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ファンタジアン  作者: おさかなちゃん
勇者様いらっしゃい編
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07 勇者様は小学6年生


「よくぞ来た勇者様!我は氷塊の巫女ヨルンである!」


「うん。夢でしょ、これ」


 メガネの黒髪少年が目にしているのは、スケートリンク程の凍った池に腕組みをして立つ女性。

 囲むように建てられた吹きさらしのほこらには、左右に分かれておよそ二十の大きな影。


 鎧を着た白い熊が立ち並んでいた。


 星空をバックに仁王立ちする銀髪ショートカットの女性は、毛皮のコートの下に肌着というスタイル。

 厚着なのか薄着なのか分からない恰好で少年を見つめていた。


「さあ勇者様、我と共に賢者の元へ参り、祝福を受けようぞ!」


 キラキラと光る氷のステージに星空に浮かぶオーロラ。

 物凄く幻想的な光景に、子供だけでなく大人までも目を奪われるだろう。


 だが、部屋着姿の少年は違っていた。


「僕勉強中だから早く目を覚ましたいんだけど、寒いし」


 満天の星空にも美しいオーロラにも少年は興味を示さず、手を袖に引っ込めて寒さを凌いでいる。


「ふむ、確かに勇者様の恰好は寒そうだ」


「お姉さんも寒そうに見えるけどね」


 ヨルンがパチンと指を鳴らすと、白熊の一頭が巫女と同じコートを持って来た。

 大きな熊からコートが差し出されても少年はペースを崩さす、普通に受け取る


「ありがとう」


「それでは勇者様!賢者の所へ出発しよう。なぁに、多少危険はあるが十日程で会える」


 ビシッと雪原を指す氷塊の巫女。雪が降り積もるほこらの脇には馬車が用意されていた。

 車輪には滑り止めの鎖が巻かれている。


 何だか頼りない。狼の遠吠えが聞こえると、びくりと馬が体を震わせた。


「あれ、ソリにして熊に引かせた方が安全なんじゃない?」


 雪国では犬に引かせるソリがあると少年は知っていた。

 少年の言葉に巫女はわざとらしく感じる程の驚きを見せた。


「な、なんとっ!そのような手があったとは」


「普通は真っ先に思いつくと思うけど」


 衝撃を受けた巫女はがっくりと膝をついた。鎧の熊が心配そうに駆け寄る姿がちょっと可愛い。


「すまない勇者様。我は、我は未熟であった!勇者様の知恵の足元にも及ばぬ」


「大袈裟なんだけど」


 ヨルンは素早く顔を上げると、熊に金の杖を持って来させた。


「まだ我には力が足りない。勇者様、巫女としての役目は今しばらく待ってもらえまいか」


「何の事だか分からないけど、いいよ」


「かたじけない。またお会いしましょうぞ!」


 氷塊の巫女が杖を振ると、少年はコートを残して掻き消えた。


「皆の者!すぐに取り掛かるぞ。聡明な勇者様を無傷で賢者に送り届けるのだ!」


 白熊の兵達と巫女が雄叫びを上げた。また馬が震える。




 完全に忘れ去られ、放置された馬車の上に人影があった。


 胸に大きなウサギのブローチ。帯を締めた着物風ドレスを身に纏った童顔の少女が佇んでいる。

 手にはリボンが付いた大きなウサギ型ハンマーを携えて。


「うーん、呼ばれちゃ困るんだよね」


 小豆色の髪の少女がぴょんと馬車の上で跳ねると、ファンシーなエフェクトを残して姿を消した。



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