47 モモタロウ編その17
「これは旅の巫女達よ、ようこそ。砂鉄の皇子、いや今は砂漠の王ビッグスと申す」
赤毛で褐色肌の中年男が王座に鎮座している。
金の装飾と王冠が光を反射し、手には金の錫杖がある。
「我が国の婦女子達を助けて頂いた事、誠に感謝する」
「こちらこそ、お忙しい所お招きいただき光栄です」
前王が逝去されたとあって、王宮の中では慌ただしく人が行き来している。
愛人達も例外ではなく、汰郎達に同行したチコ以外は手伝いに出ていた。
跪いていた汰郎が顔を上げ立ち上がる。
「僕は森の国に召喚された桃山汰郎と申します」
「おお!勇者殿であったか。しかも森の国からとは」
汰郎の言葉を聞いて驚く砂漠の王。
長年交易を閉ざしていた隣国からやってきたとあれば、王の反応も当然だろう。
「はい。巫女や賢者様の協力もあり、国交の障害を排除する事が出来ました」
「素晴らしい!何と勇敢な娘たちだ」
本当は同行さえしていないのだが、三人は話を合わせるために黙っていた。
なぜなら汰郎が嘘を言い出したというのは、交渉を開始したという事だからだ。
「ところで王も巫女と同じ力を持つと聞きましたが」
「うむ、王家の人間は代々力を継いでいる。それも強力な力だ」
王の手にあるのは特別な力を持つ巫女に与えられる金の杖。
銅の杖を持つ三人の巫女とは比べ物にならない実力があるという証拠。
「我が国に属する紅の賢者も一族の者。姉の息子なのだ」
巫女の姉妹達はすっかり感心していた。
金の杖を持てる巫女は非常に少なく、彼女達にとっては憧れの存在だ。
気分良く語る王をにこやかに見つめていた汰郎は、とんでもない事を口にした。
「でも、それは王の杖ではありませんよね?」
汰郎の言葉に巫女達だけでなく、チコも驚いた。王は一瞬目を見開いたがすぐに豪快に笑う。
「一体何を言っておるのだ勇者殿。冗談は程々にして欲しい」
「そうだよ汰郎様。いくら王様が胡散臭そうだからって」
「コイの言う通りです~。女遊びが酷いからって疑うのは良くないですよ~」
失礼を通り越した二人の発言にチコの方が焦ってしまう。
王はおいおい巫女まで何を言う、と笑っているが杖を握る手に血管が浮いていた。
「汰郎様、何か根拠でも?」
背中に冷や汗をかきながらのフレカ問いに、汰郎は澄ました顔で答える。
「王の衣装に対して杖が地味過ぎます」
光り輝く金の杖は彼の言うようにシンプルな造形をしている。
「派手に女性を囲う性格の王が、力の象徴たる杖に手を加えないはずがありません」
巫女の少女達の杖はそれぞれモチーフで飾られている。
簡素な物でも可愛らしくしようという遊び心があった。
「煌びやかな王ともなれば、宝石でも飾らなければ釣り合わないでしょう」
「なるほど~」
「見栄を張る暇があるなら治安維持に力を注いで欲しいものです」
「あ、あの汰郎様」
「民が魔物に苦しんでいるというのに、責務を果たさないとは」
「ちょっと言い過ぎなんじゃ」
「王失格ですね」
巫女の制止をすり抜け、笑顔の口撃は王を直撃した。
ブチン、と何かが切れる音をその場にいた全員が聞いたという。