56 モモタロウ編その26
「こっちは危険よー!あっちに行ってー!」
正門から逸れたサンドワームの群れに近付き、大声で叫ぶ。
一度足を止めた魔物は方向を変えた。
「そっちはデンジャラスなトラップ地獄よ!向こうに行きなさーい!」
空を飛んであちこち移動しながら叫び続けるリリィ。
結い上げた髪がぱたぱたと尻尾の様に揺れる。
サンドワームは次々と足を止め、また歩みを緩めてじわじわと目的の場所へ向かう。
「飛んでいるのは布の力。あるいは勇者の力でしょうか」
「いいなー、うちも空飛んでみたい」
空中を縦横無尽に飛び回るリリィはどんどん速度を上げていく。
「おい!こりゃ多過ぎるぞ」
敵を正面に集めれば戦闘が激しくなるのは当然だ。
正門前で戦いを繰り広げる王と兵士達は、溢れんばかりの敵を相手にしていた。
歴戦の戦士なだけあって、多少の傷は負っても倒れる者はいない。
しかし戦い続ければいずれは物量に押し潰される。
「踏ん張れ!出来るだけ正面に引き付けるんだ」
「頑張って下さ~い!」
ノネは声援を寄越し、魔法で兵達を強化する。
賢者は魔法の布で入り口部分を大きく囲い、町への侵入を阻んでいた。
時にはワームを跳ね飛ばすなど、戦力としても活躍している。
王も負けてはいない。大きな剣の一振りでサンドワームを二・三匹まとめて薙ぎ払う。
王家の血統が優秀なのはハッタリではない。
「うち達はどうすればいいの?」
使える魔法も無く、戦力的に中途半端な巫女二人は手持ち無沙汰だ。
下手に戦闘に参加しても足手まといになってしまう。
「汰郎様の警護よ。コイは後ろをお願い」
「分かった」
汰郎の前には剣を構えたフレカ、背後にコイが立つ形になる。
万が一敵が突破した場合を考えて、いざという時には身を挺して守れるように。
彼は一枚の札を手に、先程からずっと目を閉じ集中していた。
天翔ではなく巫女二人を護衛にしているのは理由がある。
今から呼ぶモノを使うには、他の妖怪を出す余裕が無いからだ。
「ノネさん、応援を中止。賢者様は兵を引き払って下さい」
「了解した」
開眼した汰郎の指示により、賢者は金の杖を振った。
すると戦い続ける兵士と魔物の足元の地面が盛り上がり、両者を空中に打ち上げた。
中から飛び出したのは魔法の布。
魔物より軽い兵や王は高く飛ばされ、重いサンドワームは低い位置だ。
布は人だけを受け止め、賢者と汰郎達の元へと送り届けた。
「賢者様、さっすがー」
正面に立つのは魔物のみ。
汰郎は溜めていた力を開放し、殲滅のためのモノを呼び出した。
「 枯鳥」
札が光り、大きなシルエットが彼らの前に現れた。
ひび割れた赤茶色の鱗と大きな口を持ち、巨大な体躯が目の前を覆う。
現れた異形。かつて朽ち欠け竜と呼ばれた羽の無いドラゴンが口を開く。
口内を赤い光で満たし、焼けるような熱と焦げた匂いが辺りに広がる。
汰郎の命令を合図に熱線が解き放たれた。
「薙ぎ払え」