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ファンタジアン  作者: おさかなちゃん
勇者様いらっしゃい編
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24 勇者様はお嬢様


「貴方様をお待ちしておりました。私は鈴蘭の巫女、エーミット。よろしくお願い致します」


「これはご丁寧にどうも」


 良質な素材のワンピースを着こなした少女がぺこりと礼をする。

 美しい黒髪と黒い瞳は整った顔に良く映え、上品さを引き立てていた。


 ワンポイントのアクセサリーは本物の宝石。

 見るからに良家のお嬢様といった佇まいに、賢者の心がざわついた。


「勇者様、どうか世界の危機を救うため力をお貸しください」


 金髪巫女と黒いお嬢様。

 並んだ二人は作り物の様に美しい笑みを浮かべていた。


「わざわざお呼び頂いたのです。お受けしたいのはやまやまですが」


 言葉を切り、思案する黒髪の少女。


「お父様のお許しが必要なのです。わたくし一人で決める訳にはまいりません」


 申し訳なさそうな笑みを浮かべる少女に、エーミットは落胆を表には出さず頷いた。


「そうですか、仕方ありませんね」


「ではお帰り頂こう」


 巫女が声を掛ける前に一歩踏み出した赤の賢者は、毛玉の付いた金の杖を振った。


「ごきげんよう」


 上品な少女は優雅に手を振っていた。




「いかがされたのですか、賢者様」


 少女が消えた後、鈴蘭の巫女はいつもとは様子の違う賢者に声を掛けた。

 帰還を了承していたのは確かだが、今のは少々強引ではなかったか。


 伝統と秩序を重んじる赤の賢者らしくない。


「すまない姫巫女。今の勇者様を迎え入れるのは危険だと判断した」


「危険。もしや、例の襲撃を危惧しているのですか」


 エーミットは巫女が襲われるという噂を聞いた事がある。

 最初はただの噂話だと思っていたが、最近ではこの国近辺でも目撃情報がある。


「ああ、今のは恐らくニホンジン。しかも裕福な家庭の生まれだろう」


「ニホンジン?」


 頷いた赤の賢者は後ろに控えていた小さな影を振り返る。

 同じ色のローブをすっぽり被った人物は賢者より大分小さい。


 持っていた大きな鞄から皮の手帳を取り出し、賢者に手渡した。


「その方は?」


「私の弟子だ。まだ未熟な見習いだがな」


 赤の賢者が手帳を受け取ると、ぺこりと礼をして下がった。


「巫女の話や裏に詳しい者の情報から推測し、私なりに出した襲撃の条件だ」


 賢者が手帳を開いて巫女に見せる。

 記されていたのは様々な勇者の容姿、及び襲撃の有無。


「黒髪のニホンジンという人種。そしてミドルクラス以上。この二つが最も危険が高い」


「確かに、今の勇者様は髪が黒く上流の家庭の者のようでした」


「姫巫女、貴方は前回黒髪の少女を呼んだ」


 巫女は大泣きしていた少女を思い浮かべた。

 あの時は良く観察していなかったが、身なりは悪くなかった。


「今回で二度目だ。すぐに返さねば襲撃者がやって来ると思い帰還を急いだのだ」


 だからあのように強引とも思える手段を取ったのかと巫女は納得した。


「すまなかった」


「いいえ、私の身を案じて下さっての事。感謝致します」


 繕ったものではない笑みを浮かべたエーミットに、赤の賢者も表情を緩めた。


 が、全ては遅かった。


 ガチャガチャと、金属が擦れる音。幾つもの何かが転がる音が響いた。

 巫女の目に映ったのは、倒れ伏す兵士達の後方にあった人影。



「悪いが、アウトだ」



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