88 咎人のコウサツ編その28
「悪い案ではないです。ただ、いくつか修正と対策が必要な部分があります」
呼び戻された魅惑の巫女は、図案を見るなり指摘した。
「まずチェッツ様にリストの管理は絶対に無理です」
「えぇー?」
真顔で否定された魔女は間抜けな声を上げた。
「リストをホケン毎に分類し集計。日数の記録と保管。当日ヨハン様に渡す物を整理出来ますか」
立て続けに事務的な単語を並べられ、チェッツは反論を封じられる。
見た目は緩い巫女だが、的確に魔女の弱点を突く。
「記録と集計はタケにやらせて、私がチェックを入れます」
「えっ、オレは酒場のマスターを」
「笑わせないで下さい。水とジュースしか出せないくせに」
「いや、魔法じゃなくてもカクテルとか作れ」
「どうしてもやりたいなら、リスト整理を終えてから閉店後にどうぞ」
自費で、とダメ押しをする。肩を落とすタケを見向きもしない。
中々サディスティックな女だ。
「利用者が増えると案内役も必要になりますね」
「あっ、看板娘ってヤツ?そこでアタシの出番が」
「アリシア様が適任と思われます。男性受けも良いのでホケンの勧誘にも向いています」
確かに。目の前の帽子の魔女よりあの女の方が色々と秀でていた。
主に容姿や体が。無論口には出さない。
タケも魔女の機嫌を損ねないよう迂闊な事は喋らなかった。
さすが日本人。空気が読める男だ。
「じゃあアタシは何をすればいいのよー」
ふて腐れ気味のチェッツがラキにもたれかかり、肩に顎を乗せる。
「勿論生贄の契約と魂の管理ですけど、これももう一人集計係が必要ですね」
魅惑の巫女が図にどんどん項目を書き連ねていく。
二人に任せ過ぎているから魔女が駄目になっていくんじゃないか?
「後は、ヨハン様の護衛です」
「はァ!?何でアタシが?」
巫女が放った言葉に、目を丸くするチェッツ。ラキは真面目な表情だ。
「この計画、ヨハン様が死ぬと全てが破綻します」
「そりゃ分かるケド、他の奴でもいいじゃない。あの野蛮な男とか」
魔女の中ではグルダは蛮族扱いだ。
ああ見えても話せば普通で、意外と思いやりもあると思うんだが。
「魔法も使えない人間ではいざという時の対応が遅れます」
「いざって何よ?殺し屋が来るとでも言いたいの」
ラキの話は自分が命を狙われる事を前提としているようだ。
「はい。例えば、悪魔とか」
「「あっ」」
魔女とタケが同時に声を出す。
そうだ。この計画は悪魔が得る魂を横取りするかもしれない。
下手をすれば王の二の舞。城での襲撃の様な事が起こらないとは言い切れないのだ。
「チェッツ様なら生贄のストックもあるので安心です」
「いや、アタシもあんな殺し屋は勘弁してもらいたいわ」
魔女アリシアの怯え様を目の当たりにしてはチェッツも楽観的にはなれない。
「うーん、もっと練り直さないといけないわね」
図面を前に三人が議論するのをしばらく眺めていたが、あまり進展しない。
席を外すと断りを入れ、自分はゴメスとグルダの元へ行く事にした。