33 モモタロウ編その3
「では、順番に自己アピールをお願いします」
三人巫女の前にはペンを持って椅子に座る汰郎。
背もたれでは彼が使役する羽と爪の妖怪、天翔が睨みを効かせている。
「じゃあ私から~。応援の魔法を使います~」
「例えば?」
「ちょっとだけ早く走れたり~、重い荷物がほんの少しだけ軽くなります~」
可愛い女の子の前なら誰でも出来そうなものである。
「はいはいっ!うちは光の魔法だよ。部屋とか明るく出来るよ」
「他には?」
「え?うーんと、洞窟とかも明るくなるよ」
ランプや松明など、代用品は山程ある。
「次は私ね。雷雲があれば雷を落とせるわ」
自信たっぷりに胸を張るフレカ。
「晴れていれば?」
「う、それは。あ!静電気ならイケる。痛いヤツ」
「・・・役立たず共が」
「えっ、今の天翔ちゃんだよね!勇者様が呟いたんじゃないよね!?」
「そうよコイ!あんな可愛い顔で罵倒する訳ないじゃない」
「み、耳の錯覚です~」
姦しい巫女達がテーブルの反対側で焦ったり、顔色を変えたりと忙しい。
扉を開けた賢者がぼんやりと突っ立っている。
「アンタ達何やってんの?人ん家で」
「お邪魔しています。ちょっとした面接というか、まずはお茶でもどうぞ」
汰郎が言うと台所からポットとカップが飛んで来た。
本当に、文字通り宙を飛んでテーブルまでやってきたのだ。
「使い込まれた良い急須でしたので、賢者様にお茶を入れたいと言っています」
「誰が?」
「付喪神が」
「あー、うん。ありがたく頂くわ」
茶の賢者は頭痛を堪えた。深く考えるだけ無駄だと己に言い聞かせる。
巫女達は特異な現象にもすっかり慣れたようで、この程度では驚かなくなっている。
「で?」
「準備も整ってきた所ですし、出立前に一度魔物退治をしようかと思いまして」
暖かいお茶で一息ついた賢者に汰郎が簡単な説明をする。
「ゼナさんに生息地を聞いている所を見つかってしまい」
「ふむふむ」
「一緒に行きたいと言う身の程知らず達の実力を確認していました」
笑顔で事実を突き付けられた巫女姉妹達は揃って肩を落とした。
彼女達は暇潰しぐらいの感覚なのだろうが現実は甘くない。
乱暴に見えるが判断は正しいと賢者は内心思っていた。
「ところで、賢者様はどこにお出かけですか」
「茶葉を採りに山へね。もうじき封印されるから無駄なんだけど、どうしても習慣でね」
彼の言葉で一層しんみりとする巫女達。
が、逆に汰郎の目にはキラリと光が宿る。
「山には魔物が出るようですが、お一人で?」
「まぁ出るって言っても多くはないし、コレで大抵は凌げるわ」
賢者のパイプが煙を吹く。
「煙で視界を塞いで逃げたり、いざって時は睡眠効果も使えるし」
賢者はカップを持っていない方の腕を唐突に掴まれた。
相手は勿論花の様な笑顔を浴びせてくる、絶世の美少年。
「賢者様、一緒に魔物退治に行きましょう」
「嫌」
即答する。
「汰郎ちゃん、何かヤバイのに挑みそうだし」
「そんな、当然じゃないですか」
当然なの!?と驚く巫女を放置して汰郎は話を続ける。
「やはり世界を救うには賢者様の様な、聡明な人材が必要ですよ。あ、野営の経験は?」
「そりゃあるけど、魔物退治よね。旅立ちの同行の誘いになってない?」
「さすが賢者様は巫女と違って察しが良いですね」
笑顔で賢者を勧誘する汰郎に、巫女達は自分達の存在意義が揺らぐのを感じた。
「勇者様、一人で世界救えそうだよね」
コイの呟きにノネとフレカは遠い目で頷くしかなかった。