319 勇者の戦い編その19
「やっただ!」
七色の光が結界を包み、ランタンの中に虹色に輝く水晶が現れる。
水晶はカランと音を立てて光に溶け込んだ。
「この野郎!」
オリガが力任せに斬りかかるが、刃が弾かれ結界は破れない。
「ざまー見なさい!このまま残りの魔法も全部吸い取っちゃうわよ~」
散々手を焼いた敵にようやく打撃を与えられ、チェッツは上機嫌だ。
彼女に反対する者はいない。
この男から魔法の力を取り上げなければ、また大きな被害をもたらすだろう。
再び賢者達が道具を掲げようとした時、彼は無言で上空を見上げた。
「任せろ」
弓の妖精の手には強大な魔法の力を込めた矢が握られている。
『何をするつもりだ!?』
「無論、ハジメを救う」
激しく発光する光の矢には国一つ分程の魔法の力が込められていた。
『ま、待て!そんなものを撃ったら賢者共は消し飛ぶぞ』
「構わない。お前達が欲しい物も手に入るだろう」
ブロックの言葉に周囲の悪魔達が目を光らせた。
「えっ、あれってヤバくない!?」
上空から向けられた魔法の矢にチェッツは焦りの表情を見せる。
放出されている力は花の国を吹っ飛ばす勢いだ。
「あんなものを撃たれたら結界の外の我々は蒸発してしまうぞ」
「冷静に言ってる場合じゃないわよ!」
強力な結界を維持する以上、賢者達はこの場を離れられない。
「ちょっと!さっき撮ったシャシンは使えないの!?」
後方に向かって叫んだ彼女に、物陰から現れたマイケルが首を横に振る。
「撮影は成功したはずなんだけどさ」
彼が持つ活動写真に写っていたのは赤マフラーのサムライではない。
スヤスヤと眠る小さな少年の姿だった。
「多分役に立たない」
「どうすんのよー!?」
頼みは年寄りの頭脳だと彼女は魔女の長老の一人、ヒューナを見る。
「いないしあのクソババア!!」
逃げ足の早い魔女はとっくにこの場を去っていた。
結界と計画を放棄して。
「こんのぉ!!」
内部から妖精に斬りつけられた部分に、ほんの僅かな傷が入る。
これ以上は誰も抜けられない。
一人が離れて魔法で攻撃するという手段も使えなくなってしまった。
「どうです?結界を捨てて全員で逃げるというのは」
「駄目に決まってんでしょーが!!」
微妙に足が動いていたササムネにチェッツは青虫を投げつけた。
『やめろ!これは命令だ』
竜部長は妖精を止めるため前に出る。
確かに賢者八人の魂は花の国と同等レベルに魅力的な代物だ。
しかしそれよりも彼が手に入れたいのは、虹の賢者の力。
サムライ・リーマンから抜き取れられたあの力を、ぜひ我が物にしたい。
『お前達妖精を保護したのはあの男だが、許可は私がした!』
それに今賢者の魂をいっぺんに解き放てば、間違い無く争奪戦になる。
役立たず共には一つたりとも渡したくない。
『言わば私が、命の恩人だ!』
立ちはだかる部長に、ブロックは無感情に言い放つ。
「俺達が従うのは命を救われたからではない」
彼は標的を変えぬまま弓を引き絞った。
「ハジメへの罪滅ぼしだ」
『ま、待て!!そうだ!今ならまだ』
言いかけた部長と、矢を撃とうとしていたブロックは視界に入った人物に動きを止めた。
「今なら、何かな?」
二人と結界の間に現れたのは宙に浮く和装少女。
弓を下ろした妖精に、カグヤ・ガールはニッコリ微笑んだ。