2:聞耳聖女
―…巻かれた絨毯からカエサルの前に颯爽と転がり出た、美女クレオパトラ…。
まぁ、簡単に言ってしまえばコレがしたいのだ。
誰にも気付かれずに絨毯の中に隠れており、カエサルの前に戦利品の豪華な絨毯を"バーン"と開いたら、それ以上の美貌のクレオパトラが…!
昔、何かの歴史番組でエジプトの事が取り上げられていて、こういう内容の知識を私は得たのだ。
なんつーサプライズ。
荷物に扮するところだけ頂こうかなーと。あと、私も"くるくるバーン!ドヤァ!"っとしてみたい。
「…今日来る予定の商人さんを迎えに行こうかな~…」
そして私はボソボソと言いながら自室を出て、神殿の業者関係の方々が利用する出入り口に行く事にした。
左右を何となく確認しながら、ハノーク様は帰っている様にと…どうも警戒してしまう。
ただ、ハノーク様は帰って居なかったが、イシュウェル様が居た。
―…姫巫女様と一緒にだが…。
姫巫女様とイシュウェル様は、中庭の低い生垣にパラパラと可憐に咲いた花の手前にティーセットを準備して、お茶…の様だ…。
私は思わずここで『イシュウェル様が一番、姫巫女様に熱心に愛を囁いている』事を思い出し…
思わず、生垣に隠れながら彼等に近づいた。
ほ、本当はこういう行為はいけないと思うんだけど!
ここを出て行く前に、知っておきたかったの!
でも、これは…
「………」
「………」
…このピリピリした雰囲気が、本当に愛を囁きあう二人なの?
何だか…"決闘"と言う言葉が似合いそうな雰囲気なんんですけどぉ!?
「…騎士殿は甘やかなお顔の雰囲気の割には、言葉があまり甘くなりませんね」
「………」
ぅ、うお!?
「その様な言葉では、わたくしは頷けませんわ」
「ぐ…!」
うひぃ!?姫巫女様から、囁きの言葉に駄目出し中!?
「…もっと、甘く、あまーく…囁いて下さらなければ、わたくしは…あの事をお受け出来ません」
「レジェスターニャ様…」
「今日はここで帰られますか?…わたくしも、貴方も、もっとするべき事がありますわね?」
あちゃー…。姫巫女様、静かにイライラしてらっしゃる?そんなに駄目なの?
あ。ちなみに、"レジェスターニャ"は姫巫女様のお名前ね?
「俺は…一目…、いや、一言でも良いから言葉を交わしたくて、ここまでこうして来て居るのです…。大事なのです」
「………」
「ここで…俺を追い帰さないで下さい…!レジェスターニャ様…!」
「………」
「お願いします!……俺に…慈悲を…………」
「………」
「…会いたいのです、レジェスターニャ様………」
―……ひゃぁぁぁ!!
私は口と鼻を押さえながら、何とかその場から離れた…。
いや、逃げた。
イシュウェル様の言葉にレジェスターニャ様がどんな言葉を掛けられたかは…分からない。
だって、色んな意味であの場にあれ以上は居られなかったのだ…。
カサカサコソコソと何とも無い風を装って廊下に戻り、当初の目的地に足を向ける。
そして私は…
―…押さえた口と鼻からは何も出なかったが、目からは少し…涙が出た。