28 勇者様は使役者
「こんちわ!勇者様。うち空の巫女のコイっていいます」
大きなイヤリングと首輪を付けた、短髪少女が元気に手を振った。
「はじめまして~。霊獣の巫女のノネと申します~」
アホ毛のある前髪の長い少女が礼をする。胸には大きなリボンが付いている。
「雷鳴の巫女フレカよ。勇者様、ようこそリーンバイトへ」
金髪を後ろで結った褐色の少女が、スカートの端を持って頭を下げた。
三人の銅の杖にはそれぞれ魚・象・稲妻を模した飾りが付いている。
壁画に囲まれた豪華な祭壇のあるほこらには、他に小さな人影があった。
「まさか、この僕が呼ばれる側になるとは思いませんでしたね」
少年はやけに大人びた口調で微笑んだ。
彼女達が見た事も無い赤い着物。手入れの行き届いた艶やかな黒髪。
呼び出されたのは少女の様な顔立ちの美少年だった。
「オーケー、間違い無く当たりだわ。さすが王家のほこらは伊達じゃないって事ね」
「何日も忍び込んで祈った甲斐があったね!」
「当然よ、クリノに負けてられるもんですか」
「そうだよ。お姉ちゃんとしてね」
コイとフレカがハイタッチを交わす。
「可愛いです~」
ノネは頬を紅潮させて美少年勇者を見つめていた。
少年は突然見知らぬ場所へ呼ばれたのにも関わらず、落ち着いて三人の様子を観察している。
一通り彼女達を眺めていた勇者はにこやかに話した。
「ところであなた方は、僕を誘拐して何をさせようというのですか?」
少年の腰には白木の鞘が差されている。
体躯に似合わぬ長い得物には手を掛けず、文字らしき物が書かれた紙を持っていた。
「え?」
「ゆ、誘拐?」
「?」
美少年の言葉に驚き振り向く二人と首を傾げて揺れるアホ毛。
すると突然紙が光り、少年の横に青い翼を持った人獣が現れた。
手足が短く、少年よりも幼い顔立ちのソレは三人に牙を剥き残忍な笑みを浮かべた。
「事と次第によっちゃ、この場で切り刻むゼ」
牙と爪を研ぎ澄ます羽人獣に、三人は絶句している。
一番年上のフレカが何とか言葉を絞り出す。
「あ、貴方一体」
「これは失礼、申し遅れました」
黒髪の美少年は優雅な動作で礼をした。
「僕は桃山汰郎。桃源郷を統治し、妖怪を使役する一族の長です」
少年の言葉はとても信じられる内容ではない。
が、目の前に現れた異形を使役しているのが何よりの証拠。
「長って、キミ何歳なの?」
まだ信じられないコイが尋ねると、年端もいかない少年は笑みを崩さずに答えた。
「今年で6歳になります」