96 救済の勇者編その6
「あ、勇者様じゃん。何やってんのー」
花の国の城下町を歩いていると、見覚えのある赤毛の少女が手を振っていた。
串焼きを手にこちらに駆け寄って来る。
「何か元気無いね。お腹でも減ってるの?」
「ええと、君は」
「キセア」
もぐもぐいいながら自己紹介をする赤ロールの少女。
「美味しそうですねー」
湯気の立つ串焼きの肉を、セティラが羨ましそうに見つめていた。
「あげないけど?」
さも当然と言わんばかりの真顔で拒否され、命の巫女はがっくり肩を落とす。
「後で買ってあげるわよ」
「本当ですか!リリアンさん」
「ヨダレ拭けよ」
瞳を輝かせてリリアンに迫るセティラに、オリガが呆れた。
何も言わずにブロックも肉を見つめている。
仲間達の様子に一は思わず笑みを漏らした。
「先にお昼にしよっか」
「何かおかしくない?」
屋台で食事をしながら話を聞いていたキセアが疑問を口にした。
「普通は勇者様に頼むでしょ。いい所に来てくれた!ラッキー!って」
「そういう身も蓋も無い言い方、ハジメの前ではやめて」
「だって本当じゃん」
リリアンとキセアの会話を聞いているのは一だけで、残りは全員肉に夢中になっている。
「どうして花の国の王さまは賢者さまを助けないのかな」
「他に賢者がいるからって言ってたけど」
言いつつ妖精の巫女は緑色にまみれた自称・灰の賢者を思い浮かべた。
怪しい、怪し過ぎる。
「きっとソイツが青の賢者を攫ったんだぜ」
肉を食らい尽くしたオリガとブロックが一の元へ舞い戻る。
「邪魔な賢者を花の国から追い出して、自分が城に呼ばれるためにさ」
「一理あるけど、アイツに書簡を偽造する能力が有るとは思えないわ」
リリアンの意見にブロックも頷く。
「確かに、あまり頭の良さそうな方ではありませんでしたね」
「お前が言うなよ」
セティラが真面目な顔でタレの残った串を舐めていた。
貧乏臭いと怒ったリリアンにすぐさま捨てられ、涙目になる。
「そんな馬鹿そうな奴が賢者なの?」
キセアの質問に、三妖精は顔を見合わせ言った。
「意味無く肩書きを偽る馬鹿だったわ」
「変な見栄を張る馬鹿だった」
「顔から馬鹿が滲み出てたぞ」
「どんだけ馬鹿な男よ」
「誰が馬鹿だーー!!」
馬鹿のオンパレードに耐えられなくなった男が、背後の木陰から叫びを上げた。
振り返った一同は、怒りの表情で立つ彼を目撃した。
「えっ、いつの間に!?」
驚くリリアンは勿論、誰も彼の接近に気付いていなかった。
彼は一達が城を出た後、町の者に気付かれない様に話をするつもりだった。
しかしタイミングを逃しているうちに人数が増え、ますます出辛くなってしまう。
仕方無いので木陰に隠れていたが、悪口に耐えられず出てきてしまったのだ。
「これが、馬鹿の賢者!」
「灰の賢者だ!!」
キセアの更なる追い打ちに、賢者のツッコミが響き渡った。