表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジアン  作者: おさかなちゃん
勇者様いらっしゃい編
6/333

04 勇者様は小学3年生


「えー、ようこそ勇者様。熱風の巫女バニーです。世界救って下さい」


 スパーン!


「やり直し。言葉遣いがなっていない。姿勢が悪い。敬意が足りない」


「いらっしゃいませ勇者様、お一人ですか?祝福されちゃいますか?」


 スパコーン!


「ここは店じゃない。ふざけるのなら丸刈りにするぞ」


「い、痛たた!耳持たないでよ!」


 そこにはウサ耳を生やした赤毛の少女と、赤いローブに赤い靴、赤いマニキュアを塗った長身の女性が立っていた。

 巫女の少女は銀の錫杖を、ローブの女性は金の錫杖を手にしている。


 周りを砂に囲まれた石造りのほこらには、二人の他に曲剣を携えた三人の女剣士が控えている。

 

 いやもう一人。言い合いをする二人をくせっ毛の少年がぼんやり眺めていた。


「お前は巫女としての自覚が足りない。見ろ、勇者様も呆れている」


「あんただって賢者なら杖で叩くのは間違ってるでしょーが!言葉で何とかしなさいよバカ!」


「馬鹿はお前だ。言っても分からないから叩いている」


 言い合いを続ける二人を兵士達は止めない。人形のように黙って立っている。

 少年も止めない。眠いし、何が何だかさっぱり分からない。


「勇者様、とにかく世界救ってちょーだい。あたし達じゃもうどーにもなんないの」


 ゴツン。


「勇者様、どうかわたくし達をお救い下さい。オネガイシマス」


 頭にコブを作ったウサ巫女は地面に頭を擦り付けた。いわゆるドゲザ・スタイルである。


 赤い賢者は満足げに頷いた。


「お受け頂けますね、勇者様」


「う、うん」


 有無を言わせぬ威圧感に、少年は素直に頷くしかなかった。


「よろしい」


 機敏な動作で跪く賢者。


「勇者様、お手を」


 ローブを勢い良く払って近付いた赤い女に、若干引き気味になる少年。


「どうしました?」 


 語り掛ける賢者の顔には、大きな傷跡があった。差し出した手にも火傷のような跡がある。

 傷跡を見た少年はますます萎縮し、動けないでいる。


 賢者には勇者が動かない理由が分からず、距離を詰める。その分だけ少年も後ろに下がる。

 シュールな光景を見た巫女の少女は思わず噴き出した。


「ゆ、勇者様が逃げてる!あんたが怖いから、祝福出来ないっ!」


「何を馬鹿な事を言っている。私の何処が怖いというのだ」


 自覚していない賢者にバニーは腹を抱えて笑った。


「どこって、全部に決まってるじゃん。デカいし!男みたいだし!祝福を断られるなんて、賢者失か」


 赤の賢者は無言で金の杖を振った。

 

 勇者は掻き消えた。


「しまった、手が滑った」


 棒読みで召喚した少年を送還させた賢者に、巫女の少女が叫んだ。


「何やってんのー!?」


「いや、うっかり手が滑って」


「うっかりじゃない!あたしがどんだけ祈って勇者様を呼んだと思ってんのよ!」


「三日だ」


「三日間よ!昼夜ぶっ通しよ!どうしてくれんの!?」


「今回の勇者様には縁が無かったようだ」


「何悟ったように語ってんの!あんたのせいでしょーが!」




 ぎゃあぎゃあ騒がしいほこらの外に木陰があった。

 砂混じりの風が吹く大地に点在する緑の樹木。木の根元に潜む一つの影。


 闇に溶け込むように存在していた男は、未遂か、などとと呟いて静かに消えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ