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ファンタジアン  作者: おさかなちゃん
モモタロウ編
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37 モモタロウ編その7


「これは勇者様、年寄りに何か御用かな」


「お初にお目にかかります」


 眼帯をした白髪の老人。深い皺を刻んだ顔には衰えない意志の強さが伺える。

 高貴なマントに身を包み、玉座に腰掛ける老人こそがこの国の王だ。


 傍には近衛兵のゼナと大臣が控えている。


「焦がれ谷の朽ち欠け竜と、骸骨兵の掃討をご報告に参りました」


「なんと!あれ程の魔物を討伐されたのですか!?」


 汰郎の言葉に大臣は驚いた。


 焦がれ谷の存在は人を寄せ付けず、隣国との国交を困難にしていた。

 多くの兵が犠牲になっても成しえなかった事を、こんな小さな少年が解決してしまうとは。


「素晴らしい、救済の勇者様の再来ですぞ!」


 大喜びの大臣は今にも歓喜の涙を流さんばかりだ。


「ふむ」


 報告を聞いた王は顎に手を当て、少し考える素振りをするとこう言った。


「ちょいと困ったなァ」


「は?」


 王の言葉に大臣が怪訝な顔をする。何を言っているのかという表情だ。


「いやなに、魔物を退治して頂いたのは大変感謝している。日々の憂いの一つでもあったのでな」


「何がご不満ですか。亡き兵達の無念も晴らせ、喜ばしい事ではありませんか」 


 大臣のもっともな意見にゼナも頷く。

 しかし王は自身が言うように困った表情で頭を掻いた。


「国交再開がめんどい」


 子供の様なワガママを吐いた王に、すぐさまムッキムキ大臣が怒号を飛ばした。


「一国の王が何を仰るのですかー!!」


 顔と拳に血管を浮かせた大臣が鬼の形相で王に詰め寄る。

 今にも殴りかかりそうな勢いの大臣をゼナが体を張って抑えた。ズルズルと足を擦りつつ。


「いや、あれはあれで夜盗などの侵入も防いでいた。砦の役目も果たしていたのだ」


「つまり、国境の警備や関所を新たに設営しなくてはいけないから面倒だと」


「おお、その通りだ」


 渡りに船と汰郎の意見に乗った王は大臣のアッパーで飛ばされた。



「ご心配には及びません。既に手は打ってあります」


 手当てを受けている王に汰郎は笑顔で一枚の札を取り出した。


「手を打ったとは?」


「焦がれ谷に一つ細工を施しておきました」


 汰郎の持つ札が光ると、彼の傍らに鎧の骸骨が姿を現した。

 手当てをしていた女中が腰を抜かす。


「うお!?」


「ゆ、勇者様!そ、それはまさか!!」


 王と大臣が驚き、ゼナが構えるが骸骨兵は動かない。

 掠れたエンブレムのある鎧骸骨は静かに佇み、まるで命令を待っているかのようだった。


「同じ物を大量に谷に残しました。悪意のある者が谷に近付けば発現し敵の侵入を妨げます」


 汰郎が札を持って念じると、骸骨はスッと消えてしまった。


「いかがですか?」


 驚いて玉座から転げ落ちた王を笑顔で見下ろす。


「たまげた」


 乾いた笑いで答える王。大臣は魂が抜けそうな顔で尻餅をついていた。


「ところで王様、一つお願いを聞いてもらってもよろしいですか?」


 この状況で笑顔の勇者様に逆らえる者はいないだろう。

 そう、たとえ悪魔であっても。



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