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魔王様はハッピーエンドを望む  作者: あられうす
第一幕:魔王の現界 ~幼少期前編~
5/7

4話:母と妹との対面。そして桜屋へ

4話投稿完了です。

話の内容がスラスラと滞りなく進んだので早くに投稿できました。


今回は母親と妹のガッツリ対面の話と桜屋、家族のお話です。

若干ハートフル気味に書いたつもりですが、ハートフルになってるかなぁ・・・。

ゆっくり瞼を開ける。

精神内の部屋からも確認していたが、見慣れぬ天井に清潔感のある白い部屋。

その中にあるベッドに我は寝かされていた。


やけに静かだ。

我の寝ている右隣には白衣を着た男女、そして聖司の母親「美代子」と妹「花梨」がいた。

美代子と花梨は目に涙を浮かべ、我に抱きついてきた。



「聖司っ!!」


「お兄ちゃん!!」



我は自然であるよう努めることにする。

二人に抱きつかれて若干息苦しいが、この様子であると二人は完全に蘇生出来ていたようだ。

何よりである。



「お母さん、花梨。苦しい・・・」


「あぁ、ゴメンね聖司。私と花梨は無事だったけど、聖司だけなかなか起きないから心配してたのよ」


「そっか・・・ごめんお母さん。花梨も心配かけた」



そっと花梨の頭に手を載せて撫でてやる。

かつて幼き日の『アスタロト』と同じように優しく、丁寧に。

花梨は我の腰のあたりにしがみついていたのだが、我が撫でているのに気づいてゆっくり顔を上げた。

涙と鼻水とよだれで顔がぐしゃぐしゃだ。

せっかく可愛らしいのに勿体無い。



「お、お兄・・・ぢゃんが無事で・・・よがっだぁぁ」



と言ってまたビービー泣き出してしまった。

あああ、どうしよう。

余計に泣き出してしまった。

とりあえず花梨の頭を撫で続けることにして、美代子との会話を進めることにした。



「お母さんと花梨は本当になんともなかったってことでいいんだよね?」


「ええ、無事よ。でもあんな事故だったのによく三人とも無事だったと思うわ」


「あ~・・・うん、そうだね」



我が蘇生させたなんて口が裂けても言えない。

そもそも信じてももらえないだろうし。

そういえば我は事故後の様子しか知らないが、事故前はどのような具合だったのだろう。

聖司にも聞いたが、気づいたら自動車に跳ねられていたようで状況がわからなかったとのことだ。

なので美代子に尋ねてみることにした。



「お母さん、その事故のせいかもしれないけど、頭がはっきりしなくて・・・なんで僕ら事故にあったの?」


「ああ、えっとね。聖司と花梨と三人で歩いていたら、後ろから車がぶつかって来たみたいなの」


「へぇ・・・でもなんで?」


「多分だけど、その車を運転してた人がアクセルとブレーキを踏み間違えたみたいでね?」


「アクセルとブレーキ・・・踏み間違えたりするものなの?」



我は『アクセル』と『ブレーキ』というものがよくわからなかったので話を合わせることにした。

『アクセル』と『ブレーキ』を踏み間違えることで何故車が突っ込んでくるのか。

これも追々調べてみることにしよう。



「ほら、この間テレビでやってたでしょ?コンビニに車が突っ込んだニュース。まさにアレね」


「・・・あぁ、なるほど」



聖司の記憶から件の『テレビでやってたニュース』とやらを思い出す。

なるほど、そういうことか。

正直、阿呆としか言い様がないな。

巻き込まれた側からしたらたまったものじゃない。

そう言う奴は車を運転しないほうが世のため人のためではないかと思う。


美代子と話をしていると今度は白衣の男が声をかけてきた。



「えー・・・すみませんお母さん。少し聖司君とお話しますのでよろしいですか?」


「あ、すみません。ほら花梨ちょっと離れて・・・あぁ、もう。お兄ちゃんが心配なのはわかるけど、くっつくなら後にしなさい」


「はぁい・・・」



渋々といった様子で花梨は我の傍から離れ、美代子と一緒に白衣の男女の後ろへと控えた。



「えっと、聖司君だったね。はじめまして、少し確認したいことがあるから協力してね」


「はぁ・・・わかりました」



我の了承を得た白衣の男は我の目に光を当てて何やら確認をする。

何を見ているのか知らないが、他にも色々見たり触ったり『シンオン』を聴いたり『ケツアツ』を測られた。

一通り終わると次はあれやこれや質問をされたが、我は「なんともない」の一点張りで答えた。

我の答えを男の隣にいる女性がサラサラと何かを書いている。



「はい、問診は終わりです。特に問題はなさそうですが、一応念の為にこの後脳波やレントゲン等見させてもらいますね」


「はぁ、わかりました」



『ノウハ』や『レントゲン』とやらが何かは知らないが、ひとまず大人しく従うことにしよう。

その後、男は美代子に何やら話をした後、部屋から出ていった。

美代子は我のいるベッドの脇に備え付けられた丸椅子に座り、心配そうに声をかけてきた。



「聖司?なんともないって先生に言ってたけど、足は大丈夫なの?」


「足?」


「そう、右足」



美代子が布団に隠されている俺の右足の辺りを指差した。

はて、右足・・・右足か。

確か事故の際、聖司が車に潰されていたのは右足だった。

しかし、聖司と融合した際、この体に入る間際に聖司の体も治癒したはずだ。

多分なんともないはずなのだが・・・言われて気づいたが自身の右足に何かが巻かれている感覚があった。

おや?と思いながら布団を捲ってみると我の右足には包帯のようなガッチリしたものが巻かれていたのだ。



「聖司の右足の骨にね?ヒビが入ってるみたいなんだけど・・・痛くないの?」


「へ?いや、別に・・・あ、痛いかも?」



言われてみてなんとなくではあるが、何かにぶつけたみたいな痛みがあるにはある。

ああ、なるほど、理解した。

おそらくだが魔力(マナ)が足らず、治癒しきれなかったのかもしれない。

ふーむ・・・治癒しきれないほど、魔力が減っていたか。

確かに聖司の体に入り込む寸前、大分姿が薄くなっていたのを思い出す。

自身の両手を見つめて開いたり閉じたりしながら、意識を全身くまなく行き渡らせる。

意識を全身に行き渡らせて気付いたことだが、自身の魂も含めて驚く程に魔力(マナ)が低下している。

というより魔力総量があちらの世界(エタニティアーク)の一般市民と変わらないほどになっていた。

先ほど花梨の頭を撫でた際、こっそり魔力総量を見てみたのだが、無いに等しいくらいしか保有していなかった。


我の推測に過ぎないが、こちらの世界に暮らす人間の魔力総量は魂の必要最低限分ほどしか保有していないのではないだろうか。

でなければこの魔力総量の低さに辻褄が合わない。


ちなみに我の今の状態での魔力総量はあちらの世界(エタニティアーク)の一般市民程と予測した。

現時点での我の魔力総量の最大値が20だとすると、今我の魔力(マナ)は2くらいしか残っていない。

魔王であった頃の我は無限に近い魔力総量であったため、今の魔力総量には不安しか覚えない。

今後日本で生きていく上で魔力(マナ)が必要ではなさそうではあるものの、それでもないよりはあったほうが当然いいだろう。


何事もあるに越したことはないはずだ。


それに仮に魔力(マナ)が完全に回復したとしても、この体で使える魔法はかなり限られてくるだろう。

せいぜい使えても簡単な治癒魔法、解毒魔法、簡易結界、低級属性魔法の4種類の内で数回程といったところだろうか。


魔力(マナ)の希薄なこの世界で魔力総量を増やす見込みは恐らくない。

なので何らかの方法で魔力(マナ)の回復だけでも行えればと思う。

せめて何かあった時のための保険というものを持っておきたかった。



「聖司、どうかしたの?急に黙ちゃって」


「ううん、なんでもないよ」


「そう?なんでもないならいいんだけど・・・」



しまったな、美代子にいらぬ心配をかけてしまった。

確かに我自身は自身の魔力総量を確かめていただけなのだが、傍から見たらボーっとしているように見えただろう。

咄嗟になんでもないと答えたが、大丈夫だっただろうか。


そう思っていると部屋の扉が開き車輪の付いた椅子を押しながら白衣を着た女性がやってきた。

どうやら我はこれから『ノウハ』や『レントゲン』とやらを調べられるのだろう。

なんと間の良いところに来てくれたと思う。


その後美代子とその女性は一言二言話をして、我は車輪の付いた椅子に座らされた。



「じゃあ聖司、お母さんは花梨と一緒に『警察』に行ってくるね。多分聖司のが終わるころには戻ってくるから」


「あ、うん。わかった」



美代子は白衣の女性に「それではよろしくお願いします」と言って花梨を連れて病室から出て行った。

『警察』とやらは何ぞや・・・衛兵みたいなものか?と考えていると、白衣の女性は「さ、いこっか」とニコリと笑った。

我は白衣の女性に椅子を押されるがまま何やらわからない『機械』のある部屋に通され、あれやこれやと調べられることとなった。


そうしていろいろ調べつくされた我が病室に戻ってくると既に美代子と花梨が戻ってきており、我の寝ていたベッドの傍の椅子に座っていた。

その後、我を含め美代子と花梨は別室に通され、先ほどの白衣の男と対面し美代子と白衣の男が何やら話していた。


二人の会話の内容は右足のヒビ以外特に異常なし、だったり『マツバツエ』がどうのとか『ジタクリョウヨウ』だとか以前より健康になっているとか何とか言う内容だった。

我には何が何やら話がさっぱりわからなかったので右耳から左耳へと聞こえてくる二人に会話を流していた。


そうこうしている内に気づけば『マツバツエ』を両脇に挟んだ我と美代子と花梨の3人は病院の出入り口に立っていた。

どうやらやっと終わったらしく、美代子が「帰ろっか」と言って『駅』とやらへと向かった。


駅に向かう道中に美代子が「3人とも無事でよかった」だとか、我に「また今度病院に来て『ギブス』を外す」等々話をした。

話をしていると気づけば駅に着いており、『切符』を買って『改札』に『切符』を通して『ホーム』にあがった。

いろいろな単語が多すぎて正直いっぱいいっぱいである。


『ホーム』には『電車』が既に到着していたので電車へと乗り込んだ。

しばらくするとピリリリリと笛のような音が鳴り「プシュ!」といってドアが閉まった。

「プシュ!」という音にドキッとしたが、美代子に「どうしたの?」と笑われたため恥ずかしい思いをした。

ゆっくりと『電車』は動き出し、ガッタンゴットンと音を立てながら動き、窓から見える景色は右から左へと流れていく。


実に不思議な光景だった。

周りを見れば結構な人数の人が乗っている。

我が翼を広げて飛んだほうが遥かに早い。

しかしこれだけの人数を乗せて結構な速さで動いていることから『電車』というやつはなかなかどうしてすごいものだと感心する。

流石『科学技術』である。



しばらく『電車』電車に揺られていると佐保姫(さほひめ)町に着いたようだ。

美代子に「降りるよー」と促され、佐保姫(さほひめ)町へと帰ってきた。

『駅』を降りて佐保姫町アーケード街を暫く歩くと、我がこれから暮らすことになる『桜屋』が見えてきた。


『桜屋』の前に立ち、心の中で「よろしく頼む」と呟き、美代子と花梨に連れられ店内へと入った。


今日は一応『定休日』とやらで店の営業はしていないらしく、店舗の奥にある居間へと向かった。

美代子は荷物をどこかに置きに行き、花梨と二人だけとなった。

これが日本の金貨数枚はするという家か。

パッと見たところ、少しなんというか・・・よく言えば趣がある、悪く言えば古い家だ。

右足の怪我もあるので下手に動き回るのは良くなかろうと居間内を見回して観察することにする。


あの四角くて薄いものは『テレビ』とやらか。

木製の引き出しがついた棚のようなものはクローゼット・・・箪笥とやらか。

丸くて数字の書かれた板は・・・時計か?


等を見ているとくいくいとシャツを引かれた。

なんだろうと見てみると花梨がもじもじとした様子で俺を見つめていた。

どうしたんだろうか?



「ねぇねぇ、お兄ちゃん?」


「どうした?」


「足痛くない?」


「うん、大丈夫だよ」


「じゃあねじゃあね、ギュってしていい?」


「いいよ?」



我が答えると花梨はニコッと笑い抱きついてきた。

急にどうしたのだろうか?

『アスタロト』も昔そうであったが、甘えたい気持ちになったのだろうか?



「あのねお兄ちゃん?」


「うん?」


「花梨ね?お兄ちゃんが起きなかったから死んじゃったんじゃないかって思ったの」


「死んでないから安心してくれ」


「うん、だからね?いっぱいくっつくの!だめ?」


「好きにしてくれ」


「わぁい!お兄ちゃんすきー!」



きゃあきゃあ言いながら我に抱きついてくるので、頭を優しくなでることにした。

まあ何が嬉しいのかわからないが、本人がいいというのであれば好きにさせておこう。


そうして花梨の相手をしていると美代子が荷物を置いて居間へと戻ってきた。

我と花梨の様子を見てクスリと微笑んだ。



「あらあら、花梨はほんとにお兄ちゃんが好きね?」


「うん!花梨お兄ちゃん大好き!」


「ありがとうよ」


「うん!花梨ね?大人になったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの!」



うわぁ、かつての『アスタロト』と同じことを言っている。

確かにあいつのことを妹のようにも思っていた時期もあったので、それを思い出し、なんとなくほんわかとした気持ちになった。

聖司よ、どれだけ花梨に好かれているんだと思うと、精神内の部屋の中で聖司が苦笑したような気がした。



「そうそう、聖司。今晩何が食べたい?」



・・・夕飯か。

正直、地球の日本の食べ物がどんなものか、どんな味なのかわからない。

とりあえずこの世界の食べ物といえば精神内の部屋で聖司が出した『菓子』しかわからない。

『菓子』を夕飯にしてくれとは言えないので、聖司の記憶から引き出そうとすると美代子が「あっ」と声を上げた。



「ごめんね、聖司。今日はやっぱ『うどん』にするね」


「『うどん』?」


「そ、確かお店の売れ残りで、少しだけ余ってたの思い出したからそれにしようと思うの。ダメかしら?」


「いや・・・『うどん』でいいよ」


「わかった。じゃあちょっとだけ待っててねー」



そう言って美代子はひらりと店舗の方へと歩いて行った。

それにしても『うどん』か。

うどん・・・う、どん・・・どん・・・どんよりしたものなのだろうか?

どんなものなのだろう・・・聖司の記憶の引き出しを開けようとして、やめた。

こちらの世界の菓子でさえ美味かったのだから、おそらくこの世界の料理も美味いのだろう。

聖司も言っていたが、美代子の料理の腕前はかなりのものらしい。

だったらここは何も知らずにしておいて、美代子の作る『うどん』とやらが出来上がるのを楽しみに待つとしよう。



暫く花梨の相手を引き続きしていると、店舗側の方から何やらいい匂いが漂ってきた。

これが『うどん』とやらの匂いか、食欲をそそるいい香りだ。

すると店舗側から「ご飯できたからこっちおいでー」という美代子の声が聞こえてきた。


我は花梨を連れて店舗側へと向かった。

店舗側に入ると先ほど漂ってきたいい匂いがさらに大きくなった。

「ほらほら、席についてー」と美代子に促され、4人掛けのテーブル席に座って待つことにした。

すると我の隣に座った花梨がとてとてと店舗内の角に行き、何やらしている。


何をしているのだろうと思っていると、水の入ったコップを持ってきてテーブルに載せた。

ふむ、あそこで水を汲めるのか・・・それにしてもきれいな水とコップだ。

向こう側が透けて見える。

あちらの世界(エタニティアーク)の住人は魔法で水を出しそれを飲む。

こちらでは魔法も使わず、こんなに澄んだ水を飲むことができる。

おまけに水の入ったコップに触れてみると程よい冷たさである。

実に素晴らしい。

水一つで感動してる我をよそに美代子が陶器の器を持っており、「はい、お待ちどー」と言って手にした『うどん』をテーブルに並べた。


・・・これがうどんか。


我は匂いに釣られ、ゴクリと唾を飲み込んだ。

陶器の器に入れられた『うどん』とやらは我の見たことのない料理であった。

スープに浸かった白長いものが底に見える。

白長いものの上には緑とピンクと茶色のような黄色い具材、そして何かしらの鳥肉が乗せられていた。



「かしわうどんでーす。それではいただきます」


「いただきまーす」



そう言って美代子と花梨は手を合わせ、器を手に取り食べ始めた。

我も二人に習って「いただきます」と呟き、不自然がないように食べることにした。

花梨は先の丸いフォークを使って食べているが、美代子は2本の棒を使って器用に『うどん』を食べていた。

この2本の棒を使ってどうやって食べるのか・・・。

恐らくではあるが、美代子の食べ方が正しい食べ方のように思う。

よって普通はこの2本の棒を巧みに使って食べるのだろう。

ここは大人しく聖司の記憶を使わせてもらったほうがよさそうだな。


我は聖司の記憶の引き出しを開き、2本の棒『箸』の使い方を学習した。

学習してしまえばあとは簡単、体が勝手に動いてくれる。

我は左手に器を持ち、箸を使って『うどん』をすくい上げた。


『うどん』・・・果たしてどのような味がするのか。

期待を胸に、そして悟られぬよう恐る恐る口にした。


口に入れて味を確かめながら咀嚼し、飲み込んだ。


・・・。


我はカッと目を見開いた。



う ま い 。



ただひたすらに美味い。

美代子の料理の腕もさることながら、この料理『うどん』はとにかく美味い。

それだけはわかった。

その後はただひたすら「美味しい」と言いながら貪るように食べた。

美代子は嬉しそうに我の食べる様を見つめていた。



腹ごなしも済んで、美代子に風呂に入れと促されたため風呂に入ることにした。

最初、美代子に足の怪我もあって一緒に入ろうかと聞かれたが、一人で洗えないことはないのでお断りした。

美代子は何やら物足りなさそうな顔をしていたが、まあいっかといった様子であった。


我は脱衣所で服を脱ぎ、全裸になった。


脱衣所にもまた色々な『機械』があった。

これが『洗濯機』とやらか・・・ボタンを押すだけで勝手に洗濯してくれるという。

なんと便利な。

それでこっちは『洗面台』と。

顔を洗ったり、歯を磨いたりする場所だそうだ。

それで備え付けられたコックを捻るとジャーっと水が出る。

これも実に便利だ。

捻るだけで水が出る原理はわからんが、これはきっといいものだ。


磨硝子のドアの向こう側が風呂場になっている。

脱衣所内のものにも興味があるが、全裸で突っ立っていては風邪をひいてしまう。

医者に言われたようにいそいそと右足に『ビニール袋』を被せ、一人で風呂に入った。

ドアの向こう側には姿見のような大きさの鏡が有り、我の姿が映っていた。

聖司の体だ。

改めて思ったが、見事に何もかもが子供だ。


風呂場内に入り、聖司の知識を思い出しながら体を洗っていると何やら脱衣所でゴソゴソと物音が聞こえてきた。

磨硝子のドアに目を向けると何やら二人のシルエットが映った。



「お母さんも入ろーっと」


「花梨もー!」



案の定というかなんというか美代子と花梨が入ってきた。

なんともまあ・・・敢えて何も言うまい。

二人は入ってきて早々、我に甲斐甲斐しく世話を焼きだした。


美代子がまあいっかといった顔をしていたのはこれか!と思った。


美代子は「お母さんが背中を洗ってあげるね」と言って背中を洗ってくれた。

花梨は美代子の真似をして「花梨もお兄ちゃん洗ったげるー」と言ってもみくちゃにされた。


三人とも体を洗い終え、我だけ湯船から右足を出したままのなんとも不格好な形となったが、三人仲良く狭い湯船に浸かり体を温めた。


その後、寝着に着替え美代子に飲み物を出してもらって飲んだり、花梨の世話をしているうちにいい時間になった。

寝室に美代子が布団を敷き、三人で川の字になって寝ることになった。



今日だけでも色々なことがあった。

我が聖司の声に誘われ日本に現界し、聖司と出会い、桜家の3人を救い、聖司と融合した。

精神内の部屋では聖司に様々なことを教わった。


『地球』『日本』『美代子』『花梨』『菓子』『車』『機械』『ビル』『テレビ』『箪笥』『時計』そして『うどん』


今日だけでも沢山過ぎるものを見聞きした。


なにより『家族』というものを知った。

暖かさ、優しさ、大切さ・・・挙げたらキリがない。

これらの感情は全て我にとって今まで経験したことのない良いものだと思う。


あちらの世界(エタニティアーク)で我にとって家族と呼べるのは『アスタロト』だけであった。

もちろん『バアル』も『ガアプ』も『オロバス』もいたがアイツ等はあくまで友であり、部下であった。

なので母親と妹の三人家族・・・『家族』というのはとてもいいもののように思えた。


何故だか温かく、優しい気持ちになれる。


あちらの世界(エタニティアーク)では『アスタロト』がいたが、それでもこんな気持ちになったことはなかった。

それは我の魔王という立場であったかもしれないし魔族であったからかもしれない。


聖司と融合することで人間の気持ちが少しだけわかったのかもしれない。


そんなことを思っていると我の布団の両側がもぞもぞ蠢いた。

我の右側には花梨が、左側には美代子が入ってきた。



「どうしたの二人共?」


「ううん、なんとなく今日は聖司にくっついて寝ようかなぁと思って」


「花梨はいつもと一緒!」



暫くすると我の左右からスヤスヤと寝息が聞こえ始めた。

二人があまりにもくっついてくるので寝苦しいことは寝苦しかったが悪い気はしなかった。



人間・・・いや、家族というのはなかなかどうして良いものだ。

いつもどおり、投稿した後再確認をして5話目に取り掛かります。


次話は話の流れ的にもう一話挟むか、それともアモンの右足のギブスを外した後に幼稚園に通いだす話にしようか悩んでいるところです。


ちなみにこのお話でアモンは『うどん』をすこぶる気に入ってしまい、今後の好物となります。


それでは引き続きよろしくお願いします

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