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魔王様はハッピーエンドを望む  作者: あられうす
第一幕:魔王の現界 ~幼少期前編~
6/7

5話:桜家の日常1

昨日4話をアップした際にも書きましたが、間に話を挟みました。

で、今回の話を書いたわけですが・・・流れ的3ヶ月自宅療養する感じになってしまいました。


お食事処『桜屋』は佐保姫アーケード街にある飲食店。

近隣住民は例に及ばず、仕事の昼休憩に昼食を取りに来る男性客が訪れる。

味も良く、店主の腕もいいこの店はそこそこ人気のある飲食店であった。


しかし最近珍しい『店員』がいるということで、訪れるお客に拍車を掛けた。



「聖司、テーブル席1番のお客さんにお冷持ってったげて。これおしぼりね」


「はい了解」



美代子に4つの水入りグラスと4つのおしぼりが乗ったトレイを手渡される。

我はトレイを1番テーブルへと運び、水とおしぼりを配った。

1番テーブルのお客は近所の顔見知りである主婦衆だった。

今日は土曜日のお昼時、今日も今日とてランチを楽しみに来たようだ。


各々「伊藤さん」「鈴木さん」「長谷川さん」「中村さん」という。

この四人は佐保姫町アーケード街で店を営んでいる「仲良しおばさん衆」である。

大体この4人は昼時になると店番を自身らの旦那に押し付けて、昼食をウチに食べに来る。

俗に言う「ランチしに行く」というやつらしい。



「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたらお呼びください」


「あらあら、聖司君。こんにちは!今日もお店の手伝いかい?偉いねぇ~」



と我を笑顔で出迎えたのが「伊藤青果店」のおばさん、通称「伊藤さん」



「ホントねぇ・・・ウチのバカ息子の子供の頃とは大違いさね」



と自分の息子と比較しているのは「鈴木精肉店」のおばさん、通称「鈴木さん」



「もっと早く生まれてたら娘の旦那になってくれって頼むのに・・・残念だわぁ」



と娘の旦那を早く見つけたい「長谷川鮮魚店」のおばさん、通称「長谷川さん」



「しっかし、美代子ちゃんも嬉しいだろうねぇ。こんな小さいのに店の手伝いしてくれる息子がいるんだもの」



と美代子の立場を羨ましがるのは「中村酒店」のおばさん、通称「中村さん」


四人とも何故か、我に良くしてくれるおばさん達であるため自然と顔も名前も覚えた。

毎週土日は必ずやってきてウチでランチを食べに来てくれる。

ありがたいことではあるが、お店の方は大丈夫なんだろうか?

各々旦那さんに店番を任しているという話を前に聞いたが・・・。



「聖司、ごめーん!悪いけど会計お願いしてもいい?」


「はーい」



我はおばさん衆に「注文が決まったら呼んでくださいね」と言い残し、レジへと向かった。

レジカウンターには二人の男性客がおり、会計を待っていた。

レジカウンターに置いてあった伝票を確認し、ピピピッとレジを軽快に操作する。



「ありがとうございます。・・・えっと、日替わり2つで1800円ですね」


「ほい、じゃあ2000円で」


「はい、2000円お預かりします・・・200円のお返しですね。ありがとうございました!」


「ありがとさん。しっかし坊主ホントに5歳か?5歳って言ったらまだ算数習ってないだろ?」


「あぁ、そうですね。一応幼稚園児ってことになりますけど、計算はできますし、レジ打ちも練習したのでミスもないですよ?」


「はぁ~・・・すごいな。『子供店員』」


「いえいえ、少しでも母の手助けをしたかったので・・・お客さんにはご迷惑を掛けないよう注意してますので、今後とも宜しくお願いします」


「そうか~・・・偉いなぁ坊主。よっしゃ、このお釣りはおっちゃんからの小遣いだ。もらっとけ」


「いえいえ、ダメです。頂けません」


「いいからいいから、黙ってもらっとけぃ」



男性客の一人であるおっちゃんは我の手に200円握らせると「また来るよ!ごっそさん!」と言って店を出ていった。

我がレジを打ち出すようになってからというもの、こういったお客さんが後を絶えない。

レジに受け取った「小遣い」を入れるわけにはいかないので、レジカウンターの中にしまってある蓋のついた瓶に入れた。

その瓶はずっしりと重く、瓶の中のお金は結構な額になっているはずだと思われる。

それに加え、瓶の数が日に日に増えていくのだ。

わりと頻繁にこういったことがあるので流石に慣れたというか諦めた。

最初こそ「小遣い」を返していたのだが、押し切られることが続いた。

結局1回断りは入れるが、それでもというお客の場合のみ受け取ることにしている。

本当にもらって良いものかと美代子にも相談した。

美代子も「う~ん・・・」と言って頭を悩ませたり、我が「小遣い」を手渡される現場でお客に断りを入れてくれたりもしていた。

だがそれでも渡してくるお客多いので、結局美代子も折れる形となった。


「聖司自身がもらったものだからいいんじゃないかなぁ?チップみたいなものだと思うし・・・」とブツブツ言っていた。


そんなことを思い出していると「聖司くーん、注文お願いー!」と呼ばれた。

仲良しおばさん衆の「伊藤さん」だ。

どうやらメニューが決まったらしく、我を呼びながら手招きしているので「今行きますー!」と言って注文を受けに行くことにした。

今日も今日とて『桜屋』は忙しい。



-------------------------------------------------------------



所変わって『桜屋』出入り口には先ほどの男性客二人が入口の壁に貼られている張り紙を見つめていた。



「しっかしすごいですね、おやっさん?ここの『子供店員』」


「ああ、正直俺もびっくりした。しっかし泣かせるじゃねぇか母ちゃんの手伝いがしたいだなんてよ?」


「ですよね?しかも5歳の子供がパパッとレジ打ちしてちゃんとお釣り渡して接客してましたもんね?」


「だよなぁ・・・ずっと見てたが、全然危なっかしいところがなくてびっくりしたわ」


「下手な高校生のバイトより『仕事』してますよね・・・あれ」


「感心して『小遣い』渡しちまったよ」


「あ、でも他にも渡してる客いましたよね?」


「そうなんだよ、だから俺もついつい…な」


「一応これって『チップ』みたいな扱いになるからセーフですよね?」


「少なくとも俺はそう思うし、他の渡してる客もそう思ってるんじゃないか?」


「てか見ろよこの客の数・・・これも坊主目当てかね?」


「あ~・・・かもしれませんね」


「しかも味はいいし、店主の料理の腕もいいと来たもんだ。また来るか」


「お、マジですか?ゴチになりまーす!」


「バッカ、調子乗んな!さ、仕事に戻るぞ」


「へぇーい」



そう言って男性客二人は仕事場へと戻っていった。


『桜屋』の入口の張り紙にはこう書かれていた。



お食事処『桜屋』からのお知らせ及びお願い



『桜屋』には私の息子である『子供店員』がいます。


5歳という幼い年齢です。

一人で店を切り盛りする私を見かねて心配だったのでしょう。

「手伝いがしたい」と申し出がありました。

私個人としましても、店の仕事をさせることに反対しました。

しかし息子は折れようとしません。

試しにやれるものならやってみろとばかりに接客と配膳と会計をやらせてみました。

すると息子はやらせた傍から完璧にこなしてしまいました。

親バカな目もあるかもしれません。

ですが、私を心配してこその申し出であったため、やらせてみる形となりました。


接客も会計も社会勉強の一環として行わせております。


何かお困りの際は店主をお呼びください。


お客様方々に迷惑を掛けることがあるかもしれませんが、何卒宜しくお願い申し上げます。



お食事処『桜屋』店主 桜 美代子



-------------------------------------------------------------



桜家で生活することになって、3ヶ月が経った。


始まりは我にしてみれば、本当に些細な出来事であった。

勇者に敗れた後、『死者の眠る地』に我はいた。

そんな中、聖司の声に誘われ、気付けば『地球』の『日本』に現界していた。


聖司の母「美代子」と妹「花梨」を蘇らせる代わりに、我は聖司の魂と融合し聖司の体を得た。

そうして我は桜聖司として生まれ変わることとなった。


桜聖司となった我はこの世界で『家族』の温かさというものを知った。

実に良いものだと我は思う。

あちらの世界で『アモン』として生きていた頃には得られなかった経験や知識をこの世界で日々学んでいる。


そんな我は今現在、母「美代子」の下で桜屋の手伝いに勤しんでいる。

桜家に来て最初こそ怪我の事も有り、大人しくしていた。

他にも花梨のお守りなんかもしていたのだが…我は自身や花梨のことよりも美代子のことが心配でならなかった。


何故なら表の店舗で美代子は昼も夜も一人で働いている。

一人で桜屋を切り盛りしながら我ら二人の母親をしているため、いつも大忙しだ。


朝早くに起きて店の仕込みに始まり、合間を縫って掃除洗濯を行い、昼は店の開店。

昼を過ぎれば夜の仕込みに取り掛かり、夜になればまた店の再開。

そんなに遅くまで営業はしていないものの、それでも22時頃までは働いている。

その後片付けをし、その日の売上集計をした後、風呂に入り、そして寝るというのが美代子の1日のサイクルだ。


朝の仕込みの終盤、昼時のピークが終わった後、夜の仕込みの終盤に我や花梨の食事の用意をしてくれる。

また客足の引いた時等、合間を縫ってその他の家事も行ったりしている。

『桜屋』の店主をこなしながら母親をこなす。

実に立派だと我は思う。


我は一度美代子に聞いてみたことがある。

「毎日大変そうだけど、大丈夫なのか、倒れたりしないか」と。

すると美代子はニコッと笑っていつも同じことを言うのだ。


「お母さんは聖司や花梨が元気でいてくれれば大丈夫!だから頑張れるんだよ。それにもう慣れちゃったしね」という。


花梨が産まれたばかりの頃はもっと大変だったけど、あの時に比べたら全然平気とも言っていた。

美代子の言葉を聞いて、我は父親である勇司の位牌を一睨みし、「何死んでんだ阿呆が!死ね!」と心の中で思ったものだ。


本当であるなら幼稚園復帰となる可能性もあった。

松葉杖を持って幼稚園にも行けるのだから。

しかしながら先日、桜一家が被害にあった交通事故が思いの他に足を引っ張った。

テレビでも意外と大きく報道されているほどの大事故であった。

なにせ本当なら二人はほぼ死亡している状態にあり、聖司も致死量に達する程の血液を流していたのだ。

そもそも我が治癒蘇生していなければ下手をすれば3人とも死亡して、桜屋もなくなっていたことは明白である。

だが結果として我も含めてだが、美代子と花梨はピンピンしており、我に至っては右足のヒビだけで済んだ。

しかし我は2人に比べて意識の回復が遅かったこともあり、我のみ様子見として3ヶ月の自宅療養となった。


そこで我は何か出来ることはないかと試行錯誤したり、聖司本人に相談したりもした。

とにかく暇だったのである。

自身がやれることといえば花梨の世話くらいなもので、暇で暇で仕方がなかった。

自分がそんな日々、暇を持て余しているにもかかわらず、美代子は毎日忙しい。

これはなんとかしなくてはいけないと思った。


なので我は美代子の手伝いをしてはどうだろうかと思い至った。


早速行動に移した我は、問題なく動けるようになったら美代子に手伝いをさせてくれと申し出てみた。

しかし見事に断られた。

我自身やる気満々だったのにも関わらず断られたのだ。

しかも「気持ちだけは受け取っておくよ。心配してくれてありがとね」と言われ、頭を撫でられた。


我は納得がいかなかった。

どう見ても美代子は仕事のしすぎである。

このままでは倒れてしまうと我は思った。


なんとか美代子の仕事を奪うことができないだろうかと思い、その日から美代子をとにかく観察した。

観察して、観察して、観察し続けた。

そして1週間もする頃には美代子のしている仕事が見えてきた。

「接客」「配膳」「調理」「洗い物」「会計」「仕込み」「集計」の7点を行っていることがわかった。


そこで我は考える。


「洗い物」もできなくはなさそうだが、今の聖司の体では不便があるかもしれないので保留にしておく。

他にも美代子は「調理」「仕込み」「集計」等も行っているが、それらは我の許容範囲を超えるものだと思う。

7点の中で我ができそうなものといえば「接客」「配膳」「会計」の3点だ。


「二兎を追う者は一兎をも得ず」と言う言葉が日本にはあるようだが、我は「二兎追って二兎得る」のだ。

この場合「7兎追いはするが、とりあえず3兎は絶対得る」ということだ。

せめて「接客」「配膳」「会計」だけでも美代子から奪いたい。

我はこの3点をしている美代子を集中的に観察し、観察し続けて覚えた。

接客の仕方、配膳の仕方、会計の仕方及びレジの操作等全てだ。


観察し続けて覚える頃には事故後から1ヶ月半ほど経っていた。

流石子供なのかどうかはわからないが、骨の治りも割と早かったらしい。

右足のギブスが取れて、ようやく自由に動けるようになった。


この1ヶ月あまりの間、ひたすら美代子を観察し続けて覚えた成果を試せる時が来たのだ。


我は美代子に自身が手伝えるに値するか試験をしてくれと申し出た。

あまりにしつこく我が食い下がるので、美代子がやれるものならやってみろとばかりに我にやらせてみたのだ。

こうなってしまえば我の勝ちだ。

我は美代子を観察し続けて身に着けた全てを持って、接客、配膳、会計を完璧にこなしてみせた。

我は「してやった」という気分であった。


しかし美代子はそれでも了承しなかった。

何故だ!と我は思った。

とにかく食い下がった。



「完璧にこなせているだろう」と。


「何がダメなんだ」と。



尚も食い下がり続ける我に美代子はこう答えた。



「完璧には出来てる、でも聖司にはまだ早いかな」



非常に申し訳なさそうに美代子は言った。

実に残酷な答えだった。

確かに今の我は傍から見れば5歳の幼い子供だ。

美代子の思っていることは分からないでもない。

だが、我はそれ以上に美代子が心配なのだ。


だから我はもうどうにでもなれとばかりになりふり構わず勝手にすることにした。

とにかく店の忙しい時間帯にひょっこり現れ、勝手に手伝いを始めた。

しかし仕事は完璧にこなす。

完璧に接客し、完璧に配膳し、完璧に会計した、でも勝手に。

最初こそ美代子に怒られたが、それでもめげずに続けた。

美代子自身、自身のことを思ってしてくれていることに強く言えなかったというのもあるだろう。


我の完璧な「接客」「配膳」「会計」をし続けた結果、やがて美代子や客も認め始めることとなる。

最終的に『仲良しおばさん衆』と『紫藤家の老夫婦』からの「任せてみてはどうだろうか」という言葉が最後だった。


それにはさすがの美代子も折れざるを得なかったのだろう。



「・・・じゃあ、忙しい時だけお願い」



とだけ言って肩を落としていた。

我が勝利した瞬間だった。



・・・とまあこのようにして現在に至るわけである。

道のりは長かったが、実に有意義な3ヶ月であったと思う。

今はまだ「接客」「配膳」「会計」だけだが、いずれ「洗い物」も奪い、やがて「調理」「仕込み」「集計」も奪ってやるのだ。

そう心に決めている。

もちろん花梨の世話も怠らないように心がけている。


何げにこの飲食店の仕事を我は楽しんでいる節がある。

だが、下手をすると手伝い却下になりかねない。

細心の注意が必要である。


そういえばであるが、我はいつの間にか『子供店員』というよくわからない称号を得ていた。

まあ不名誉な称号ではないので気にしていないが。

美代子の負担を減らすためにも、謎な称号のためにも、そして我を応援してくれた『仲良しおばさん衆』と『紫藤家の老夫妻』のためにも恥じぬ仕事をしなければならないのだ。


だから我は真面目に仕事こなす。

愚直に、コツコツ努力を重ねる。


かつて我がただの魔族だった頃から魔王となる力を得るまでの時のように。

壮絶な事故後+ヒビの完治に1~2ヶ月くらいかかるそうなので妥当なのかなと思いますが、その間幼稚園を欠席してるってことになるのでどうしたものかと思ってます。

今回は6000字そこそこというちょっと短めの話になってしまいました。


それでは今回も投稿した後再確認+修正して次話に移りたいと思います


なんとか辻褄は合うのではないかという内容に仕上げたつもりではいるのですが・・・。

とりあえず、もう1話挟んで幼稚園復帰させようと思ってます。

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