85 咎人のコウサツ編その25
「もー、聞いてないわよー」
こっちも今知った。
「目録は残っていないのか」
「番号は振ってたけど、いちいち名前まで記録してる訳無いじゃない」
色々と用意周到な割に妙な所で抜けている。よく商売が成立していたものだ。
「名前を憶えている奴は?」
「いない事も無いけど要らない奴を蘇らせても。あ」
チェッツが何かを思いついたように言葉を止め、一拍置いてこちらを見た。
「ミルテーゼ、ってイケる?」
「知り合いか」
「んー、まあそんなモンだけど」
言葉を濁す辺り何かありそうだが、言われた様に念じてみる。
〈ポイント:残り24.8〉
>取引 レベルが足りません
>復活 使用 60ポイント
やたら高いポイントからすると、賢者か。
しかしまだレベルが足りないらしい。この取引というのは一体何なのか。
「一つ聞くが取引とは何だ」
魔女なら何か知っているかもしれない。
「あちゃー、やっぱ魂取られちゃってるよね」
「どういう意味だ」
「悪魔に魂を持ってかれちゃってるの」
成程。つまり、悪魔との取引か。
獣や魔物を狩った程度ではレベルが足りない訳だ。
「お前なら出来るんじゃないか」
人間を生贄にする魔女なら悪魔との取引も可能だろう。
「低級のなら出来なくもないケド、多分無理。絶対大物の悪魔が絡んでる」
あんなの持ってるぐらいだし、とチェッツは一人で納得していた。
「後はポイントが足りない」
「えっ、一日経ったのに足りないの?随分燃費悪いのね」
既に勇者がいるのでポイントについては知っているようだが、妙な反応だ。
「今日は狩りをしていないからな」
「狩り?お腹が減ってるってコト?」
会話が噛み合っていない。何か、おかしい。
「オレなら使い切っても次の日には回復してるッスよ」
茶髪男の声を背に、魔女が顎に手を当て考え込む。
「もしかして、命の魔法ってそーいう意味?」
魔女の言葉で察した。自分は他の勇者とは根本的に違う。
良く考えてみれば分かる事だ。
他者の命を奪って使う魔法を皆が使っているのなら、この世界は争いと殺戮にまみれている。
命の魔法が千年以上現れなかったのも、平和を乱さぬための節理が働いていたのか。
「アンタ、実はかなりヤバイ奴?」
魔女の目には明らかな警戒心が浮かんでいた。
「かもしれないが、覚えていない」
隠してもしょうがないので正直に話す。どうせ周りは犯罪者だらけだ。
少しの間黙っていたチェッツは、小さくため息を吐いた。
「そっか。じゃあホイホイとは使えないのね。計画を練り直す必要があるわ」
さすがに人身売買をするだけあって動揺はしない。
「命の魔法について、もう少し詳しく聞かせてもらえるかしら」
切り替えも早い。疑いを宿していた女の目は既に商魂に燃えていた。
「全然話が呑み込めないんスけど」
一人置いてけぼりの茶髪男は、肩をすくめていた。