02 勇者様は小学2年生
「ようこそ勇者様。わたくしは泉の巫女セティラ。勇者の力を持つ貴方をお待ちしておりました」
「勇者って、何かのゲーム?」
水色の髪で白い服を着た少女が泉の奥に立っていた。左手には凝った装飾の金の杖を持っている。
所々ヒビが入って、今にも壊れそうな小さなほこらには巫女の少女と、鎧の兵士が八人。
ネグリジェの女の子が首を傾げた。栗色の髪に乗った大きなリボンが揺れる。
「おねーさん、魔法使いなの?」
「わたくしは勇者様を招く役目を持つ巫女です。勇者様、どうかこの世界の危機をお救い下さい」
セティラの両隣に立つ兵士が小さな女の子の前に跪いた。
「あたし、勇者より魔法使いの方がいいなー」
うつ伏せで猫のスリッパをパタパタさせる女の子に、セティラが笑みをこぼす。
「もちろん、魔法の力を手に入れる事も出来ます」
「ほんと?」
「ええ、本当です。勇者様に才能があればの話ですけれども」
「じゃあ勇者になる!おねーさんが魔法教えてくれるの?」
立ち上がってセティラに近寄ると、女の子はにっこり笑った。
同じように可憐な少女も微笑む。
「いいえ、私ではなく」
「セティラ様、お話は後で。すぐに参りましょう」
セティラの言葉を遮ったのは奥の方に控えていた一人の兵士。隠し扉を開くと巫女の少女を手招きした。
「もう、ちょっとくらい勇者様とお話してもいいじゃない」
「駄目です。あの時の事をお忘れですか」
ちぇ、と頬を膨らます少女は錫杖を控えた兵士に渡し、女の子の手を取る。
「あの人がうるさいから、先に外に出ましょうね」
「じゃあねー、うるさい兵隊さん」
悪戯っぽい笑みで手を振る女子二人に、控えていた兵士達が小さく肩を震わせた。
扉の兵士が睨むと知らん顔で視線を反らす。
兵士二人と少女達がほこらから出て行くと、扉の兵士はほっと息を吐いた。
「全く、困った巫女様だ」
同意を求めるように振り返った彼は、表情を凍らせた。
彼が最期に見たのはあの日目に焼き付けたシルエット。
感じたのはぬるく湿った水と土。
最期の瞬間に聞こえたのは、少女の悲鳴。
ああ、また、守れなかった。
「ねえねえ、大きくなったら何になりたい?」
「ケーキ屋さんになる」
「あれ?前は魔法使いって言わなかった」
「ケーキ屋さん!魔法使いも、勇者も、イヤ!」