」

「ああ、分かった」

「それじゃ、ローヴァルさん、ジルさん、また明日~」



私はここで二人と別れた。

そして私は二人から離れて、劇にと用意されている物を見に行く事にした。

歩きながら、頭の中に台詞と立ちまわりを描いていく。

劇の上で私が言う台詞は主に短い感じ。

後はベールを深く被って、盗賊王と護衛騎士の間をフラフラ……いや、儚げに移動する……のだ。


そして目的地に着いた私はそれらを眺めた。

急遽決まった今回の劇だから、ろくに衣装合わせなどしてない。

そんな中で用意された衣装や小道具等は何となく中東風にアレンジされていて、煌びやかだ。



「…………」



用意された物を見て、急に息が詰まった。


本番で失敗したく無い。いや、失敗出来ない……。


ここにきて、プレッシャーが急に圧し掛かってきた。

衣装を見て立っている私の両肩にも手にも何も重しになる物は無いのに、勝手に身が下へとズプズプとめり込んでいく。

そんな錯覚を本物と捉えている自分が居て、思わず小さく笑ってしまった。

期待と不安と……ワクワク感で身体が強張る。


ここを上手く抜ける事が出来たら、新しい世界が広がる。


神殿を出てから、私に対する"追っ手"の気配は無い。

あの手紙が効いたのか、まだ出会ってないだけなのか…私はとりあえず自由だ。

これから…私が知らない土地も、私を知らない人達も沢山いるし、有る。

こう思うと、聖女としてベールをしていて良かった。

私は聖女で異世界人だけど、今は"一般人"としてこうしてこの世界に溶け込めている……。大丈夫。


この世界のどこかで、生きていける。


どこかで……



「―……イシュウェル……さま……」



……どこかで、目にすることが出来るだろうか?


神殿を出た私がイシュウェル様を普通に見る事は……多分、神殿に居た頃より無理。

イシュウェル様の所属する騎士団がどこか遠征や、大きなお祭りで警備に……とか、そういう事柄が無いと多分、見れない。



「…………」



この衣装を着て、チノアの一座が認められれば……、この国にはもう帰らない。

チノアと別れて、その内ローヴァルさんとも別れて色々な人に助けてもらう事になると思うけど、他国を見て回って……。

色々な事を知り、様々な出会いを繰り返す内に、私はイシュウェル様への心が凪ぐのだろうか……?


この衣装の様に、この世界の"お姫様"……もしくは、貴族……の娘だったら、イシュウェル様に素直に「好きです」と言えた?


イシュウェル様の隣りを強請っても……受け入れてもらえた?


私は、欲しい気持ちをそのまま吐露出来たのだろうか?


…分からないけど、告白……は出来たかもしれない。



だって、 だって……私には何も無い……ただの……




「シオ~、こんな所に居たんだ?」




と、その時、後ろから声を掛けられた。

知った声だからか、心臓が痛いくらい驚いた。



「!!!」


「あ~、そのムズカシイ顔、緊張してる? ね、頑張ろう? 多少のアドリブなら、フォローするしさ!」


「チノア……」


「……ま、それで駄目だったら、別な手を考えよう! ね!」



私の隣りに笑顔で立ち、いつも通り明るいチノアの声。

別な手……って……。

でも、そんな彼女の言葉に頷いた。

かなりな付け焼刃だけど、頑張るしか無いんだ!


私は一人で居た時の思考を切り替え、チノアの言葉に頷いた。








――……ザワザワ……ザワザワ……



「……はぁ……っ」



―……観客の中に、査定の役人が居るらしいのだけど、特別分かる服装をしている訳ではないから、正直分からない。

公演は三日間で、来る人物は毎回違く、一座全員を認めて大丈夫かは見に来た全員で決めるらしい。

そんな私は厚手のカーテン布を重い溜息と共に、無意識の内に強く握っていた。



「……シオ、カーテンに変な皺が出来る。一応、ここは借り小屋の劇場だからさ……」

「! あ、ご、ごめっ……」



チノアに言われて、私はカーテンから手を放し、布を挟んで伸ばした。し、シワになるな~なるな~。


慌てて自分が握り込んだ場所を修復する行為をしながら、私の心はまだこれからの事に飛んでいた。


―……は、始まる……。始まるんだ……。


短い呪文の様に、そればかりが脳内に繰り返される。まるで壊れたレコードの様だ。早く修復せねば。

そして私はチノアに手を引かれて"お姫様"になった。


鏡の中の私は少し前の私と同じ位の髪の長さ。……妙な懐かしさが……。

でも、髪の色は元の色合いでは無く、淡いミルクティー色になっていた。

それに薄紫色のドレスに大粒なスターサファイアの首飾りにイヤリング。

頭にはカチューシャタイプの繊細な小花の銀細工のティアラ……。

それにお化粧を施され、鏡を見た時、私に起こった「この人、誰?」現象。



「…ぅあわぁ…」



自分自身にドキドキしてきた。

自分で言うのも何だけど、ちゃんと"お姫様"や"お嬢様"な雰囲気の自分がいる。

この世界に確り溶け込んでいる。



「……」



思わず鏡の縁をなぞる……。

少しぎこちないけど、満足している自分の顔を、"自分だ"と言い聞かせるように見る。

ここでふと、会った事は無いが、私に「元の世界に帰った方が良いのでは?」と言い、自分の孫をイシュウェル様に引き合わせようとしていた人物を思い出した。

彼の孫は、イシュウェル様と会ったのだろうか?

この姿なら、私は……



「……シオのこの姿、ベールで隠しちゃうのが勿体無いから、急遽ベール無しね」

「え……?」



チノアの言葉に意識が剥がされ、私はチノアの言葉の意味を追った。



「審査官にアピール、アピール!」

「えええ!?」



ハードルを上げられる発言をチノアに落とされ、突然の変更そのままに椅子から立たされ、皆の下へ……。



「やー! お待たせ~。シオの準備が終わったから、気合入れてそろそろ開幕しようか!」

「よ、宜しく……お願いします……!!」



チノアの隣りで頭を下げ、上げたら皆……固まってた……。

あ。パッと見でローヴァルさんとジルさん、アークシェさんとファーチさん、ビサージュさんが居ない……。

ローヴァルさんはまだ準備中なのかな?

ジルさん、アークシェさんファーチさんの一座のお財布三人組は別行動?

ビサージュさんは楽器調整?


そして長い固まりの後、口々に私の変身っぷりをこの場に居た人達が褒めてくれたけど、みんな……幾らなんでも遅過ぎじゃない!!?

そ、そりゃぁ? チノアのメイク技術のお陰で、普段の平凡小娘から見事に化けましたけど!?

む…。何だろう…ちょっとカチンときた…。



「~~……そんなに長い事固まってから、褒めても流石に遅いです! "お姫様が似合って無い"って言いたいんですよね、皆さん!」


「そ、そうじゃなくて……シオが……その……」

「ん~~……その、なぁ……」

「…………」(呆然)


「……ほら、言葉に詰まるくらいなんですから、もう良いです! 分かりました。 無理しないで下さい!!」



言い切って"ててて"とその場を離れた。

後ろからチノアの笑い声が聞こえてきたけど、もう、知らない!


「馬子にも衣装だな」とか軽口言われた方がよっぽどだ!


さて……。勢いで離れたけど……。

そうだ! ローヴァルさんに会いに行こう!



ローヴァルさーん!

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