04 勇者様は小学3年生
「えー、ようこそ勇者様。熱風の巫女バニーです。世界救って下さい」
スパーン!
「やり直し。言葉遣いがなっていない。姿勢が悪い。敬意が足りない」
「いらっしゃいませ勇者様、お一人ですか?祝福されちゃいますか?」
スパコーン!
「ここは店じゃない。ふざけるのなら丸刈りにするぞ」
「い、痛たた!耳持たないでよ!」
そこにはウサ耳を生やした赤毛の少女と、赤いローブに赤い靴、赤いマニキュアを塗った長身の女性が立っていた。
巫女の少女は銀の錫杖を、ローブの女性は金の錫杖を手にしている。
周りを砂に囲まれた石造りのほこらには、二人の他に曲剣を携えた三人の女剣士が控えている。
いやもう一人。言い合いをする二人をくせっ毛の少年がぼんやり眺めていた。
「お前は巫女としての自覚が足りない。見ろ、勇者様も呆れている」
「あんただって賢者なら杖で叩くのは間違ってるでしょーが!言葉で何とかしなさいよバカ!」
「馬鹿はお前だ。言っても分からないから叩いている」
言い合いを続ける二人を兵士達は止めない。人形のように黙って立っている。
少年も止めない。眠いし、何が何だかさっぱり分からない。
「勇者様、とにかく世界救ってちょーだい。あたし達じゃもうどーにもなんないの」
ゴツン。
「勇者様、どうかわたくし達をお救い下さい。オネガイシマス」
頭にコブを作ったウサ巫女は地面に頭を擦り付けた。いわゆるドゲザ・スタイルである。
赤い賢者は満足げに頷いた。
「お受け頂けますね、勇者様」
「う、うん」
有無を言わせぬ威圧感に、少年は素直に頷くしかなかった。
「よろしい」
機敏な動作で跪く賢者。
「勇者様、お手を」
ローブを勢い良く払って近付いた赤い女に、若干引き気味になる少年。
「どうしました?」
語り掛ける賢者の顔には、大きな傷跡があった。差し出した手にも火傷のような跡がある。
傷跡を見た少年はますます萎縮し、動けないでいる。
賢者には勇者が動かない理由が分からず、距離を詰める。その分だけ少年も後ろに下がる。
シュールな光景を見た巫女の少女は思わず噴き出した。
「ゆ、勇者様が逃げてる!あんたが怖いから、祝福出来ないっ!」
「何を馬鹿な事を言っている。私の何処が怖いというのだ」
自覚していない賢者にバニーは腹を抱えて笑った。
「どこって、全部に決まってるじゃん。デカいし!男みたいだし!祝福を断られるなんて、賢者失か」
赤の賢者は無言で金の杖を振った。
勇者は掻き消えた。
「しまった、手が滑った」
棒読みで召喚した少年を送還させた賢者に、巫女の少女が叫んだ。
「何やってんのー!?」
「いや、うっかり手が滑って」
「うっかりじゃない!あたしがどんだけ祈って勇者様を呼んだと思ってんのよ!」
「三日だ」
「三日間よ!昼夜ぶっ通しよ!どうしてくれんの!?」
「今回の勇者様には縁が無かったようだ」
「何悟ったように語ってんの!あんたのせいでしょーが!」
ぎゃあぎゃあ騒がしいほこらの外に木陰があった。
砂混じりの風が吹く大地に点在する緑の樹木。木の根元に潜む一つの影。
闇に溶け込むように存在していた男は、未遂か、などとと呟いて静かに消えた。