06 勇者様は小学5年生
「ようこそ!勇者様。あたしは熱風の巫女バニー。勇者様、待ってたよー」
「うさぎがいる」
「バニーガール?」
同じサカナ柄のパジャマを着て、体型の違う二人が巫女の少女のウサ耳を凝視していた。
黒髪を二つに結った女の子は愛想の良さそうなぽっちゃり系。
スポーツ刈りの男の子はすらりとした体躯をしている。
男女の顔は瓜二つで、双子であると容易に分かった。
「やった!一度に二人も呼べるなんて、賢者が見たら絶対驚くんだから」
どうやって自慢してやろうかと忍び笑いをするバニーをよそに、二人はウサ耳を注視し続けていた。
「リアルだね。可愛いし」
「そうかな。どうせ偽物でしょ」
浮かれた巫女少女には二人の会話が聞こえていない。
ほこらには彼ら三人しか存在せず、護衛の兵士の姿は無かった。
「しばらく呼ぶなって言ってたけど、やっぱ勇者様は多い方がいいよね。早速祝福してもらわなきゃ」
「貴様ァーー!!」
ズバーン!と、大きな音を立ててほこらの扉が開け放たれた。
立っていたのは予想通りの人物。
「あ、丁度い」
めりっ。
ウサ耳の巫女の顔面に金の錫杖がめり込んだ。
双子が振り返ると全身真っ赤で大きな人が投擲ポーズを取っていた。
返り血を浴びているのではないかと思うくらいの殺気を放つ賢者に、少年少女は揃って固まった。
「い、痛ったー!何すんの!?」
「こちらの台詞だ!無断で召喚を行うとはどういう事だ」
錫杖を引き抜いて顔を抑える巫女に、赤の賢者は容赦無く拳骨を食らわせた。
涙目になる少女の胸ぐらを掴み上げる。
「私は言ったはずだ。近頃襲撃を受ける巫女が多く、原因を特定するまでは勇者の召喚を行うなと」
「だって」
「言い訳をするな!巫女としての自覚を持てと言っただろう」
ウサ耳少女を離し、金の杖を拾った賢者が子供達に視線を向ける。
固まっていた二人はびくりと同時に肩を震わせた。
「申し訳ないが勇者様方、今回はお帰り頂きます」
「ちょ、ちょっと!別に送還しなくてもいいじゃない」
文句を言おうとした巫女はフードの下の眼光を受け、言葉を詰まらせた。
「っ、あのコの助けになるかと思って。初めて呼んだ勇者様だったし」
ぼそぼそと呟く巫女の少女に、賢者は大きくため息をついた。
ただの好奇心だったのなら強制送還させようと思っていたが、彼女なりに考えがあっての事らしい。
振りかけた杖を止め、少女に言葉を掛けようとした時。
「熱風の巫女、だったな」
男は現れた。
壁際の影から髑髏マーク入りのスーツを着た男がゆっくりと近付いてくる。
「前回の誘拐未遂に続き、未成年者二名の誘拐の現行犯」
巫女と賢者の前で足を止めた男の顔は、松明の光で照らされ子供達にもハッキリと見えた。
恐怖に凍り付いていないのは赤の賢者のみ。三人を守るように男の前に一歩踏み出した。
男の殺気の矛先は巫女に向けられている。
憎悪にも似た冷たい感情を受けたウサ耳少女は動けず、本能的な震えを起こした。
サラリーマンの手にはいつの間にか刀が握られている。
「刑罰を執行する」