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ファンタジアン  作者: おさかなちゃん
勇者様いらっしゃい編
17/333

15 勇者様は20歳


「助けて下さいっ!」


 アリシアは体格の良い青年の胸へと飛び込んだ。


「わたし、朝顔の巫女のアリシアっていいます。怖い人に狙われているんです」


 か弱い少女を演出するために透けた服ではなく、清楚な格好のアリシア。

 相手が男だと分かるとすぐに駆け寄って密着する。


「このままじゃわたし、殺されちゃう!」


 悲痛な表情で訴えかける美少女。周りを見れば墓石がいくつも並んでいる。

 少女には似つかわしくない場所だ。とりあえず今の所、人の気配は無い。


「分かった、ちょっと落ち着いて」


 青年は纏わりつく少女を一旦離れさせた。このままでは身動きが取れない。

 大人しく言う事を聞く少女は、不安げな顔で銅の杖を握っていた。


「あのっ、手を繋いでもいいですか?」


「いや、歩きにくいし」


 いまいち誘惑に乗ってこない青年に手を焼きながらも、表情には出さないアリシア。


「この先に賢者様がいます。祝福を受けて勇者様になってもらえませんか」


「いいよー。どうせ夢だし」


 あっさりと受け入れる青年に拍子抜けする。せっかく色々準備したというのに。

 しかし了承を得たのだから問題は無い。とっとと賢者の所へ連れて行ってしまおう。


「ありがとうございます!あと、勇者様。一つだけお聞きしてもいいですか」


 その前に確認しておかなければならない事がある。アリシアは屈託の無い笑顔で青年に声を掛けた。


「ホケン、って知ってます?」


「そりゃ保険くらいは入ってるけど。え?夢の中で勧誘されるってどうなの」


 突然不信感丸出しになる青年に、アリシアも困惑した。何かおかしな事を言っただろうか。


「わたし、聞いただけで分からないんです。どういう物ですか?」


「え?やっぱ健康保険とか生命保険とか、そういや何とか誘拐保険ってのがあったな」


「ユーカイホケン?」


「俺も入ってて、すげえ高いから来年には解約するって親が言ってたけど」


 青年の言葉を聞いた途端、アリシアに寒気が走った。

 つい最近感じた事のある、冷たい視線。


「朝顔の魔女、アリシア」


 すぐ近くの墓石に黒いサラリーマンが立っていた。ゆっくりとした言葉に殺意が滲み出でいる。


「三度目だ。いくら魔女でもこれ以上巫女の真似事は許されない」


 スッと、逃げ道を封じるかのように反対側に刀が現れた。


「勇者様、助けてっ!」


「って言っても、まだ勇者じゃないし」


 慌てて背に回り込むアリシアに青年は緊張感の無い声で答えた。

 夢だと思い込んでいるので当然だろう。


 青年を盾にしても男と刀に挟まれている状況は変わりない。このままではゾンビのように切り刻まれてしまう。

 髑髏スーツ男の視線が青年に向いた隙を突いて、アリシアは杖を地面に突き立てた。


「えいっ!」


 途端に墓場から大量の朝顔のツルが飛び出した。

 青年の手を引いて少女は朝顔の檻を抜け、緑のドームから脱出した。


「ふふ、今回はこっちも罠を用意させてもらったんだから」


 男は刀を引き寄せ、朝顔のツルに斬りかかったが衝撃があるだけで破壊出来ない。


「無理無理、魔法の力じゃないと壊れないよ。それにね」


 朝顔の花から霧のようなものが噴き出した。


「毒か」


 冷静に花から距離を置く男だが、辺り一面から霧状の毒がどんどん広がっていく。


「早く脱出しないと死んじゃうよ。さ、勇者様。早く逃げましょう」


 青年の手を引いたアリシアは上機嫌で足を踏み出そうとした。



「はーい、ちょっとどいてねー」


「へ?」 


 ぽこーん!とファンシーな音と共にアリシアは吹っ飛ばされた。

 衝撃を受けた瞬間見えたのは、ピンクのウサギハンマー。


 続いてハンマーからはウサギの光弾が発射され、男を閉じ込めていた檻を破壊した。


「おまたせー、サムライリーマン」


 ふわりと着地したのはウサギブローチが印象的な、和を感じさせる少女。

 小豆色の髪を輪の様に結った、顔に幼さを残す美少女だった。


「良いタイミングだ。カグヤ」


 解放された男は落ち着きを保ったまま、ボロボロの朝顔の檻を蹴り崩した。

 墓石の間に挟まったアリシアに刀を持ったサラリーマンがゆっくりと近付く。


「え、ちょっとやめ。いや、何でもないです!」


 止めようと口を開いた青年を一睨みで黙らせた彼は、アリシアを見下ろしいつもの台詞を吐いた。


「刑罰を執行する」




 布団の中で目覚めた青年は、夢で見た美少女の余韻に浸っていた。


「カグヤ・ガール、可愛かったなぁ」


 時計を見てまだ起きる時間ではないと分かると、青年は再び眠りへと落ちていく。

 テーブルには保険更新のパンフレットが上がっていた。



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