70 咎人のコウサツ編その10
「ホントにいいの?」
「ああ」
金貨を詰め込めるだけバッグに詰めて、残りはこの家にくれてやる事にした。
元が五百枚はあっただろうから残った分でも相当な額だ。
赤の他人に渡す支度金としては太っ腹というレベルを超えている。
「何か企んでるんじゃないよね」
末っ子の巫女が疑いの目を向けて来る。まあ当然だろうな。
だが野心満々なのは王のジジイであって自分じゃない。
この金も自分を引き留めるための枷として用意されたんだろう。
「持ち歩くのも面倒だからな。余計なトラブルも避けたい」
とは言っても、バッグに入れた分も持って歩くには相応しくない大金だ。
バレたら一般人でも殺しにかかってくるかもしれない。
「そういう事なら預かるよ。使うかどうかは兄様に相談してからだけど」
妹の方が随分しっかりしている。上のやかましい奴らに渡したら大騒ぎだっただろう。
「こいつにも後で言っておいてくれ」
「分かった」
話を聞いた途端に卒倒したクリノは床の上で放置されていた。
放っておいていいと言うのでそのままにしている。
ガキが狩った獲物が一緒に並べられているので、目を覚ましてもすぐに夢の世界に逆戻りしそうだ。
言いたい事は済んだので、外へ向かって歩き出す。
「どこ行くの?」
「買い物。食事は必要無い」
ようやく自分の生活用品を揃えられる。他人のお下がりではない新品が。
左足の鉄球は城で手に入れたウエストバッグに入れた。アクセサリーに見えなくもない。
兵士用の丈夫な物を頂いたので、重さで破れる事は無いだろう。
金を手に入れ、ちょっとした観光気分で町に繰り出した。
「いらっしゃいませ。なんと!勇者様ではありませんか」
指輪を外すのを忘れていた。
呼び込みをしていた男の言葉を聞いた者が一斉にこちらを振り向く。
「勇者様ですって!?」
「まあ、この国に勇者様がいらっしゃるなんて何十年ぶりかしら」
「生きてるうちにお会い出来るとは!もう思い残す事はありません」
「勇者様!ぜひうちで買い物を」
「お食事ならこちらでどうぞ!」
「武器はいかがですか?勇者様なら掘り出し物もお見せしますよ」
「あれ?もう帰ってきた」
「勇者さま!先程はすみません!!」
入った途端に全力で謝り出したクリノに、一直線に近付き手を取った。
「えっ?ええっ!?」
慌てふためく三つ編み巫女の手に金貨を一枚握らせる。
大勢に取り囲まれて疲れ切った自分にとって、頼れるのはこいつしかいなかった。
「新しい服と下着を買ってきてくれ。それとシャンプーを頼む」
「へっ?」
「しゃんぷーって、何?」