92 救済の勇者編その2
「初めまして勇者様。私は春嵐の巫女、リリアン」
「初めまして。虹の賢者ヴォルフェネーゼと申します」
ライン入りのリボンで髪を縛った妖精の手には、金色の杖が光っている。
もう一人は頭からすっぽりローブを被ったしわくちゃの老人。
召喚されたのはセーラータイプの制服を着た、小さな男の子だった。
「こんにちは!ひいろはじめ5さいです。よろしくお願いします」
少年は元気な声で挨拶し、二人に向かってぺこりと頭を下げた。
「ハジメ、ね。こちらこそよろしく」
妖精が可愛らしく微笑むと小さな勇者はにっこり笑った。
「勇者様。実はお願いがあってお呼びしました」
老人は跪き、少年の手を取る。
「この世界に大きな争いが起きようとしています。このままでは多くの命が失われるでしょう」
「お姫さまも?」
不安そうな表情の少年を賢者の手が優しく撫でる。
「勇者様に止めて欲しいのです。争いが起きるその前に」
「妖精からもお願いするわ。あなたは私達の希望なの」
二人の願いに、少年は真っ直ぐな瞳で頷いた。
「うん、分かった。ぜったいにみんなを助ける」
少年の強い瞳に老人は表情を和らげた。そのまま小さな手に口付けする。
「ありがとうございます。勇者様に虹の賢者の祝福を」
「勇者様にはもう一つお願いがあります」
指輪をキラキラした瞳で見つめる勇者の手に、賢者は小さな虹色の水晶を乗せた。
「私はもうすぐ寿命が尽きます。この力を弟子達に託して欲しいのです」
水晶が光を発すると少年の手に吸い込まれるように消えた。
「力を渡すかどうかは勇者様の判断に任せます。他に相応しいと思う人物が現れても同様です」
「それまで賢者様の力はあなたのものよ。くれぐれも使い方には気を付けてね」
光が吸い込まれた手を見つめていた少年は顔を上げ、力強く頷いた。
「ハジメは妖精の国で修行を終え、花の国に行く途中にあなたに会ったの」
巫女の説明を一と残りの妖精達は真面目に聞いていた。
「どこの巫女かは分からないけど、私達は大事な使命があるから送ってあげられないわ」
白い髪の巫女はリリアンの説明に反応を示さない。
「ちょっと、聞いてる?」
デジャヴを感じるセリフに他の三人も人間の巫女に視線を向けた。
玉の様な美しい肌の少女は、銀色の杖を持ったまま頭を揺らしている。
鼻ちょうちんとヨダレが綺麗な顔を台無しにしていた。
「コラッ!」
「は、はいッ!?」
リリアンの叫びで飛び起きた少女は、自分を見つめる視線に気付き頭を掻いた。
「あ、すみません。つい勉強の時間を眠ってやり過ごすクセが」
「どんな癖だよ。そんなんで巫女が務まるのか?」
両手に刃を付けた妖精が呆れた声を出すと、弓を持ったもう一人も真顔で頷いた。
妖精の巫女は脱力して肩を落とす。
「おもしろいお姉さん」
勇者だけは眠り癖のある少女に素直に笑いかけていた。