27 勇者様は激レア
「この国は救済の勇者さまが最後に訪れた場所だと言われています」
賢者さまを待つ間、勇者さまにわたしの住む国をご紹介します。
お喋りをあまりしない方なので、わたしが一方的に話をする形です。
ちょっぴりお兄さまに似ているかもしれません。
「お待たせー」
細い階段からパイプを咥えた若い男性が降りてきました。
わたしは慌てて椅子から立ち上がります。
「よろしくお願いします!あの、わたし新緑の巫女のクリノといいます」
良かった、今度はちゃんと言えました。
賢者さまに祝福をして頂いて、初めて勇者さまは旅立てるのです。
「聞いてるよー、クリノちゃん。そいじゃまずはチェックしますよっと」
賢者さまはパイプの煙を勇者さまに向かって吹きつけました。
煙は不思議な色をしています。キラキラ光っているような気もします。
「ん?んん!?」
賢者さまが変な声を出しました。まつ毛ぱっちりの目を見開いています。
顔を近付けられた勇者さまはちょっと迷惑そうです。
「あの、何か問題ですか?」
わたし、また何かしでかしたのでしょうか。
「いやー、凄いわ!ホント凄いよクリノちゃん」
賢者さまに手を取られたわたしは何が何だか分かりません。
「この勇者様、命の魔法の力を持ってるよ」
「命の、魔法?」
「千年以上前に失われた命の魔法!治癒や蘇生を可能にするすんごい力!」
「ええっ!?」
そんな凄い勇者さまをわたしが?これって、夢じゃないですよね?
「王様に報告しなくっちゃ!ああ、まずは祝福が先ね」
大喜びの賢者さまが勇者さまの手を取ります。
うん?何だか見た事のあるような光景が。
ゴン、ガン。
「「ーー!!」」
わたしと賢者さまが転がりました。ああ、これって足払いだったんですね。
二度目だったので痛いけど、何だか冷静になれました。
「触るな」
どうやら勇者さまは触られるのがお嫌いのようです。
でも、祝福するにはどうしても手に口付けが必要です。
「勇者様に茶の賢者の祝福を」
妥協に妥協を重ねた結果、皮手袋をした勇者さまの手に口付けする賢者さま。
物凄く不機嫌な顔です。無理もありません。
勇者さまの指には虹の様な色の宝石が光っています。
「私と、巫女の命がある限りどんな者とも言葉を交わ」
「邪魔だ」
ぽいっと、指輪を放り投げた勇者さま。
「勇者さま!指輪が無いと魔法が使えません」
すぐに指輪を拾ったわたしは、勇者さまに差し出します。
ああ、でも受け取ってもらえません。勇者さまは黙ってこちらを見ています。
「そんなに大事ならお前にやる」
スッと勇者様は指輪を奪い、わたしの指に通しました。
えっ、まさか、これって。告白?
勇者さまはさっさと賢者さまの家から出ていきます。
「って違うにきまってるじゃないですか!勇者さま、待って下さーい!」
歩幅の大きい勇者さまを急いで追いかけました。
やっぱりわたしって、巫女に向いていないと思います。
「何なの?あの勇者」
うう、賢者さますみません。全てわたしのせいです。