表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Lonely girlと独りぼっちのPierrot

作者: 杜若もゅ

「どうしてこんなこともできないの!?」

認められない努力。


「バカな子はうちにいる必要ないのよ。」

消えた愛情。


「もう私の前に現れないで。」

悲しい現実。


ある日少女は飛び出した。


走って、走って。


向かい風を気にも留めずに、無心に走り続けた。


その先には真っ白な浜辺と、荒波の海。


「ここは…どこ…?」


何もないその場所が少女の不安を煽った。


「お母さん…」


浜辺に一人、立ち尽くす少女。


「どうしたの?」


そう声をかけたのは頬に涙を描いた小さなピエロ。


いつから彼は立っていたのか少女は分からなかった。


ただ、少女は誰かに自分のことを気付いてほしかった。


「もう嫌だよ…。私は、お母さんの子供になんかなれなかった…」


少女の目から雫が、一つ二つ…。


「泣かないで」


優しくピエロは言った。


その声が少女の心を潤し、心の涙が溢れ出した。


「私は…もういらないんだって!!…っお母さんにもう抱きしめてもらえない。バカな子は…もう必要ないから...。」


空に向かって泣き叫ぶ少女をそっとピエロは抱きしめた。


冷たい灰色の空に少女の声が高く高く響く中。


「泣かないで、今泣いたって仕方ないんだよ。」


少女はピエロの胸で静かに訴えた。


行き場のない、悲しみを。


満たされない、欲望を。


「ごめんなさい…。ごめんなさい…。悪い子でごめんなさい。バカな子でごめんなさい…。お母さんの理想になれなくてごめんなさい…。だからっ、だから…」


「だから…?」


ピエロは優しく問いかけた。


少女は強く目をつぶり、濡れた声で叫ぶ。


「もう一度私を愛してよ、お母さん!!」


ピエロは少女の頭をなでながら少女の冷え切った軽い体を温めた。


空気のように軽く、氷のように冷たい。


「残念だけど、もう君はお母さんに愛してはもらえない。お母さんの目に君が映ることも、声が届くこともできない。君はもう、お母さんには感じてもらえない。」


その言葉を聞いて少女はピエロの胸を何度も何度も叩いた。


悲しみはやがて怒りへと変わり。


「なんで、なんでよ…!!私はこんなにもお母さんを愛しているのに…。」


「まだ気づかないの?」


冷たく遠い灰色の空。


微かな潮の匂い、頬を差す強い風。


「君がもう、死んでしまっているからに決まっているじゃないか。」


少女は一瞬動きを止め、その後顔を上げた。


少女の目には、真っ黒の黒い靄がかかりピエロの表情が見えなかった。


「え・・・?」


「残念だけど君は家を飛び出した後、崖から落ちたんだ。」


次第に風は強くなり、浜辺に大きな竜巻がおこる。


「私、どうしたらいいの…。」


「君はどうしたい?」


ピエロは竜巻を背にして立ち上がった。


そして表裏のない満面の笑みで少女に問う。


「一つは、このままお母さんに会わずに成仏する。ただし、君に未練があれば成仏できずにずっとこの浜辺を彷徨うだろう。そう、僕のようにね。」


「あなたの、ように・・・?」


「もう一つは、もう一度君のお母さんに会いに行く。だけど、お母さんが必ずしも君を歓迎するとは限らない。さぁ、どうする?」


少女は何の迷いも見せずにピエロに告げる。


「そんなの、決まってる…。」


その瞬間、ピエロと少女は竜巻に巻き込まれた。


でも、少女は不思議と怖くはなかった。


意識が薄れていく中、ピエロはずっと少女の手を離さなかった。


目を覚ますと、赤信号の交差点に少女は立っていた。


ピエロの姿は見当たらなかった。


でも右手には、ピエロの温もりがまだ残っている。


ふと、少女の体の倍以上の大きさのトラックがスピードを上げて走るのが少女の目に映った。


「どうしよう…。」


その瞬間、少女の体に衝撃が走る。


温かさが、ゆっくりと少女の体に沁みわたっていった。


「…お母さん?」


「・・・ばか!!どうして私に心配ばかりかけるの!?あなたがいなくなってから、私は心配でしたのよ。」


女性の大きな瞳からあふれ出る雫は少女の頬を濡らした。


少女は女性を強く抱きしめた。


骨ばった体、青白い肌に乾燥した唇、目の下はくまだらけ。


「お母さん…。」


少女の目からも一粒の大きな雫が落ちた。


「こんなに痩せて…。ごめんね。もうあなたを離したりしないから。お母さんを許して」


女性は少女に泣いてすがる。


でも、少女にはいかなければならない場所があった。


そっと体から女性を離すと、少女は寂しそうな笑顔で告げた。


「私、やっぱり行かなきゃならないの。ごめんね、お母さん。」


女性は目を見開き、少女に手を伸ばした。


「待って。ねぇ、待ってよ!!」


気が付くと、少女はまたあの浜辺にいた。


でももう少女は涙一つ流してやいない。


ピエロは灰色の空の切れ目から覗く太陽を指さした。


「ほら、お迎えが来たよ。」


心なしか、ピエロの笑顔は寂し気だった。


「またね。」


少女は笑顔で、太陽の方へ一歩一歩ゆっくりと歩む。


ピエロは少女に背を向け、反対の方向へ歩いて行った。


白い砂浜が微かに濡れる。


だが、ピエロは背中に温もりを感じた。


驚き、振り向くとそこには少女の姿があった。


少女は優しく微笑んだ。


「一人は寂しいよね。私が一緒にいてあげる。」


ピエロは焦った。


あの光は一人一回しか訪れない。


それでも少女はピエロから離れなかった。


「大丈夫。二人ならきっと寂しくないよ。」


ピエロは驚いた表情を見せたが、しばらくして微笑み、少女の手を握った。


やがて二人は白い砂浜へ消えていく。


二つの足跡を残しながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ