322 勇者の戦い編その22
「では詳細は後日、改めて会議の場を設けさせてもらうわ」
そう言い残して悪魔上司と部下達は彼らの場所へと帰って行った。
残された魔物達は元々乗り気ではなかったのだろう。
命令する者がいなくなったと知るとすぐに城下町から撤収した。
「死ぬかと思った」
チェッツはぐったりとその場にしゃがみ込んだ。
一歩間違えれば妖精の魔法で消滅させられていたかもしれない。
同じように猫耳の中年賢者も民家の芝生にうつ伏せにへたり込む。
「もうサムライはコリゴリニャ~」
「おや、賢者ともあろう者が情けない」
「アンタも足震えてるわよ」
余裕の表情とは裏腹に灰の賢者の足はガクガクと震えていた。
「体は正直だな」
「そのセリフ、オッサン相手に気持ち悪いからやめて」
真顔で言い放つミルテーゼにチェッツは顔をしかめて抗議する。
他愛ないやり取りに、他の賢者達もようやく緊張を解いた。
「結界ば破られた時は駄目かと思っただ」
「オレもサムライに狙われた時はもう死んだと思ったね」
「間に合って良かったよ」
賢者や勇者達はお互いの無事を喜び、健闘を称え合う。
ミルテーゼとササムネは携帯電話で各国へ連絡を取り、作戦の成功を伝えた。
他の地域での争いも収束しつつある。
水の国へ避難していた花の国の民や王達も、安全が確認され次第戻る予定だ。
「それじゃあ、話とやらを聞かせて貰おうじゃない」
無人の公園に移動した彼らは藍の賢者、ゾハスに事の真相を尋ねた。
マイケルとジェームズは休憩と報告を兼ねてギルドに戻っている。
「へえ、まずはあっしが賢者になった経緯と森の国での事件についてお話ししやす」
彼は救済の勇者の言葉にどれだけ自分が救われたかを。
希望を持って生きようと決意した事を
そして王の陰謀に巻き込まれ、大切な物を失ってしまった少年の事を話した。
「ひでぇ話っコだな」
「やっぱあのジジイ、吹っ飛ばしておけば良かったわ」
話を聞いたネルグイとチェッツは怒りをあらわにする。
「バカ巫女が!」
当人を良く知るミルテーゼは憤慨して地面を叩いた。
音に驚いたテッパーが耳をピンと立てる。
「今度会ったら二度とこの世に舞い戻れないように叩き伏せてくれる!」
「どこからどう指摘すれば良いのやら」
矛盾てんこ盛りの発言にササムネは呆れた声を出す。
ロマフに宥められる彼女に対し、ゾハスは困り顔で頭を掻いた。
「そう悪く言わねえでやって下せえ。あっしの命を救ったのも、あの娘なんでさぁ」
彼の言葉に賢者達の表情が驚きに変わる。
ヨハンの他に命の魔法を使える者がいたのかと。
しかしゾハスは首を横に振った。
「あの娘が使えたのは自分の命を削る魔法でやした」
命の巫女は自身の命を使用してゾハスを生き返らせた。
勇者の召喚も、呪いを解く魔法も、寿命を縮めていたのだ。
巫女は泣きながら最期まで勇者に謝り続けたという。
「兄貴に褒められたい一心で、ただそれだけの不幸な娘だったんでさぁ」
哀れみと同情が入り混じる彼の言葉に、ミルテーゼも落ち着きを取り戻す。
「で、帰る場所を失ったってのは?」
沈んだ空気を押し切る様にチェッツが疑問を投げかけた。
「それについては私がご説明しましょうか」
「「「!?」」」
聞き覚えの無い声に上空を見上げる賢者達。
視線の先にあったのは禍々しく歪んだ空間と、こちらを見下ろしている黒衣の男の姿だった。