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魔王様はハッピーエンドを望む  作者: あられうす
第一幕:魔王の現界 ~幼少期前編~
7/7

6話:桜家の日常2

なんとか6話書ききりましたが、だいぶ集中力がかけています。

おそらく誤字脱字がひどいのではないかと思いますが、翌日見直して修正します



翌日、本日は日曜日。

今日も今日とて桜屋はおかげさまで繁盛している。

カウンター席は少し空席があるものの、テーブル席は全て埋まっているといった状態。

やはり本日も『仲良しおばさん衆』の4人も来ており、先程注文された料理を出したばかりだ。

各々ランチタイムに花を咲かせている様子である。



「じゃあ聖司、これいつもの所にお願いね?」


「はい了解」



美代子に手渡されたのは風呂敷に包まれた手荷物。

手荷物といっても対した重さではない。

風呂敷包みの中身は2つの弁当。


『桜屋』特製日替わり幕の内弁当である。


なぜ我が弁当を持っているか。

基本的に『桜屋』では仕出し弁当を作ってはいない。

にも拘らず仕出し弁当を作って届けるのには理由がある。


以前、我が『桜屋』を手伝うとゴネていた際、最後のひと押しをしてくれた人物を覚えているだろうか?

そのひと押しをしてくれたのは今現在、店内で昼食を摂っている『仲良しおばさん衆』の4人。


そして『紫藤家の老夫婦』である。


我は今からその紫藤家へ弁当を届けに行くのである。

紫藤家はこの『桜屋』のある佐保姫町アーケード街西出入口のすぐ近くだ。

子供である我の足でもそう遠くないのだ。

風呂敷包みを持って外に出ようとする我の姿を見たためであろう。

伊藤さんが声をかけてきたのだ。



「あら、聖司くん。風呂敷包み持ってるってことは『紫藤』さんのところに行くの?」


「そうです。あそこのお爺さんとお婆さんこの時間だとまだ稽古の途中ですので」


「気をつけて行っておいでねー」


「はーい」



伊藤さんに返事をした後、店を後にする。

さて、今から向かう『紫藤』さんの家なのだが、宅というよりむしろ邸といってもいい。

かなり大きな家だ。

昔この佐保姫町が城下町として栄えていた。

その影響だと思うが、紫藤邸は古くからのお武家さんの家らしい。

そして佐保姫町有数の地主でもあるとのことだ。


先の話に戻るが、なぜ弁当を届けるのかということなのだが、紫藤邸の老夫婦は道場を開いている。

毎週日曜日の朝から昼過ぎまでという時間帯である。


お爺さんである『紫藤巌志しどうがんじ』さんは紫藤流古武術の師範をしている。

門下生もそれなりにいるらしい。

我もまだその紫藤流古武術というのをお目にかかったことはないが、老齢にもかかわらずかなりお強いらしい。

元々アモンとしての我はあまり武器を使わず、体術と魔法を使って戦うため、古武術というのには非常に興味がある。


お婆さんである『紫藤さよ』さんは生花と茶道の先生をしている。

いつも『着物』という服を着ている人なのだが、とても良く似合っている。

あちらの世界(エタニティアーク)には『着物』がなかったため、余計に見えるのかもしれないが、女性は『着物』の方が美しい。

我としてはドレスよりも『着物』方が上等な物に思える。


というようなお二方なのだが、日曜の昼時はまだ稽古の途中である。

稽古が終わるのが大体昼の1時半頃なのだが、その後稽古の後片付けをしていると昼の2時を回ってしまうのだそうだ。

『桜屋』は昼の3時になると店を一旦閉めて夜の部の仕込みに移ってしまう為、料理の提供ができなくなってしまう。

仮に仕込みまでに間に合ってもゆっくりと食べる時間がない。

そこでこの『桜屋』特製日替わり幕の内弁当の出番というわけである。


これなら稽古の片付けが終わった後でも温め直して食べることができる。

さよさんも稽古が終わってから昼の用意をするのは手間らしく、日曜日はいつも『桜屋』の弁当だ。

ありがたいことである。


話は変わるが『電子レンジ』は便利なものだ。

『あたため』というボタンをピッと押すだけでチンと鳴ったら中に入れたものが温まるのだから。

弁当もそれで美味しくいただける・・・うむ、実に良いものだ。



そうこうしているうちに佐保姫町アーケード街の西出入口についてしまった。

西出入口からふと、右側を見ると出入口を境に塀だ。

この塀の内側は『紫藤邸』である。

それで入口なのだが・・・歩くことおよそ5分といったところにようやく『紫藤邸』入口がある。

入口はまさに門だ。

門から西側、つまりこの先の塀の角まで行こうとなるとさらに10分近く歩かなければならない。

何が言いたいかというと、とにかく大きいのだ、家が。

こういうのが聖司の言っていた金貨数十枚はする家というやつなのだろう。


我は門を潜り、『紫藤邸』内に入る。

普段『紫藤邸』の出入口の門は閉まってため、備え付けられた『チャイム』を鳴らして入る。

しかし本日は日曜日、稽古があるため門は開きっぱなしなのである。

門から家まで少し歩くことになるのだが、家の前に着き、念のため家側に備え付けられたチャイムを鳴らす。


ピンポーンと音がなるがシーンとしたまま誰も出てくる気配がない。

ということは二人共道場にいるのだろう。

生花、茶道の道場は邸内東側にあり、武道場は邸内西側にある。

どちらに行こうかと我は思案する。

・・・。

よし、今日は武道場の方に行こう。

我は巌爺さんのいる武道場に行くことに決めた。

巌爺さんもさよさんもどちらも我ら桜家のみんなに良くしてくれていることもあり、我はどちらも好きだ。

しかしさよさんが教えている道場の方はなんというのだろう・・・上品というか気品があるというか、我が入ってはいけないようなそんな雰囲気があるのだ。

入ったら入ったでさよさんは歓迎して招き入れてくれるのだが、我はどうもあそこの空気が苦手である。


ところが巌爺さんのいる武道場の方は、我の好む雰囲気が漂っている。

張り詰めた空気ではあるのだが、なんというのだろう・・・心の底からワクワクするようなそんな雰囲気といえばいいだろうか。

とにかく我にとっては入りやすい場所なのである。


西側の武道場の入口に立ち、ふっと息を整える。

引き戸のドアをガラガラと開き、「こんにちわー桜屋です!」と声をかける。

すると巌爺さんは上座に座っており、我の姿があちらからも見えたようだ。

巌爺さんは立ち上がり、出入り口まで歩いてきて出迎えてくれた。



「おぉ、聖司坊よく来たな。弁当か?」


「あ、はい。一応家の方にも行ってみたのですが、誰もいないようだったのでこちらに来ました」


「そうかそうか。ありがとうの」


「いえいえ」



我は巌爺さんに風呂敷に包まれた弁当を手渡す。

巌爺さんは懐に手を入れ、1000円札2枚を我に手渡した。



「はい、丁度いただきます。ありがとうございます」


「うむ。また頼むぞ」


「はい、またお願いします」


「これこれちょっと待たぬか、聖司坊」



巌爺さんに礼を言って家に帰ろうとしたのだが、今日は珍しく巌爺さんに呼び止められた。

なんだろう?

何やら巌爺さんはニコニコしている。

どうしたのだろうか。



「聖司坊、ちょいと時間はあるか?」


「へ?えーっと・・・今何時です?」


「んむ、昼の1時じゃの」


「1時・・・ですか。2時間もしたら一旦店を閉めて、お母さんが夜の仕込みに入るのでそれまでは手伝いに戻ろうと思ってますけど・・・どうしてです?」


「ふーむ。残念じゃのう」



我の返事を聞くと途端に巌爺さんがしょぼくれた顔になった。



「えっと、どうして残念なんです?」


「いやの?よかったら道場を少しだけ見学して行かんかと思っての?」


「見学・・・ですか」



稽古は後30分ほどで終わるようだが、我としてはできれば美代子の手伝いに戻りたい。

だがしかし、見学には非常に興味がある。

どうしたものか・・・うーむ。



「興味は正直かなりあります。あるんですが・・・やっぱり手伝いに戻ろうと思います。ごめんなさい」


「ほっほ、よいよい。しかし真面目じゃのう、聖司坊は」


「そうですか?でも店の手伝いをするというのは自分が一度決めたことですし、それに巌爺さんやさよさんのひと押しもあって出来ることになったのだからしっかりやらないといけませんよね?」


「いい子じゃ」



巌爺さんは我の頭をその大きな手で撫でてくれた。

我には前世でも今世でもこのような大きな手で頭を撫でられたことがない。

父親に撫でられるとこんな感じなのだろうか?

そう思っていると巌爺さんはニヤリと笑った。



「しかし聖司坊、ホントは好きなんじゃろ?こういうのが」


「!?」



巌爺さんが呟くと同時に巌爺さんの気配というか、闘気のようなものがブワっと膨れ上がった。

咄嗟に我は巌爺さんから距離をとった。

久しぶりの感覚だった。



「ほぉ、聖司坊。今のわかった(・・・・)のか?」


わかった(・・・・)と言いますと?」


「いや何、今ちょいと『気』を立ててみたんじゃが・・・その様子じゃとわかった(・・・・)ようじゃの?」


「ええ、まあ・・・僕の思ってるものが巌爺さんの言う『気』であるなら・・・ですけど」


「ほっほ!いいのう!実に良い!!」



巌爺さんは嬉しそうに笑った。

今の感覚、つい3ヶ月以上前まで感じていたものとよく似ている。

我の好きな気配だ。



「今ウチにいる門下生で『さっきの』がわかるやつはまだおらん」


「・・・そうなんですか?」


「それが聖司坊にはわかる。実に面白いと思わんか?」


「どうなんでしょう?」


「よし決めた。聖司坊、それでは昼の3時以降にまた来ることはできるかの?」


「3時以降ですか?・・・お母さんに聞いてみてよければですけど、それでもよろしければ」


「よいよい。それでよい。では、待ってるからのぅ」



巌爺さんは嬉しそうに振り返るとまた道場の上座の方へと戻っていった。

我は巌爺さんの去った後、ぺこりとお辞儀をして道場を出た。

思わず、走って家に戻った。


なぜ走って家に戻ったかって?

そんなの決まっている。

もちろん巌爺さんに物凄く興味が湧いたからだ。

日本の武術がどういうものかすごく興味があるからに決まっているだろう。


我は急いで家に戻り、店の手伝いを再開した。

幸いミスこそしなかったもののワクワクし通しだった。


しばらくして店を閉める頃合になったので手早く片づけを済ませ、美代子に了承を取りに行くことにした。



「お母さん、店の片付け終わったよ?」


「あらそう?ありがとう」


「それでお母さん?」


「なに?」


「今から巌爺さんのところに行ってきていい?」


「紫藤さんの所?・・・いいけどどうして?」


「うん、実は巌爺さんが道場を見学しに来ないかって」


「珍しい。聖司、道場とかそういうの興味なくなかったっけ?」


「あー・・・うん。でもさっきお弁当届けに行った時に稽古をちらっと見て少し興味が」


「ふーん・・・やっぱ男の子だからなのかなぁ?いいよ、行っといで」


「やった!」



我は心の中で小躍りをした。

しかし美代子は「でーも!」と一言付け足した。

なんだろう、やっぱダメなんだろうか?



「聖司、明日から幼稚園再開するんだからあんまり遅くなっちゃダメよ?」



あ、なるほど・・・そういうことか。

美代子に「わかった!行ってきます」と返事をして走って紫藤邸へと向かった。

店を出る間際に美代子のやれやれといった顔が見えたが、気にしないでおこう。

あ、花梨のこと忘れてた。

・・・でも、今は巌爺さんだ。


我は紫藤邸に到着すると家の方を訪ねた。

チャイムを鳴らすと「はぁーい」という声と共にさよさんが出迎えてくれた。



「あら、聖司ちゃん。いらっしゃい、どうしたの?」


「こんにちは。えと、巌爺さんは居ますか?」


「あの人?多分道場の方にいると思うわよ?」


「わかりました。ありがとうございます!」



巌爺さんは道場で待ってくれているらしい。

我はさよさんに礼を言うと巌爺さんのいる道場へと向かった。

道場の引き戸のドアをガラガラと開き、ちらりとの中を覗き見る。

すると巌爺さんは道場の上座に座っており、我の姿を見つけると手招きをした。


なんとなく「お邪魔します」と呟いてから道場に足を踏み入れた。

巌爺さんの傍まで歩み寄り、巌爺さんの向かい側に巌爺さんと同じように座った。



「あの巌爺さん、お母さんに確認してよかったので来ました」


「うむ」



「うむ」と言ったきり、巌爺さんは特に何もしなかった。

何も話さず動かず静かなまま。

どうしたんだろうと思っていると、唐突に先ほどの『気』が放たれ、我は思わず咄嗟に立ち上がって距離をとった。

我の動きに満足そうに巌爺さんは微笑んだ。



「やっぱりわかっておるのぅ」


「『気』ですか?」


「そうじゃ、聖司坊は確か5歳だったかの?」


「ええ、そうです」


「聖司坊は才能があるのぅ」


「そうなんです?」


「ああ、儂が『コレ』に気づくのにどれほど時間が掛かったかわかるかの?」


「わからないです」


「儂はかれこれ紫藤流古武術を50年はやっておる。だが、『コレ』に気づくのに20年掛かった。この意味がわかるかの?」



つまり、恐らく武術の心得のないであろう5歳児の体の我が『コレ』とやらに気づいていることが不思議であるかおそらく面白いのだろう。

『コレ』というのはあちらで言うところの『闘気』に近い。

するとまた巌爺さんから『闘気』が放たれた。

我はジリと間合いを取るように構える。

構えるといっても傍から見れば突っ立っているだけであるが、全身の力を抜き、いつでも動けるようにはしている。

ここは下手に何も言わないほうがよさそうだ。



「ほう、聖司坊。その構えどこで習った?」


「構え・・・習う・・・いえ、習ったことはありません。ただ、自然体のつもりですけど」


「ふむ、確かに自然体に見える。見えるが隙がない。いつでも動ける状態といったところかの?」


「そう・・・思いますか?」


「ああ、そう思うとも」



我の構えはあくまで我流だ。

そもそも構えとかそういうのは知らない。

自然体でいて尚且すぐにでも体を動かせる体勢なだけである。

しばし沈黙が流れた。



「まあよい、これも聖司坊のセンスなんじゃろう。どれ、聖司坊組手をしてみんか?」


「組手・・・ですか?」



組手とはなんだろうか。



「要するにじゃ、好きなように殴ったり蹴ったりして来いということじゃ」


「いいんです?」


「もちろん。あ、でも聖司坊は確かこの間まで右足を怪我しておったんじゃったか・・・」


「そうですね。歩いたり走ったりしても大丈夫ではありますが、ぶつけたりするとかなり痛いですね」


「ふむ、では右足以外は好きに使って構わんから好きなように打ってきなさい」


「わかりました・・・。では・・・」



しばしの沈黙、そして動いた。

まずは一気に距離を詰め、巌爺さんの顎に向けて左の掌底を打ち込む。

しかし巌爺さんは僅かに顔を右に避けて躱した。


ならばと右の掌底腹部に打ち込む。

しかし巌爺さんに手で払われた。


次は右足を軸にして体を捻り、丁度巌爺さんの右の膝裏に回るように左足を蹴りこんだ。

しかし巌爺さんは右足を畳み膝裏に当たるのを回避した。


左の蹴りが受けられたので咄嗟に距離を取った。

これらは一瞬の内に放ったものであったが悉く巌爺さんに流され受けられた。



「ほっほ、聖司坊。すごいのぅ」


「そうです?」


「実にいい動きをする・・・しかし」


「?」


「まだまだ子供じゃの」



巌爺さんはそういうとその場に座り込んだ。

我にも座るように促すと解説をしだした。


つまるところ今の我は5歳児の体であるが故、体の可動範囲がことごとく狭い。

おまけに筋肉も殆ど着いていないため、あくまで子供の柔らかい体での最大限の動きしか出来ていないとのことだ。

しかし瞬発力はずば抜けており、組手を行う上でのセンスはかなり優秀だと言われた。


巌爺さんの言うことは確かに的を射ている。

やはり所詮5歳児の体ということだろうか、かなり制限が掛かっていることがわかる。

『無』属性魔法と『治癒』魔法の複合魔法で『身体強化』を行えばその限りではない。

5歳児ではありえない力とありえない速さで動くことが可能だ。

しかしそんなことしようものなら明らかに我は異常である。

よって『身体強化』使えない。

また、アモン本来の性質を魂から引き出せば力も早さもその限りではないが、おそらく聖司の体が壊れる。

なのでこれも使わなかった。

結局我はこの5歳児の聖司の体を使ってできる限りの動きをしてみた。

おまけに右足の事も有り充分な動きではなかった。


巌爺さんは5歳児の体でここまで動けることだけに感心したのだろう。

我としても下手に手の内側を見せておかしく思われるのは本意ではない。



「しかし、聖司坊よ。率直な感想じゃが・・・坊は末恐ろしいの?」


「うーん・・・自分自身のことなのでよくわからないですけどね」


「大人に成長したらもっともっと動けるようになるじゃろうて、どれ」



巌爺さんは立ち上がると、我にも立ち上がるよう促した。

何か教えてくれるのだろうか。

・・・だといいな。



「聖司坊の今の体は柔らかい」


「はい」


「なので今のうちに会得しておいても損はない動きを教えようと思う」



巌爺さんは「よく見ておけ」というとスッスッと体を動かしている。

ただ動いているだけなのにも関わらず、何かがおかしい。

巌爺さんは我の顔を見てニヤリと笑うと、我と対峙する。

何が始まるんだろうと思っていると、気づいたときには頭を撫でられていた。



「!?え、なに?なんで頭を撫でられているんだろ?いつの間に?」


「ほっほっほ、これはな『無拍子』というものじゃ」


「『無拍子』?」


「今聖司坊にしたのは聖司坊に近づき、頭を撫でるという動作をしたわけじゃが・・・」


「つまりじゃ、体のどこを動かすのにも予備動作というものがあるじゃろ?」



予備動作・・・つまり腕を動かすのにも肩、腕の付け根から肘といった動きのことだろう。



「それをぜーんぶ飛ばしてしまう動きじゃな」


「なるほど、つまりそれをすることによってさっきみたいな動きができるってことですか?」


「簡単に言えばそういうことじゃの、口では簡単に説明できるが実際に動かすとなるとかなり難しい」



なるほど、『無拍子』か。

確かに予備動作なしで体を動かせるのは便利だ。

何より先ほどの我のように相手に対して意表を突ける。


練習してみる価値がありそうだ。


その後、巌爺さんの指導の元『無拍子』の練習をしたがなかなか上手くいかず、気づけばいい時間になっていたので練習を打ち切った。

最後の方になると『無拍子』に近い動きになっていたようで、巌爺さんは感心していた。

隙を見て『無拍子』の練習をすると心に決めた。


最後に巌爺さんに礼を言い、家路についた。

そこまで遅い時間にならなかったが、美代子に「明日は幼稚園があるって言ったでしょ?」とお小言を食らった。

しかし、我としても良い経験をさせてもらったと思う。

巌爺さんに感謝だ。



それにしても明日から『幼稚園』というところに行くらしいが、どういうところなのだろうか。

期待に心弾んだ。



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一方聖司が家路につき、美代子にお小言を言われていた頃、紫藤邸の老夫妻は会話を弾ませていた。



「しかしなんじゃな。桜さんとこの聖司坊はなかなかどうして面白い」


「あら、そうなんですか?」


「うむ、儂の教えることをすぐに吸収し、巧く使う。門下生に欲しい人材じゃな」


「あらあら、聖司ちゃん大人しくて礼儀正しい子なのに武術に心得があるのかしら?」


「本人はないといっておったが、隙が全くなかった」


「そうなんですか。あなたにそう言わせるということは聖司ちゃん凄いのね」


「ああ、あんな子が将来うちの孫と一緒になってくれればいいんじゃがのう」


「それは確かにそうですね。聖司ちゃんならあの子と仲良くしてくれそうですし、気も合いそうですものね」



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聖司の預かり知らぬところでこんな会話がされていたそうな。

次話はようやく幼稚園復帰の話です。

ここまで長かった・・・でもまだまだ続きます。


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