14 勇者様は19歳
「はーいっ!勇者様、朝顔の巫女のアリシアでーす」
ウィンクをして悩殺ポーズを決める美少女アリシア。
ところが、相手は誘いに乗ってこない。パジャマ姿でぼんやりと少女を見つめている。
「何だ、夢か」
「ちぇ、女か。紛らわしい」
声で女だと分かると、アリシアはあからさまに不満の表情を浮かべた。
ショートカットの黒髪女の顔は中性的で、黙っていれば少年の様に見える。
「まあ一応やっとこうか。張り合い無いけど」
誘惑モードから切り替えた少女は銅の杖を握り直し、パジャマの女へ向き直る。
「勇者様、わたしに命を下さい」
芝居も騙しも無いどストレートな要求。可愛い笑顔で。
「いいよ」
「はいはーい、じゃあ賢者様。無理矢理」
流れ作業の如く片付けようとしていたアリシアは、意外な返事に動きを止めた。
言葉の意味を反芻する。
「えっ、いいの!?」
「いいよ別に。生きてても楽しくないし、食費とか保険料も要らなくらるし」
真顔で言う女の声は平淡で、だからこそ本気が感じられた。
戸惑う少女に老婆が呆れた声を出す。
「本人が言うならいいじゃないか」
「そうだけど、罠とかじゃないよね?あのおっかない奴の」
ここまで抵抗が無いとかえって不安になる。
「たまにこういうのもいるのさ。未来に希望を持てない若者というヤツがね」
「何でそんなのが勇者として呼び出されるのよ」
「そりゃあお前の力量不足さ」
持っている杖を指されたアリシアはムッとしたが反論はしない。
賢者の言う通りだからだ。
「あのさ」
「何?あ、やっぱり嫌だよね!もう少し足掻いてみる?」
嬉しそうな顔をするアリシアに、パジャマ女は無表情のまま指差した。
「おっかないのって、あの人?」
「へ?」
振り返ったアリシアの後ろに、例の黒い男が無言で立っていた。
「うーわー!?いるじゃん!!やっぱり罠じゃないの!」
勢い良く飛び退いたアリシアは、賢者に恨みがましい視線を送った。
だがやはり、紫の賢者は一足先に逃げ出していた。老婆とは思えないダッシュで。
「ちょっ、このババア!あたしを置いていくなー!」
墓石を乗り越えて偽装巫女も脱兎の如く駆けた。
赤マフラーの男は、逃げた二人を追わずパジャマ女を見下ろしていた。
無気力に墓場に座り込む女は、特に恐怖も感じずにいる。
サラリーマン風の男はシンプルなイヤホンマイクで通信を送った。
「カグヤか、一名回収した。ああ、例の魔女だ」
少し間を置いて、彼は一言付け加えた。
「適正検査を要請する」