61 咎人のコウサツ編その1
「勇者さま、勇者さまー。起きて下さーい」
女の声で意識が浮上した。
氷イチゴを逆さにした様な色の頭と三つ編みが見えた。
葉の付いた棒っきれを持った妙な格好の女。いや、まだまだガキだ。
囚人服の体が石畳に投げ出されている。素足には鉄の玉。
「どうしましょう」
かき氷頭の女は動かない自分に対し、困った顔をしたり使命感に燃えたりと忙しい。
「すみません、どこかお体が悪いのですか?」
杖の様な物を置いてゆさゆさと体を揺らし始めた。
具合が悪かったら悪化するんじゃないかと思う。
ふと気付いた。
どうして全容がはっきりと分かるのか。
自分は身動き一つせず、目を閉じたままだとういうのに。
自分の顔が見える。真上からの視点だ。まるで夢の中の様な、現実感の無い光景。
もしかして、自分は死んでいるのではないだろうか。
それとも、今殺されようとしている?
女が首に手を掛けようとしたのが目に入った。
「あれ?」
ヤ メ ロ
「っー!!」
気が付くと、自分は頭を押さえて転がる女を見下ろしていた。
体の感覚が戻って来るが、まだ頭はぼんやりしている。
ああそうだ。自分は死んでいたんだ。
しかし何故だ。理由が思い出せない。
ここは死後の世界で、自分の意志や記憶まで消えてしまったのだろうか。
「おい」
目の前の女しか情報は無い。
先走らなくて良かったという思いが頭に浮かんだ。
何が良かったのだろう?
そもそも、自分はこいつを転ばせて何をしようとしていたのか。
「は、はい!?」
甲高い声が耳障りだが、堪える。
まだ口がうまく回らない気がするので、ゆっくり話す。
「ここは、地獄か?」
死んだ者が逝く場所を浮かべたら自然と口から出た。
何だろう。
死という言葉を意識すると、頭の隅がチリチリする感覚がある。
目の前の女を消してしまいたい。そんな思いが頭をよぎる。
「う~!」
だが、女が泣き出したところで焼けるような感覚は消えた。
子供の様に涙を流す間抜けな姿に、考えていた事がどうでも良くなった。
袖で涙や鼻水やらを拭う女の姿が妙に可笑しい。
「勇者さまっ、お待ちしていました。わたしは新りょくもみ」
みっともねぇなあ。
また涙を浮かべる女に抱いた感想は、ガキに対するものと大して変わりなかった。