40 モモタロウ編その10
「汰郎様ー。ほらほらっ、村だよ村!」
「良かったです~、まだちゃんとありました~」
焦がれ谷を抜けて少し進んだ位置に小さな集落があった。
朽ち欠け竜のせいで国交が途絶えてからおよそ五十年。
今まで砂漠の国の様子を知る事はほとんど出来なかったのだ。
「明かりも見えますし、廃村ではないようですね」
気温の高い時間帯を避けて出立したため、空はすっかり暗くなっていた。
この辺りは少しではあるがまだ緑が残っている。
ちらほら見える畑には砂漠の特産品、水果が実っていた。
以前砂漠から持ち込まれ、森の国でも僅かだが栽培されている。
「盗賊の巣窟になっていなければいいですけど」
「汰郎様ったら心配性なんだから。あ、無理も無いわ」
笑って否定しようとしたフレカは、村の入口を見て納得した。
入口に立っていたのは顔にタトゥーを入れた厳つい男達。先程から鋭い視線が送られている。
「どうしよっ、先手必勝?」
「やめなさい。まだ決まった訳じゃないわ」
腰の斧に手を伸ばそうとするコイを止める。
村の住人を疑って無用の争いを起こしてしまっては元も子もない。
本当に盗賊だったとしたら、正面から突っ込むなんてもっての外だ。
「いきなり襲われない事を祈りましょう」
不安を煽っておきながらずんずん進む汰郎。
「汰郎様!?」
「待って下さ~い」
「あ、うちが一番なんだからー!」
汰郎の言う通り、相手はすぐには襲って来ないだろう。
凶悪な顔の大熊に乗る子供を襲えば、自分達がどうなるかなんて簡単に予想出来てしまう。
「何だお前達は」
「旅の巫女とその護衛です」
さらりと嘘をつく汰郎。巫女達は内心驚きつつも表情には出さない。
ここで自分達が反応してしまえば、早速お供失格を言い渡されてしまうだろう。
「お前がか?」
「はい、僕がです」
訝しむ視線にいつもの笑顔で答える汰郎。
平気で人殺しをしていそうな男達に睨まれても、鉄壁の笑顔は崩れない。
巫女達はバレやしないかと気が気でない。
「どこから来た」
「森の国です。焦がれ谷を抜けて」
「冗談は止しな、あそこは魔物のせいで誰も突破できねぇ要塞だ」
「そうだ、ガキは早く家に帰りな!」
他の男達が下品な笑い声を上げる。少女達は馬鹿にされても黙っていた。
汰郎のためにも自分達が我慢しなければ、と。
「強行突破もいいかもしれませんね」
ぼそりと呟かれた言葉に目を剥く三人。
笑い声に掻き消されて男達には届いていない。
汰郎が懐の札に手を伸ばそうとした時、反対側から大きな声が響いた。
「それって本当!?私ったら何て運がいいのかしら」
村の中心にある石碑から、白い星模様の入った青いマントの少女が駆けて来た。
汰郎達の元へやってくると大きな目を輝かせる。
「ハッ!その恰好、ニンジャ?ニンジャなの!?」
大袈裟にのけ反って汰郎を指差す金髪ポニーテール少女。
手には赤いルビーの指輪。顔にはそばかすの跡がうっすら残っている。
「何ですかそれは」
「ええっ!ニホンジンでしょ!?ニンジャ知らないの??」
ハイテンションの少女に毒気を抜かれた汰郎が首を傾げる。
「知りません。そもそも貴方は誰ですか」
問われた少女は胸を張り、自信満々に答えた。
「世界を救うヒーローよ!」