10 勇者様は15歳
「貴方様をお待ちしておりました。私は鈴蘭の巫女、エーミット。よろしくお願い致します」
「オーケーオーケー、ドッキリか」
帽子を被った肌の黒い少年は、目の前の可憐な少女と周りを見渡すと大袈裟に首を振った。
透き通るような白い肌と花飾りを頭に乗せた金髪の巫女。
翡翠のような瞳を持つ彼女の手には、植物が絡みついた銀の杖が光っている。
大理石で彩られた広いほこらは、聖堂のように静まり返っていた。
巫女の他には鎧を着た十数人の兵士が控え、見事な髭を蓄えた男が豪華な椅子に座っている。
「随分凝ってるじゃん。ドラマのセット?どんなストーリーか教えてよ」
軽い調子の少年に巫女は表情を変えぬまま淡々と述べた。
「私がお呼びしたのは他でもありません。勇者様、どうか世界の危機を救うため力をお貸しください」
「勇者!いいね、ファンタジーは大好きだ」
パチンと指を鳴らす少年はエーミットにウィンクをした。
巫女は応えず、髭男へ向き直る。
「では賢者様、祝福をお頼みします」
「勿論お受けしましょう。姫巫女様」
緑の燕尾服を着た髭の賢者はツカツカと少年に近寄り膝をついた。
「勇者様、お手を」
「えー、まさかキスすんの?これってやらなきゃダメ?」
巻き毛の髭もじゃ男だよ、と巫女にアピールするも無視される。
「どうせならエイミーがやってくれればいいのに」
「エーミットです」
「はいはい、手を出せばいいんだろ」
嫌々手を出す少年に賢者は気分を害した素振りも見せず、口付けを落とした。
「勇者様に灰の賢者の祝福を」
「緑じゃないの?」
ツッコミを入れる少年の手には褐色の宝石、ジルコンの指輪が与えられた。
祝福を終えた灰の賢者は、椅子に立て掛けていたステッキを手にする。
「姫巫女様、約束の物を」
「分かっています」
巫女が兵士に視線を送ると、用意していた革袋を賢者に手渡した。
その場で中身を確認した賢者は満足げに頷くとほこらの出口へと歩を進めた。
賢者が歩き出すと豪華な椅子は煙のように消えてしまう。
「ワオ!今のは凄いね。どんなトリックだろう」
驚いて見せる少年に少女は興味を抱かず、代わりに一人の兵士が荷物を持って歩み寄った。
「何これ、記念品?」
「路銀と食糧です。勇者様の旅立ちには必要でしょう」
「ああ、そういう事。分かった、ここから出ていけばいいんだろ」
荷物を受け取った少年はほこらの出口へ向かった。
「バーイ、結構楽しかったよ」
「ここは何処なんだよ!?」
数時間後、少年はほこらに舞い戻った。
が、儀式を終えたため既に誰も残っていなかったのは言うまでもない。