05 勇者様は10歳
「勇者様、お待ちしていました。熱風の巫女バニーです」
「勇者様の力をぜひ貸して頂きたい」
そばかすのある金髪少女は、目の前の人物に目を奪われていた。
火のような見事な赤毛を持つ巫女と、夕日よりも赤いローブに身を包む背の高い女性。
二人は同じデザインの金と銀、色違いの杖を手にしている。
「それって、ヒーローになれって事?」
二人をしばらく見比べると、座り込んでいた女の子はスッと立ち上がる。
勝気そうな目を吊り上げ、腰に手を当てて少女は二人に問いかけた。
「ねえ、ちょっとこの子生意気そうなんだけど」
「お前よりは大分マシだろう」
ヒソヒソ話す二人と無言の兵士三人をブロンドガールは気にしていない。
大げさに胸を押さえて天を仰いだ。
「ママが言っていたわ。アナタはいつか大人になる、けれども純粋な心は捨てないでって。ヒーローの心を忘れちゃダメだって」
芝居がかった仕草で少女は膝をついた。
「離れ離れになるのは悲しいし、ママのパイを食べられないのも身が引き裂かれる思いだわ!」
急に叫び出した勇者の剣幕に、思わず兵士達も反応して剣に手をかけた。
「この子、変じゃない?」
「少し黙っていろ」
赤の賢者は金髪少女の奇行にも動じず平静を保っていた。
「でも、もう一人で生きていかなきゃならない。ヒーローは孤独だから!」
悲しんでいるのか喜んでいるのか、良く分からない勇者の語りにウサ耳が困惑気味に揺れる。
一人だけ普段通りの賢者が巫女の少女の拠り所となっていた。
立ち上がった金髪少女に近付いた賢者は跪き、彼女の手を取った。
「孤独を生きる貴方と共に歩みましょう。勇者様に赤の賢者の祝福を」
女性賢者が少女の手に口付けを落とす。屈んだ拍子にフードから美しい紫色の髪が零れた。
強い自信に溢れる少女と赤の賢者の姿は、まるで一枚の絵画の様だ。
バニーは茶々を入れる事も出来ずに見惚れている。
手には赤い輝きの宝石、ルビーの指輪が現れていた。
装飾の多い金の指輪は金髪の少女に良く似合っている。
「私と巫女の力が勇者様を災いから遠ざけ、貴方の道標となるでしょう」
「分かったわ」
大きく頷く少女の目には早くも使命感が生まれていた。
「ところで、何をすればいいの?」
「先に聞かない?ソレ」
巫女の少女の呟きが砂漠の風に乗って流れていった。