313 勇者の戦い編その13
「頑張って~!」
ノネの応援の魔法を受けた二人は鳥の悪魔への攻撃を開始した。
猿児は両手の大鎌を左右に投擲。犬耳は拳を構え直進する。
大鎌は地面を削り、周囲の魔物を巻き添えにしながら襲い掛かる。
『生きていたのか』
ギルバードが両の羽で鎌を弾き、愚直に飛び込んだ青年の拳を片手で止めた。
『その姿は一体どういう事だ。なぜ人間共に加担している?』
足元を沈ませても整った表情を崩さない鳥の悪魔。
かつて同じ役目を負い、パラドッグスと呼ばれた青年は吐き捨てるように言った。
「好きでやってんじゃねぇよ」
「そのまま押さえとけ犬コロ!」
ギリギリと力を加え続ける彼の背後から猿児、モンドキッドが跳躍する。
「うらぁッ!」
掛け声と共に背の木箱から大量の細い鎖が飛び出し、ギルバードの翼を絡め取った。
『こんな物でワタシを捕らえたつもりか』
鉄の鎖など翼に力を込めれば簡単に砕ける。
そう思っていた彼だが、巻き付いた鎖はびくともしない。
見れば鎖には見た事の無い文字の羅列が刻まれていた。
『これは!?』
「無駄だぜ鳥野郎。何せこのオイラが捕まった鎖だからな」
焦りの表情を見せたギルバードに猿児は人の悪い笑みを浮かべた。
「さぁて、テメエもカゴの鳥になってもらおうか?」
彼は懐から何も書かれていない一枚の札を取り出し、悪魔の頭へ貼り付ける。
札を貼られたギルバードは謎の不快感に襲われた。
「偉大な汰郎様に飼い慣らされるんだ。光栄に思いな」
心にもない台詞を吐く猿児は嫌味な笑い声を上げた。
「ほこらでの召喚が終わったらすぐに仲間入りだぜ」
「おい」
『召喚だと?』
口を滑らせた少年に犬耳が注意するも遅い。
ギルバードは彼らが守るほこらに視線を向け、目をギラつかせた。
『そうか、ドゥーラクウォンを倒した勇者だな!』
二人や化け物達を操る者を殺してしまえば、森の国を護る者はいなくなる。
ギルバードは鎖を巻き付けたまま上空へ飛び立った。
「何やってんだ!」
天翔が反応して動くが位置が離れ過ぎていて間に合わない。
翼無しでも飛べるのは予想外だったのだろう。
急ぎフレカは雷を落とすため、腕を振り上げた。
『おっと、ワタシを殺してはいけないのだろう?』
「っ!」
フレカは腕を止めた。
鳥の悪魔を汰郎は、彼女の大切な主は強く所望していた。
使い魔である彼女は命令に背く事が出来ない。
『その中にいるな?』
ギルバードは封じられた翼に魔法の力を集めた。
輝く羽の色が禍々しさに染まり、大きな破壊の力が宿る。
『ほこらごと消し去ってくれる!』
拘束されたままで魔法を放てば自らも深手を負うが、彼は再生能力を手に入れていた。
「止めろ!下っ端!!」
『無駄だ!人間如きに止められはしない』
力を爆発させようとした彼の前で、フレカは一枚の札を取り出した。
『!?』
札には彼女の名が刻まれている。
風麗香と。
「私はただの人間じゃないわ」
フレカは札を手に、破壊を膨れ上がらせたギルバードへ飛び込んだ。
「汰郎様の忠実な僕よ!!」
腕を振り下ろした彼女は自分と悪魔に向けて雷を落とす。
天を揺るがす閃光と轟音が二枚の札を引き裂いた。
「アイツ、やりやがった」
猿児と犬耳、そして妹達は空中を唖然と見上げた。
視線の先には美しい羽と白い肌を持つ、桃色の髪の少女が浮かんでいる。
コイはぺたんと地面にへたり込んだ。
「本当に人間、やめちゃった」
かつて巫女だった少女の手には新たな名が刻まれた札がある。
雉香と。