91 救済の勇者編その1
「どーしても召喚をするのは嫌だって?」
「聞いたよ、あんた一度にたくさん勇者を呼べるんだってね」
「だったら、ちょっとくらいアタシ等に分けてもバチは当たんないわよ」
白い髪に赤い髪飾りを付けた少女を、三人の魔女が取り囲んでいた。
彼女達はそれぞれ色の違う大きな帽子を被っている。
「大人しく言う事を聞いた方が身のためだけど」
赤い帽子の魔女の手には短剣、白い帽子の魔女は鞭を手にしている。
青紫の帽子の魔女は、シガレットホルダーを持ち、火の付いた煙草を向ける。
それぞれの道具には百合の紋章が刻まれていた。
「綺麗な肌に傷を付けたくはないでしょ?」
俯いた少女に三人の魔女の凶器が迫る。
「痛ッ!」
赤い帽子の魔女が手を押さえて短剣を取り落とした。
「えっ!?」
白い帽子の魔女の鞭がバラバラに切り裂かれる。
「うひゃあ!」
突然の風によって煙草の火は消え、道具も一緒に飛ばされた。
うろたえる魔女達の隙を突いて、小さな影が少女の手を引いて離れた。
「一体何よ!?」
三人が顔を上げた視線の先には、黒髪の少年が立っていた。
右手のプラチナリングにジェットの宝石が光る。
少年の両脇と頭の上には羽の生えた小人。妖精が飛んでいた。
一人は弓を持ち、また一人は鋭利な刃を両腕に。残りの一人は金色の杖を手にしていた。
「勇者と、妖精?!」
少年は背中にある木製の剣に手を掛け、魔女達に向ける。
途端に指輪が光り、魔法の力が剣に集まった。
底知れない力が小さな子供の体から発せられている。
「お姉さんたち」
黒い瞳が真っ直ぐこちらを捉えて離さない。
「帰ってください。そうしたら攻撃はしません」
妖精達も武器を向け臨戦態勢だ。
武器を手放し、人質も奪われてはどう考えても不利。
「チッ、覚えてな!」
「ユリカを舐めると後悔するよ!」
「てゆーか絶対後悔させるから!」
それぞれ捨て台詞を吐いた魔女達は武器を拾い、あるいは放棄してその場を逃げ出した。
硬い表情をしていた少年は魔女の姿が見えなくなると、ほっと肩の力を抜いた。
「よかった、逃げてくれて」
玩具の木の剣を背中に戻した少年は白い髪の少女に近付き、顔を覗き込む。
「大丈夫?」
俯いた少女は黙ったままだ。
「ちょっと、聞いてるの?」
杖を持った妖精が近付くと、少女が黙っている理由が分かった。
「・・・ZZZ」
「ハジメ、寝てるぞコイツ」
「この騒ぎで何で起きねーんだよ。つーか寝るなよ」
両脇の妖精達が呆れた声を上げ、少年が困ったように笑った。