勇者になる条件
初めて小説と言うものを書いてみました。まだまだ稚拙でとても小説と呼べるようなものではないと思いますが読んで頂けたら嬉しく思います。特に主人公と同じくらいの年齢の方の感想をお聞きしたいです。まだ物語は始まったばかりで先はとても長いですが頑張って書いて行こうと思いますのでよろしくお願いいたします。
そこは闇だった。 そこが何処かどのくらいの広さなのか全くわからない闇だった。 その闇の中に1人の少女が浮かんでいた。少女の長い銀の髪だけが闇の中でわずかな光を放っていた。
少女と言ってもまだ幼いあどけなさの残る顔立ちだった。年齢は13歳くらいだろうか。しかしその少女の端正な顔立ちの中で、ぎゅっとつむった目ときりりと結んだ唇からその少女の意志の強さを感じられた。 少女は両の手を胸の前で固く握りしめて何かを祈っているようだった。何を祈っているのかはわからない。ただひたすらに祈っていた。 ーぱさり 少女の銀の髪がわずかに揺れて少しながらその輝きを増したようだった。
第1章 「やった!最強召喚獣ゲット!」
紺太はベッドの上で思わずガッツポーズを作った。紺太が左手で握りしめているのは携帯電話。彼は携帯のオンラインゲームをしていたのだ。携帯の画面には赤い竜が描かれたカードが写し出されていた。 紺太は市立中学に通う中学1年生。クラスでも目立たないおとなしい少年だった。学校の成績もスポーツもぱっとしない彼はそもそも他人と関わるのが苦手だった。そんな彼だから当然友人はほとんどいない。彼が唯一夢中になっているのは携帯のゲームだけだった。「あーあ…」
紺太は右手で作ったガッツポーズを力なく開くとそのままベッドに倒れこんだ。「…また、やっちゃった…」
紺太はそう呟くと部屋の天井を見上げた。
携帯のオンラインゲームは謳い文句は無料だが実際は課金をしてより良いアイテムを入手しなければゲームの中で強くなれない。彼は今日夢中になって5千円も使ってしまったのだ。課金した金額は携帯の使用料金に上乗せされて請求されてくる。
「また、母さんに怒られちゃうなぁ」
紺太は力なく呟く。先月の携帯の使用料金を見た両親からこっぴどく叱られたばかりだ。下手をすると携帯そのものを取り上げられるかも知れない。
彼が怖れるのは携帯そのものよりもゲームができなくなる事だった。彼が夢中になれるのはゲームだけだった。学校でかわす数少ない友人との会話も大半はゲームの事だった。
「ゲームができなくなったら、どうしよう…」
ぼんやりと天井を見上げる紺太の耳に携帯のアラーム音が聞こえた。
「メール?」
友人の少ない彼にメールが来る事はほとんど無い。携帯を覗いた紺太は思わず呟いた。
「フィオリーナ?誰だこれ?」
差出人はフィオリーナと書いてある。聞いた事もない名前だ。差出人名の他には何も書かれていない。
紺太はメールを開いてみた。知らない人からのメールを開くのは危険だという認識はあったが好奇心がそれを上回った。
「え?助けて?なんだこれ…うわっ!」
紺太の持つ携帯から凄まじい光が放たれた。とても携帯から出ている光とは思えない。彼の目の前が真っ白になった。携帯の電源を切ろうとしたが眩しくてそれもできない。
紺太は思わず目を閉じた。すると自分の意識が遠くなっていくのを感じた。今は目の前は真っ暗で深い穴の中に落ちていく感覚。薄れゆく意識の中で彼は誰かの存在を感じた。
銀色の髪の少女
それが彼の最後の意識だった。彼は気を失ったまま深い闇の中へ落ちていった。
涼しい風が紺太の頬を吹き抜けた。彼はうっすらと目を開いた。ひんやりとした空気が彼を包んだ。彼は上半身を起こして大きく伸びをした。
「うーん!あれ?僕はどうしちゃったんだろう?確か携帯を見てたら急に眩しくなって……えぇっ!」
紺太は跳ね起きた。そして辺りをキョロキョロと見渡した。
「どこだ?ここ……?」
そこはどこかの高原のようだった。紺太が倒れていたのは草原の中であちこちに白樺のような林があった。遠くには小高い山々があり、その遥かかなたに真っ白な雪をまとった巨大な山脈が見えた。いずれも紺太には見覚えのない景色だった。空を見上げると太陽が眩しく輝き小鳥のさえずりが聞こえた。
「なんで僕はこんなとこに……あっ!」
紺太は自分の着ている服を見た。ベッドの上で着ていたシャツではない。しかしそれは彼にとってはとても見慣れた服だった。
「…これ、ジェネシスの服じゃん…」
ジェネシス、それは彼が夢中になってやっていた携帯のオンラインゲームである。しかもその服はゲームの最初に着ていたもので何の効果も持ってはいない。彼が苦労して集めた武器も防具も召喚獣を呼ぶカードも無い。
「僕はゲームの中に来ちゃったの?えーっ!でもなんで?」
紺太はとぼとぼと歩いていた。当てがあるわけではない。草原を少し歩くと道らしいものが見えたのでそこを歩いているのだ。道があるという事は誰かしら人がいるだろうから、ここがどこなのか聞きたかったのだ。
何度もこれは夢だと自分の頬をつねっても周りの景色は変わらない。それよりなにより彼はすごい空腹感に襲われていた。
「ゲームの中でもお腹なんてすくのかな?」
ジェネシスの中に食事をする要素なんてなかったはずだ。彼の分身であるキャラクターはいつも元気一杯で敵をやっつけていた。
「あいつらもお腹がすくなんて事あったのかな?あっ!」
紺太は目を見張った。自分が歩いている道のはるかむこうに誰かが倒れている。あれは間違いなく人間だ。紺太は思わず走り出した。他人と関わるのは嫌だったはずなのに彼は嬉しかった。自分の他にもこの世界に人がいた。ただそれだけでむしょうに嬉しかった。
「あ、あの…」
近くで見るとそれは太った中年の男性だった。自分が着ている服と同じような服を着ていてその上に毛皮のオーバーを羽織っていた。その男性はうつ伏せに倒れたまま動かない。
「あのっ、すみません。ここはどこ……」
男性に手をかけた紺太はギクリとした。冷たい。彼は自分の顔から血がひいていくのを感じた。冷や汗が身体中から噴き出す。
「うわあぁっ!」
紺太はその場にへたり込んだ。死んでる。この人は死んでいる。
「わああぁぁっ!!」
生まれて初めて人の死体を見た紺太はわけもわからない恐怖感に襲われ走り出した。とにかくこの場を離れたかった。少しでもあの死体から遠くに行きたかった。自分はゲームの中ではたくさんの人を殺してきた。それは当たり前だ。それがゲームなのだから。少しでもたくさんの敵を倒し殺す事で自分のキャラクターは強くなるし良いアイテムも手に入る。だから彼はなんの疑問も持たずに闘い殺した。しかし実際に人の死体を見たらそれは恐怖でしかなかった。
紺太は走り続けた。心臓が破裂するかと思ったがそれでも走り続けた。そして体力の限界がきてその場に倒れ込んだ。ゼイゼイと息を整えていると今度は猛烈な吐き気が襲ってきた。
「う、うえぇっ」
胃の中はからっぽだったが紺太は胃液を吐き続けた。いつまでも吐き続けた。
紺太はふたたび道を歩き始めた。初めて人の死体を見たショックはまだ残っていたが空腹感が限界に達しようとしていたからだ。太陽はまだ頭上で輝いていたがそのうち夜になるだろう。それなら今夜眠るところも探さねばならない。
さっきの死体を見た事で死を現実のものとして考えている自分がいた。今まで紺太は人の死というものを深く考えた事はなかった。テレビのニュースでは殺人事件や爆弾テロなどを毎日のように報じていたが、どこか他人事のように見ていた。自分には関係ないと思っていた。13歳の自分には死など無縁だと思っていた。しかし今は違う。このまま食べる物がなく夜に眠る所もなければ自分は間違いなく死ぬだろうと思った。僕が死ぬ?さっきの恐怖感がまた蘇ってくる。
「イヤだ。死にたくない。」
紺太はそう呟きながら歩いていた。彼の足を動かしていたのは空腹感よりむしろ恐怖感だったのかもしれない。
それを見つけた時、紺太はほっとした安堵感を覚えた。森の中に立ち登るひとすじの煙。それは間違いなく人為的なものだ。生きている人がいる!彼の足どりが早くなった。
それは大きな山小屋だった。建てられてからかなりの年月がたっているようだが柱の1本1本はとても頑丈そうだ。誰かいないかとキョロキョロしていると小屋の裏手の方から物音が聞こえてきた。紺太はあわててそちらへ向かった。
そこでは初老の男性が薪を割っていた。老人と言っても身体つきはたくましく筋肉の盛り上がった腕で軽々と薪を割っていた。その顔は白い髭におおわれ表情はよくわからなかったがその眼光は鋭かった。ちょっと怖い気もしたが生きている人間に会えた事が嬉しくて紺太は迷いなく駆け寄った。
「あの…」
紺太が話しかけたが老人は聞こえていないのか薪を割る事を止めない。
「あのっっ!」
紺太は叫んだ。すると老人は薪を割っていた斧を止め紺太の方を見た。最初に見た時より鋭い眼光だった。
「どうした?迷子か?」
老人の声には紺太が聞いた事がない威厳があった。日本語ではなかったがなぜかその意味はわかった。
「は、はい。それでなにか食べ物を」
「腹が減っているのか?」
「はい。」
「それなら」と老人は紺太に自分の持っていた斧を差し出した。
「握れ」
「は、はい」
紺太は老人の差し出した斧を握った。重かったが両手で持てばなんとか持てた。
「それでここにある薪を全部割れ」
「えぇっ?」
紺太の驚きの声など聞こえぬように老人は続けた。
「そしたらなにか食わしてやる」
そう言うと老人は立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってください!」
紺太はあわてて叫んだ。薪なんて割った事はなかった。それでなくても空腹で倒れそうなのだ。
「僕は薪なんて」
そう言いかけると老人が振り向いた。その眼光はさっきより厳しかった。
「お前は何もせずに飯を食おうと言うのか」
「……」
紺太はその迫力に押されて何も言えなかった。
「飯と言うものは働いた人間だけが食べるものだ」
老人はそう言い残すと去って行った。その背中を見て紺太は何も言えなかった。
紺太は呆然と辺りを見渡した。まだ割れていない薪が20個くらいはある。老人のあとを追おうとしたがやめた。あの老人の背中には何をも言わせない威厳があったからだ。あの様子では本当に薪を全部割らねば何も食べさせて貰えないと思った。例え紺太が死んだとしても。
紺太は泣きそうになった。実際、涙がいくつかこぼれた。しかし泣いてなどいられない。この薪を全部割らねば自分は確実に死ぬ。
「…死にたくない」
紺太は覚悟を決めて斧を握った。覚悟を決めたせいか斧は重く感じなかった。
「でえぇぇぃっ!」
紺太は両手で斧を力いっぱい薪に叩きつけた。
ガッ!
鈍い音がして斧がはじき返された。薪には斧の刃跡が残っていたが割れる気配はまるで無い。
「ちっくしょぉぉっ!」
紺太はふたたび斧を叩きつけたが同じようにはじき返された。
「このっ!このっ!」
紺太は何度も斧を叩きつけたが結果は同じだった。
それから小1時間は経っただろうか。紺太の気力も萎えようとしていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
それでも紺太が斧を振り上げた時、
「そんなんじゃダメだ!」
いきなり声がして紺太はびっくりした。いつの間にかあの老人が側に来ていた。
「お前、薪を割るのは初めてか」
「…はい」
「これを見ろ」
そう言って老人はでかくてごつい指を薪の表面に当てた。
「ここに節があるだろう。わかるか」
紺太が覗きこむと老人が指を当てた所に確かに茶色の線のようなものが見える。
「はい」
「ここに斧を垂直に打ち込むんだ。やってみろ」
「はい!」
紺太は斧を振り上げた。
「ああ、ダメだダメだ」
老人は紺太の後ろにまわると彼の腰に手をかけた。
「もっと腰を落として、両足を踏ん張れ」
「はい!」
「両手はまっすぐに伸ばせ。よし、やってみろ!」
紺太は言われるがままにさっき教えてもらった所に渾身の力を込めて斧を振りおろした。
パカーン!
薪が真っ二つに割れた。紺太は信じられないものを見るように割れた薪を見つめていたが弾かれるように老人を振りかえった。
「…割れました」
ちょっと涙声になっていた。
「男が簡単に泣くな」
老人はそっけなかったが言葉を続けた。
「お前はなかなかスジが良い。コツさえ掴めば簡単だ。後のもやっとけ」
そう言うと老人はまた立ち去って行った。
それからも紺太は薪を割り続けた。最初はやっぱりうまくいかなかったが、老人に教えてもらったようにすると割れる薪が増えてきた。
パカーン!
パカーン!
パカーン!
いつしか紺太は夢中になっていた。薪の割れる音が耳に心地好い。もはや空腹感も恐怖感も消え去っていた。額には汗がにじみ手には血まめができていたがそんな事もどうでも良かった。ただただ薪を割る事が楽しかった。こんなに楽しいのはいつ以来だろう。ゲームをしてる時?いやいや、それよりも今の方が楽しい。全身の筋肉を使ってやる事がこんなに楽しいとは思ってもみなかった。紺太には新鮮な驚きだった。
「ふう」
紺太は息をついた。気がつくと薪は全部割れていた。すごい充実感のようなものが彼の全身に感じられた。
「ほう、本当に全部割ったか」
老人が歩みよってきた。そして紺太の頭にそのごつい手をのせた。
「初めてにしちゃあ大したもんだ。よく頑張ったな。さあ、うまい飯を食わせてやるぞ」
その目には初めて見る優しさのようなものが紺太には感じられた。人に褒められるなんて何年ぶりだろう。彼は素直に嬉しかった。それと同時に忘れていた空腹感がどっと押し寄せてきた。




