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ファンタジアン  作者: おさかなちゃん
勇者様いらっしゃい編
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08 勇者様は中学1年生


「よくぞ再び参られた!勇者様、氷塊の巫女ヨルンがお待ちしておりましたぞ!」


「お姉さん、変わってないね」


 ほこらに作られた氷の台座に立ち、少年を見下ろすのはまばゆい銀髪。

 雪原地帯にヘソ出し巫女が待ち構えていた。相変わらず白熊を引き連れて。


「勇者様は変わられたな。背も伸びて、凛々しくなられた!」


「お姉さんには敵わないよ」


 メガネの少年は以前の部屋着ではなく、しっかりと防寒具を用意している。


「ふふ、そう褒めるでない」


 褒めてないけどね、という少年の呟きは巫女には届かなかった。

 ヨルンは台座から飛び降り、少年の手を取った。


「勇者様、準備は万全だ。見よ!」


 彼女が指した方角には巨大なソリが用意されていた。ソリを引くための熊六頭はそのまま護衛の兵にもなる。


「これなら賢者の元へ三日で行ける。安心して我と共に来るがよい!」


「試験走行済みなんだ」


「無論だ!賢者にも見せてやった。奴も勇者様の知恵に感心していたぞ」


 胸を張る巫女は本当に誇らしそうにしている。

 だが、少年の次の言葉で彼女は固まった。


「そのままソリで連れて来れば良かったのに」


 三日もかかるんでしょ?と言うメガネ少年の声が、巫女の頭の中にこだました。


「お姉さん?」


 笑顔のまま固まるヨルンは、数秒間をおいて振り向くと少年の肩に手を置いた。


「我は、どこまで愚かなのだー!」


 崩れ落ちそうな巫女を少年は慌てて支えた。


「勇者様に指摘されずとも気付くべきだろうに!救いようの無い大馬鹿者だ!」


「何もそこまで自分を責めなくても」


「賢者も賢者だ!どこが賢い!?我と同じアホではないか!」


 巫女がソリを睨むと、金の錫杖が彼女の元へと飛び出した。


「勇者様!我に最後のチャンスを与えてくれ!次こそは勇者様に値する巫女となる。必ずだ!」


 前にも同じようなセリフを聞いた様な気がするが、少年は暖かい眼差しを巫女に送った。


「うん、待ってるよ」


「なんと慈悲深い言葉!氷塊の巫女は勇者様をきっと満足させてみせる!」


 感動の涙を流しながら杖を振り、勇者を帰還させた巫女は己の頬を叩き気合を入れた。


「我は巫女なり!勇者様のために全身全霊を捧げるのだ!」


 コートを翻して白熊の元へと向かう巫女の瞳には闘志が燃えていた。


「まずは賢者をぶちのめす!勇者様をお迎えするのはその後だ」


 目的を見失い気味の彼女を止められる熊はいない。

 賢者も巫女に殴り込まれるなど夢にも思っていないだろうに。




「この調子で諦めてくれないかなぁ」


 少女の呟きは降り積もる雪の中で静かに響いた。


「殺さずに済むのが、一番いいからね」



 熊の兵士達が気付く前に、気配は消え失せた。



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