間隙②:青狼と金獅子
「―…何て事だ…!誤解だ!!」
俺はシオーネが残していった手紙を読んで、この世から色が一瞬、無くなった。
「ぉ、お、俺がっ…姫巫女様を、愛している…と!?愛を囁きに、王宮神殿に通っている…だと!?」
そんな馬鹿な!俺が王宮神殿で姫巫女に足繁く会いに来ていたのは、シオーネに会う為だったのに!
聖女狂…おっと、失礼。聖女を崇拝している姫巫女は「聖女と付き合いたいなら、彼女を好いていると…一番、幸せに出来そうな言葉を紡げた方にします」とかぬかしやが…言い出したから、俺達は頑張って…!頑張って…!!毎日頑張って…!!!
聖女の後見人だからって、姫巫女相手に愛の言葉を囁く試験を散々受けていたのだ!!
「…くっ!」
―…その時に自分が加減が分からず、必死に吐いた愛の台詞を思い出すと…思わず奥歯が"ミシリミシリ"となる程力が篭ってしまった…。
お、俺はっ…!俺は……
「―…誰かの陰謀か!??」
「…そんな訳無いだろう。第一、何の陰謀が含まれているんだ…」
「!?」
この声は…。
「手紙を読んだなら、分かるな?シオーネは商人と共に行動している様だ」
「ルーデナント様…」
―…濃い金髪に深い蒼の瞳の、"金獅子"と呼ばれる第一王子のルーデナント殿下。
「お前、声が廊下まで聞こえていたぞ」
「…少々…感情的になり過ぎました……」
そして多分…今もシオーネと共に行動しているのは、商人…。
「どうして、その様な格好を…?」
「何、"獅子"はいざという時まで隠しておかねばな」
王家の紋章である"獅子"を?
俺はそこで既に一般的な旅の支度姿のルーデナント様を見た。
"ぱっ"と見、王族だとは思えない装備…。王家の証が一つも入っていない、装備…。
そして当の本人は少し口角が上がり気味が表情で、どうも機嫌が良さそうだ。
「シオーネを捜しに行くのに、基本、肩書きはいらん。自由行動だ」
「…確かに。そうですね…」
ルーデナント様は一体何を考えているのだろう…?
「…ああ、俺もお前もドニアスも…全員、秘密裏に聖女捜索の為に、表向きは遠方の長期任務を受けたという事にしておいてやったぞ」
「…ありがとう御座います…」
……そんな急に無理矢理に通るか!?…って、そうだ、この人は王族…第一王子だった…。
…ここは有り難く頂戴しておこう…。
そして殿下は「では、またな」と俺の元を去って行ってしまった…。
「…俺も、動こう…」
そして置き手紙を読み終え、俺は一番最初にあの討伐の旅で行った街、"ベーリル"へ向かう事にした。
シオーネはああ見えて、結構無鉄砲の行動派だ。色々な所に行きたがるだろう…。
そこで、まずは国外だ。王都から数日掛かるが、一番近いし、そこのギルドで護衛を雇うと踏んだ。シオーネ自体、戦闘能力は無いからな。
まぁ…シオーネの知識を考えても、手近な所から見て行った方が良いだろうし…。
そして"変装"だ。
シオーネを連れ戻しに行くのである。
それに、とんでもない誤解で彼女は俺を避ける行動をするかもしれない。
それは困るし、嫌だ。
…なので"変装"なのだ。
それに当たって容姿は…。そうだな、髪型を変えて、魔具屋で瞳の色を変える物で一時的に変えれば良いな。
後は…。とりあえず…ランクを"王宮騎士"から"剣士"に下げておくか…。
多少手続きは面倒だが、聖女の慧眼にいつの間にか見破られる可能性を考えるとさっさと変えておいた方が良い。
王宮神殿から聖女が消えただなんて、それだけでも…大問題だ。
この事が明るみに成れば、聖女反対派からどう突かれるか…。
とにかく、色々な人物に気が付かれる事無く………私的だが、特にあの二人より先にシオーネを見つけなければ!
そして、誤解を…。一番はあの、『姫巫女に愛を囁いている』誤解を解かないと…!
違う、と。本当に囁きたい対象は…
「…シオーネ…、君なんだ…!」
そしてベーリルへ行く前に髪型を変えるべく、俺は行動を開始した。