全部嘘だから。≪ツンデレ≫
最後は、ツンデレな人のお話です。
それでは、どうぞ↓
2/12――
「はーつこいちゃん。帰ろ?」
「るっさい、のの。」
私の名前は初野楓恋。
ついたあだ名は初恋ちゃん…なのだが、恋をしたことなんてない上に、性格が男らしいものだから、あまり似合わないと言われている。自分でもその通りだと思う。
「ねえねえ、最近青井と仲良いって聞きましたけど?」
「え?ああ。部活で喋るだけだよ?」
青春くんこと、青井千春。
彼と私は、同じ英語部だ。
部活が同じと言っても、うちの部は顧問不在率が本当に高くて、本来週2の部活が2週間に1回ほどしかない。代理の先生を頼むにも英語を話せないと話にならない。部活の時くらいしか話すことはあまりない。つまり、全く話さないに等しいのだ。
「クラス違うのにそこまで仲良くしますかねー?」
「はぁ……何なの。」
「で、できてるの?」
「何が?」
「何って楓恋と青井よ!」
「なわけないでしょ。つか、そんな噂立ってるの?また噂消えるまで疲れるからやめてほしいんだけど。普通に千春とは仲良くしたいから。」
私はよく男子と喋る。それ故にものすごく噂が立つのだ。そうすると、その男子とは話しにくくなり、そのうち仲が悪くなってしまうのだ。終いには勝手に携帯をいじって告白する輩もいるものだから、本当に困る。ののはまだしも、他の人たちはあまり好きじゃない。
「仲良く?したい?てことは?」
「部活の人とギクシャクしたくないだけ。以上。」
「ふーん。つまんな。」
つまんないと言われても、こちらにはどうしようもない。何の気もなく、ただただ普通に話しているだけだというのに噂されるこっちの身にもなってほしい。
「あーあーあ。面白いことないかなあ。」
「面白いことなんて起きません。そんなのは物語の中だけです。」
「ほんっとに好きな人いないの?」
「いない。」
「でもあs……。」
ののが何かを言いかけた時だった。
「はつこいちゃーん!」
部長の玉ちゃんが声をかけてきた。
「ちょ、玉ちゃんその名前やめてって!」
「ちょっと招集!残ってもらってもいい?」
……最悪だ。絶対に雑用だ。
「ごめんのの、今日は帰ってて。」
「うい。青井と仲良くね。」
「るっさい!」
「千春呼んできてねー。」
「玉ちゃんの仰せのままに……。」
あー、もう。面倒だなぁ。
そう思いながらも、隣のクラスへ私は足を進めた。
「ちーはーる!」
「何だよ初野!」
千春の声は少し怒り気味だ。
「いきなり怒るな馬鹿。招集!」
「部活ないだろ?ばーか。」
「玉ちゃんが招集かけてるんだよばーか!」
「あー……わかった。」
玉ちゃんといえば、すぐに来る。
最近、私はそのことが何となく気に食わなかった。
前に千春が玉ちゃんが好きだと聞いたことはあった。なのに、急に最近気になってしまっている。
「玉ちゃんー。何事ですかー?」
「来年の部活宣伝ポスター作って欲しいんだけど、出来るかな?」
「千春がやれるよ。」
「初野がやれるよ。」
その声はハモっていた。
「腹立つけどあんたの方が字上手いし、絵も綺麗じゃん!うざい!」
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ!ありがたいけど俺はやらない!」
「ふふふ、2人とも仲良いね。」
「「仲良くない!」」
「玉ちゃんがやればいいじゃん。……画伯だけど。
「玉田がやるわけにはいかないんだから、お前がやれ。」
「何で私なんですかー?千春でもいいでしょーが!」
「くだんないことやってないで、二人でやってくださいな。じゃ、よろしく~。」
「玉田!」
「彼氏が待ってるので。んじゃ。」
彼氏持ちの玉ちゃんは、部長をやっているのと彼氏がいる理由でよく仕事をしない。だから、私たちは雑用をやらせられてばかりである。
「……リア充爆ぜろ。」
「……仕事しろよ、バカ。」
……あれ?千春もいつもリア充爆ぜろっていってたのに…なんで?
「帰りたいから早くやろ?」
「うん……。」
何か、もやもやします。
翌日――
「初野ー!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには千春がいた。
「あ、千春。おは。」
「いやもう12時過ぎたぞ。」
「今日初めて話したんだからいーの!で、何か用?」
「お前、lime見てない?」
「え、あ、ごめん。昨日寝てた。」
「はぁ……今日放課後話があるからちょい待ってて。小教室で。」
何……?真剣な表情に、少しドキッとした。
「うん、わかった。」
昨日からってか、最近私変だ。
「のの!」
「どしたの楓恋。顔赤いよ?」
「え、赤い?」
「うん。何かあった?」
どうしたも何も、千春と話しただけ……ん?
「ののちゃんに質問です。」
「あ、はい。」
「その人が他の人と仲良くしてるとモヤモヤしたり、話すとドキドキしちゃったりするのは何でですか。」
「恋、しちゃってるんじゃないの?それは?」
「……嘘でしょ。」
じゃあ私は……。
千春の事が好き?
「いやないないないない。」
「何がだよ!さっきから言葉が理解不能。説明を。」
「あー、のの……気にしないで。ちょっと一人にして……。」
「えー……まあいいけど。」
千春を好き?ないでしょ?
でも、そうでないのなら、このドキドキの正体は何?
恋なんてした事ない私に、恋したかなんてわからないけど。
もうわかってしまった。
私は、千春が好きになってしまってるんだ。
……自覚した途端、急に千春に会いたくないと思ってしまった。
恥ずかしくなって上手く話せる自信がない。
「……どうしてくれんの、ほんと。」
熱が、治らなかった。
ぼーっとしたまま午後の授業を受け、放課後になった。千春と話す時間だ。
「もう嫌だ……。」
それでも、行かなきゃ。嫌がってなんかいられない。千春に嫌われたくない……。
約束の小教室へ向かうと、千春はもういた。
「こ、こんばんは。」
「まだそんな夜じゃねえよ。」
「そ、そ、そうだね。」
「大丈夫?」
自分でも驚くくらいに緊張している。
今まで私、どうやって話していたんだっけ……?
「あー、本題。玉田って、チョコ誰にあげるか知ってる?」
また玉ちゃんの話だ。……というか、チョコ?
「え?チョコって?」
「は?お前それでも女子か。明日バレンタインだぞ。」
「え?嘘……本当だ。何にもしてない……。」
すっかり忘れていた。明日は2/14だ。
「さすが女子の男子力要員。」
「るせ。玉ちゃんが誰にあげるかって彼氏でしょ。」
玉ちゃん玉ちゃんって……少しは私の事も気にしてよ、なんてわがまま届かない。
「……だよなぁ。お前は?」
「諦めてホワイトデーにします。」
「おい!ま、お前らしいといえばお前らしいかー。」
「何で、いっつも玉ちゃんなの。」
まずい、考えすぎて口からこぼれてしまった。
「え?」
「ごめん、玉ちゃん好きなんだもんね。叶わないかもだけど、私応援してるからさ――。」
気付いたら、涙があふれていた。
「っ……ばーか!ばいばい!」
そう言って、私は走って逃げた。
「え、ちょ、初野!」
遠くで、私を呼ぶ千春の声が聞こえた。
ああ、馬鹿は私でしょ。
前からもっと、頑張ってればよかったのに……。
その夜は、色んな事を考えすぎて眠れなかった。
2/14――
「おはよ……。」
「ちょ、楓恋!くまひどいよ?」
「眠れなかった。」
「何で?」
それは、千春が気になりすぎて。
「何でもない……。」
そんな事、言えるはずもない。
やばい、眠い……。
「1時間目合同体育だけど、大丈夫?」
「あー……無理だね。保健室行ってくる。」
「りょーかい。先生には言っておく。」
バレンタイン、なのにな。
なんてことを考えながら、おぼつかない足取りで私は保健室に行った。
「寝不足なんでしょ。寝ておきなさい。」
先生に言われて、私は眠りについた。
目を覚ますと、誰かの話し声が聞こえた。
「すいません、足怪我しちゃって……。」
「あら、青井くん。保健委員なんだから気をつけて?東城くん、支えてくれてありがとう。もう戻っていいわよ。」
「失礼しましたー。」
「ありがとな、準。」
青井くんってことは千春がいるの!?
体育が終わったんだから、もう2時間目の終わりか。
戻らなくちゃいけないけど……先生、今こないでくださいぃー!
「忘れてた、初野さーん!」
……デスヨネ。
「よく寝れた?もう大丈夫?」
「ダイジョウブデス。」
「……本当かしらね。悪いんだけど、青井くんと一緒に戻ってもらってもいい?」
「え、あー……はい……。」
手当てを済ませて、私と千春は一緒に教室へと向かった。
「「失礼しましたー。」」
「足、平気?」
「大丈夫。……昨日の話なんだけど。」
今一番聞きたくないことだった。
「……何?」
その後、千春から発せられた言葉は予想外だった。
「俺、玉田好きじゃないよ。」
「はいっ!?」
え、だって好きだって……噂で聞いたんだった。誰よりも噂を信じてない私が、どうして信じたんだろうか。
「恋って恐ろしい……。」ボソッ
そんなことを呟いた。千春には聞こえなかったみたいだ。
あっという間に教室についてしまった。
「初野、ありがと。あとちょっと待って?」
「う、うん。」
そろそろ時間がやばいから早くしてください……。次漢字テスト……。
「これ。逆チョコ。」
「え?」
「……義理だから!好きとかそういうんじゃないから!ただ、その……な!うん!」
そう言って逃げるように扉を閉められた。
私は我に返って、すぐに自分のクラスへ戻った。
……やっぱりどゆことですか。
わけがわからなくて、またしても今日の授業がわからなかった。
「かーれーんー。帰るよー。また今日もぼーっとしてた。」
「うん。そーだね。」
「大丈夫?」
「うん。そーだね。」
「ダメだこりゃ。」
「うん。そーだね。」
私の頭では、理解できなかった。
なんで、逆チョコなんてものくれたんだろう。
「初野いますか?」
「お、青春くん。ぼーっとしてるから楓恋どうにかして。」
「はあ……馬鹿か。」
「え、あ、千春。」
千春の声で、自分の世界から戻ってきた。……何だか恥ずかしくて、目が合わせられなかった。
「伝えたいことがあって。」
今度は、何なんだ。
「何?」
「さっき、休み時間の言葉。あれさ……全部嘘だから。以上!」
顔を真っ赤にして言いながら、千春は走りさった。
暑かったのかな……いや今冬だろ。馬鹿だからかな。
休み時間の言葉って何だっけ。
『義理だから!』
『好きとかそういうんじゃないから。』
あーこんなん。逆にしたら……。
『本命だから!』
『好きだから。』
へー。好きってことか。
……ん?好き?誰が誰を?
千春が、私を、好き?
「えええええ!?」
「どしたの、急に叫んで。」
「ごめん、ちょっと行ってくる!」
「いてらー?」
帰りかけている千春を窓から見つける。足を怪我してる千春になら、追いつけるはずだ。
走って、彼の元へ向かった。今すぐ自分の気持ちを伝えたかった。
今の自分のままじゃ、嫌だ。勇気が出ない自分が、嫌だ。
絶対、今言わないともう言えなくなっちゃう――!
「はぁ、はぁ……千春!」
「初野!?走ってきたの?お前体力ないのに馬鹿だろ。大丈夫か?」
「……るっさいな……。言いたい……ことが……あって……。」
「……何?」
「私も……千春が好きだよ!」
「全部嘘だから」の著者は…青空晴夏さんでした!
最後までありがとうございました。




