79 咎人のコウサツ編その19
「近頃大臣は激務に追われているので、直接王へ報告致しましょう」
「国交再開の件か」
「ええ、いずれ民にも知らされます」
妹の件さえ無ければ喜ばしい事だろう。
早く報告をして不安から解放されたいのはゼナも同じだ。
近衛兵ともなれば城の中は自由に歩ける。誰にも咎められず王の間の扉に辿り着いた。
「おや、客人でしょうか」
ゼナが声を上げた。
王の間が閉じられている。おまけに入口に立つ兵もいない。
「不用心だな」
人払いをするとは余程親しい者なのか、それとも聞かれたくない話をしているのか。
以前自分が罪人二人を目の前で蘇らせた時の様に。
出直すかと考えているとゼナが扉に近付き聞き耳を立てた。
「おい」
何をやってるんだ。
「兜を脱げ」
聞こえないだろう。
ゼナうっかりしていた、と兜を脱ぐ。意外と天然だ。
自分も扉に近付き慎重に顔を近付けた。
王がまた妙な事を企んでいるのであれば、確認しなければならない。
知らずに振り回されるのはご免だ。
「まさかあんな小僧に谷を突破されるとはなぁ」
王だ。随分と声に覇気が無い。
「失態だな」
若い男の声。聞き覚えは無いが声の様子から王を咎めていると分かる。
「儂だって予想外だったのだ」
「言い訳は見苦しいデスよ。王サマ」
また違う声。客人は二人いる。
二人目の声を聞いたゼナの眉がぴくりと動いた。心当たりでもあるのか。
「困りますネ、余計な勇者を解き放つとは。契約に反しマス」
コツコツと靴音が響く。
「出資の減額、場合によってはアナタ自身へ賠償請求が発生しますネ」
「そいつは儂も困る。極上の勇者を手に入れたのだ。今手放すのは非常に惜しい」
ジジイの手に収められた覚えは無いのだが。
いや、そんな事よりさっきからこいつらは何の話をしている?
「なあ、儂とお前の仲だろう」
「おや?王サマと仲良しだったんデスか?」
「知らんな」
「そんな事言わずに見逃してくれ、頼む。あと少しだけでいい」
まるで王が森の国を自ら閉ざし、引き換えに財を得ている様な物言い。
相手は勇者の存在を疎ましく思い、隔離を望んでいる。
少なくともこの国の財産が、客達によってもたらされているというのは理解出来た。
「どうしマス?」
もう一人の問いに、若い男は少し考え言葉を発した。
「ならば、契約続行はこの国の巫女全員の引き渡しを条件とする」
それは、非常にマズイ。
バーン!!
砕けるのかと思うくらいの力で重装兵が扉を蹴り飛ばした。
ぶっ飛んだ片方の扉が丁度王座の直前に突き刺さり、ジジイが目を剥いた。
兜の中から怒りと殺気が撒き散らされ、王の間に剣を抜いた男が足を踏み入れた。
「王、お答えをどうぞ」
ほれ見ろ。だからこいつを怒らせたく無かったんだ。
「お望みとあらば、客人にはお帰り頂きましょう」
土に。
無言の圧力に王は思わず肩を震わせた。
客人は殺気の塊の鎧男を前にしても平然としている。
一人は白い帽子と服のマジシャン風の男。
もう一人は怒りに燃えるゼナに負けない眼力を宿した男。
黒いスーツを着たサラリーマンがゆっくりと振り向いた。