42 モモタロウ編その12
「さんどわーむとはどんな物ですか?」
彫師カムドの家で食事を終え、話を始めたリリィに汰郎が質問をした。
彼女の話では近頃砂漠にサンドワームが大量発生し、被害が出ているとの事。
話を聞いた途端に嫌悪と恐怖の入り混じる表情の巫女達。
彼女らが恐れる化け物とは一体何なのか。
少年は溢れる探求心を抑えなかった。
「うねうねザラザラよ!」
「でっかくてビチビチしてる」
「ちょっとやめて!想像させないで」
「わ、私、聞いてませんから~」
リリィとコイが汰郎に説明する横で、フレカは身震いしている。
ノネは耳を塞いで頭を振った。
「もっと詳細にお願いします」
二人の懇願と抵抗空しく、汰郎は二人から砂漠の化け物の情報を絞り出させた。
「砂漠に住む大きなミミズですか。最近というのには何か原因があるのでしょうね」
「大体四十日前ぐらいだ。それまでは大して見かけなかった」
擬音で伝えようとする少女二人では埒が明かないと、家主を巻き込んで説明をさせた。
最初は渋っていたが、少女達の騒がしさを見かねて話に参加した。
「一匹ぐらいなら一人でも退治出来るが、奴ら群れで出やがる」
おかげで行商も出来やしねえとカムドはぼやく。襲う側じゃないのかと疑いの目を向ける巫女達。
「王サマにお話したけど、色々忙しいらしくて取り合ってもらえなかったわ」
リリィは砂漠の国の王へ会いに行ったり、付近の町や村に退治の協力を願いに奔走していた。
だが結果は得られず、仕方無く一人でサンドワーム退治をしていた。
砂漠の端に位置するこの村では男手も少なく大した武器も無い。
危うく壊滅させられそうだった所に彼女が颯爽と現れ、村を救ったのだ。
「別にお前はこの国のモンじゃねえし、そこまでする必要はねえだろ」
「あら、ヒーローは困っている人を助けるものよ」
「女が一人で何とか出来る問題じゃねえ。死ぬ前にとっとと出て行くんだな」
冷たく突き放す態度にもリリィはめげない。
「大丈夫、私はラッキーガールよ。森の国へ行けるようになったじゃない」
ウィンクする金髪少女。
これで万事オッケー解決よ!と親指を立てる
「サンドワーム退治と森の国に、何か関連性があるのですか」
「賢者に祝福してもらうのよ」
「茶の賢者様に?」
フレカの疑問にリリィはキラリと目を光らせる。
「そう、魔物と話が出来る力を手に入れて、谷にいるドラゴンに協力してもらうの!」
「ええっ!それって朽ち欠け竜の事?」
「イエス!空から焼いてしまえば退治もカンタンよ。ワームと話し合いも出来るかも」
希望に燃えるリリィの様子に、巫女達は顔を見合わせた。
「ホントは和平交渉が理想的だけど、世の中ケーキみたいに甘くないのは知ってるわ!」
窓の外に向かって祈りのポーズを披露する金髪ポニーテール。
ランプの光がキラキラと髪に反射していた。
しかし、夢見がちな少女の願望は無情に打ち砕かれた。
「ああ、朽ち欠け竜なら谷にいませんよ」
「えっ!?」
彼は懐から一枚の札を取り出した。
「ここにいます。おまけにもう飛べません」
手を下した張本人が笑顔で夢を潰した。