34 モモタロウ編その4
「いいこと、汰郎ちゃん。一度だけだからね。魔物退治に付き合うのは」
「分かっていますよ。賢者様を危険な目には遭わせません」
本当に分かっていたらこんな事に付き合わせないだろうに。
賢者は、前を歩く小さな勇者様に心の中でツッコミを入れる。
「僕の力がこの地でどの程度通用するのか、確認しておくだけですよ」
「だったらもっと弱い魔物で試せばいいじゃない」
街道近くの林や山中なら大した魔物は出ない。出立前の腕慣らしには丁度いい。
しかし汰郎は首を横に振った。
「雑魚を相手にして得られる程度の物に興味はありません。それに」
汰郎は懐から妖怪を封じた札を取り出した。書かれた文字は妖怪の名前らしい。
「手持ちの戦力が少な過ぎます。これらは護身用で大物相手には通用しないでしょう」
「えっ?」
「就寝前にいきなり呼ばれたので準備する暇はありませんでしたから」
入浴中じゃないだけマシでした、と呟く汰郎。
確かに呼ばれる勇者のほとんどが着の身着のまま。武器を持っている方が珍しい。
「じゃあ魔物退治の目的ってまさか」
「はい、封印して戦力に加えるためです」
にこやかに応える小さな狩猟者。しかも大物狙い。
ハイキング気分の巫女達など連れて行けないのも頷けた。
「しっかし頼り甲斐のある勇者様ね。私なんて大してお役に立てないわよ」
「とんでもない、賢者様には期待していますよ」
自虐的な笑みを浮かべる賢者を振り返る汰郎。
「もし僕が死に掛けたら、担いで逃げてもらうという大役がありますし」
「ありますし?」
「時間を稼いでくれる人がいると助かります」
やはり囮要因だったのか。
ある程度予想はしていたが、面と向かって言うのは残酷極まりない。
「大丈夫、怪我をする前に助けますよ」
「是非そうして欲しいわ」
連れて来られたのが巫女達でなく、自分で良かったと賢者は改めて思った。
純真な少女達ではきっとトラウマを残しかねない。
既に心にダメージを受けて耐性が出来ているのが、嬉しいやら悲しいやら。
「ああ、早速お目見えですよ。竜と骸骨兵達が」
両側が真っ黒に焦げた谷が狩猟目的地である焦がれ谷。
所々ヒビの入った赤茶色のドラゴン、朽ち欠け竜。
翼を休める竜の傍にはボロボロの鎧を纏った骸骨が積み重なっている。
二人が近付くと竜が咆哮を上げ、骸骨兵達が起き上がりひしめき合う。
「こんなに嬉しくない歓迎も初めてだわ」