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真の勇者  作者: 北浦十五
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勇者になる条件の続き2

紺太がようやく空腹感を満たして椀を置くと老人が木のコップにお茶のようなものを入れて差しだした。それはちょっと苦かったが今日の疲れが溶けていくような感じがした。

「薬草を入れておいた。お前の身体が弱っているようだからな」

「ありがとうございます」

紺太は素直に礼を言った。「さっきは無茶な薪割りをさせて済まなかったな」

老人の言葉に紺太はびっくりしたように老人を見つめた。

「この世の中では人は簡単に死ぬ」

老人は囲炉裏に薪をくべながら話し出した。

「生きるためには強い意志がいる。生きようという強い意志が」

「……」

「それが無いものは今を生き伸びてもすぐに死ぬ」

「だからわしはお前を試した」

「え?」

「お前に生きようという強い意志があるのかどうかをな」

囲炉裏の火がはぜた。

「お前はへこたれそうになりながらもわしの言った事をやり遂げた。だからお前を助けた」

「じゃあ、もし僕が薪を割れなかったら…」

「だがお前はやり遂げた。お前には強い意志がある。」

「……」

「しかしお前はまだまだ子供で弱い。強くなれ。もっともっと強くなれ。誰かを助けられるくらいに」

「…誰かを助ける…」

「誰かを助ければ自分も助かる。人は1人じゃ生きてはいけん。わしはお前を助けた。今度はお前が誰かを助けろ」

老人の言葉に紺太はうつむいた。

「…でも僕には人を助けるなんて…」

「お前ならできる」

老人の言葉にハッとしたように紺太は顔を上げた。老人の目はより鋭くなった。

「お前ならできる」

老人は力強く繰り返した。

「だが今のままじゃだめだ。もっともっと鍛えんとな。もし行く所がないならしばらくはここにいろ。わしが鍛えてやる」

紺太はうつむきながら考えた。僕が誰かを助ける?本当にそんな事ができるんだろうか?学校の成績はさっぱりだしスポーツもだめだ。なにより他人と接するのは苦手だ。自分の良い所なんて1つも思い浮かばない。こんな僕が誰かを助けるなんてできるわけがない。

お前ならできる、老人の言葉が頭に浮かぶ。この老人がうそをつくような人とは思えない。それなら僕にもできるんだろうか?

さっきまでの薪割りの事を思い出す。最初に言われた時はできっこないと思った。僕にはとても無理だと。しかし死にたくないという気持ちだけで斧を握った。後は何も考えずに斧を振り続けた。途中から何か楽しくなり気がついたら全部の薪が割れていた。あの時の充足感はまだ紺太の身体に残っている。こんな僕でもおじいさんの言うように鍛えれば誰かを助けられるだろうか?

紺太は思い出していた。この世界に来る原因となったと思われるあのメール。そして薄れゆく意識の中で見た銀色の髪の少女。メールにはたった一言、助けてと書いてあった。ひょっとして僕はあの少女を助けるためにこの世界に連れて来られたのではないか。はっきりとは憶えていないがあの少女はとても哀しそうな目をしていた。

紺太の心の中に何かが沸き上がってきた。それが何かは自分でもわからない。しかしその何かは紺太の心の中で一杯になった。

「おじいさん!」

紺太は半ば叫ぶように老人に言った。

「どうすれば僕は強くなれますか?鍛えるって何をすればいいんですか!」

老人はそんな紺太を見て静かに言った。

「まあ、落ち着け。焦るな」

そして囲炉裏の火を小さくするとゆっくりと立ち会がった。

「焦るとろくな事はない。今日はもう寝ろ。お前の身体はまだ弱ってる。しっかり寝て疲れをとれ」

そう言い残すと小屋の奥に消えようとした。

あわてて紺太は言った。

「今日は本当にありがとうございました。おじいさんの名前を教えてください」

老人は振り向きもしなかった。

「人に名前を聞く時は自分の名前から名乗るもんだ」

「あ、僕は紺太といいます」

すると老人は少し考えるような素振りをして振り返った。

「…コンタか。良い名前だ。わしの名はボトム」

それは紺太が初めて見る老人の微笑だった。

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