勇者になる条件の続き
紺太は老人と一緒に小屋の中に入った。そこは彼が思っていたより広い空間だった。何本もの太い柱が煙にいぶされて黒光りしていた。それはここの住人の老人のように強くたくましいものに感じられた。
小屋の中はきれいとは言えなかったが色々なものが整然と並べられていて清潔な空気に満たされていた。
「こっちに来い。座れ」
老人の声がした方を向くとそこには囲炉裏があり赤々とした火が燃えていた。
「え?囲炉裏?」
紺太は実際には見た事はないがそれはテレビの旅番組によく出てくる囲炉裏だった。
「ジェネシスに日本的な要素なんてあったっけ?」
ジェネシスはゲーム内の仮想空間だが設定は中世ヨーロッパのはずだ。もっとも普通の民家に入るなんて設定もなかったはずだから彼がその中に入ったのは初めてではあるが。
そんな彼の疑問も火の上に吊るされた鍋を見てふっ飛んだ。それはグツグツと煮えていてとても美味しそうに見えた。
紺太はあわてて駆け寄ると老人が差しだしてくれた木の椀に鍋の中身を入れてガツガツと食べだした。
「美味い!」
紺太は夢中になって食べながらそう思った。それは野菜やキノコや何かの肉を煮込んだものであったが彼はこんなに美味しいものを食べた事は初めてだった。空腹感のせいもあるだろう。しかしそれより遥かに深い理由があった。これは彼が自分の力で得た食べものなのだ。薪割りという労働をして得た食べものなのだ。これまでの彼の食事はただ与えられたものだった。自分では何もせず与えられたものを食べていた。それが当たり前だと思っていた。世界中で飢餓に苦しむ人びとがたくさんいる事はテレビで知っていた。しかしそれはあくまで多人事だった。かわいそうだな、とは思ったが自分とは関係ない事だった。それが今日自分を襲った空腹感。死ぬかも知れないと思うほどの空腹感。あぁ、これが飢餓か。あの時の紺太はそう感じていた。食べものを食べるって事がこんなにも大切でこんなにも嬉しい事だったなんて。時々のどを詰まらせ夢中で食べながら紺太は頭の片隅でそんな事を考えていた。




