3話:地球について学ぶ その2
3話投稿完了です。
今回のお話は舞台となるところのお話と桜聖司の家族についてです。
投稿し終えた後また見直しして、よければ四話目を書いていきます。
セイジと話してわかったこと。
ここは地球という星の『日本』という世界らしい。
あちらの世界とは全くの別世界、いわゆる異世界だということがわかった。
主に『人族』が暮らし、『獣人族』『長耳族』『ドワーフ族』『魔族』は存在しないようだ。
また『魔物』は存在しないが、動物や虫などはあちらの世界と同じように存在するとのこと。
地球という星は魔力が希薄で魔法が存在しない。
そのことに我は一時は不安を覚えた。
しかし代わりとして『化学技術』の進んだこの世界は非常に便利なものが溢れている。
例えば魔力を必要とせず、操作すること誰でも運転ができる馬のいない馬車『自動車』。
『自動車』のような『機械』を用いて建てた、かつての我が城に匹敵する程の高さを誇る『ビル』。
他にも『化学技術』の賜物はこの世界に溢れかえっているらしい。
小さいものでは、例えばそう、今セイジが身に着けている衣服なんかがそうだ。
その服の意匠も然ることながら、着心地、機能性、通気性、肌触りで上下合わせて500円という驚きの安さ。
あちらの世界では考えられないことである。
これも『化学技術』から生まれた『化学繊維』を用いて『機械』によって作られたものだそうだ。
そして貨幣及び通貨についても学んだ。
セイジの衣服が『500円』という話から話は始まった。
あちらの世界での貨幣は全て硬貨で『小銅貨』『銅貨』『小銀貨』『銀貨』『小金貨』『金貨』『大金貨』の7種類が用いられている。
そしてそれは各種族間で統一されて使用されている。
ところ変わってこちらの貨幣は硬貨と紙幣の二種類が使われている。
『1円』『5円』『10円』『50円』『100円』『500円』という6種類の硬貨と『1000円』『5000円』『10000円』という3種類の紙幣だ。
ちなみにこの貨幣は日本で使えるお金、通貨なのだそうだ。
そして我はあちらの世界とこちらの世界の貨幣のレートや価値について考えることになるのだが・・・。
思い出すだけで頭が痛くなりそうだったので考えるのをやめた。
とりあえず『小金貨』『金貨』『大金貨』のレートや価値がこちらの世界の価値とあまり変わらないということ。
『小銅貨』『銅貨』『小銀貨』『銀貨』の価値があべこべであることがわかっただけでも良しとした。
他にも世界が変われば通貨も変わるらしい。
このことから地球には数多の世界があることが伺える。
セイジ曰く日本は『円』という貨幣が用いられている。
また他の国では『ドル』『ユーロ』『ウォン』『元』などというのがあるらしく、もし国外に行く際はその国で使用されている通貨に『円』を交換しなければならないらしい。
正直、あちらの世界では全世界共通の貨幣だったためにめんどくさそうという印象を覚えた。
そんなこんなで結構な時間セイジと話していたわけだが、実は実際それほどの時間は経っていない。
精神内のこの部屋は外界と全く時間の感覚が違っているためである。
かれこれセイジと休憩を挟みつつも軽く2.3時間は話していたのではないかと思われるが、外界では10分ほどしか経っていない。
そのおかげでこうして長くセイジと話していられるのだ。
精神内の部屋に取り付けられている窓から外界の様子をちらりと見てみる。
何やら自身も含めて母親と妹が例の『自動車』に運び込まれているようだ。
そのことをセイジに聞くと「多分ビョウインに連れて行かれるのではないか」とのことらしい。
ビョウイン・・・病院というのはあちらの世界で言うところの医療施設のことのようだ。
あちらの世界の医療施設は怪我人や病人を治癒や解毒の魔法を用いて癒す。
しかし、その施設には我の使うような人を蘇らせられるほどの治癒術者がおらず、精々が治癒では骨折や裂傷を直すのが関の山、解毒に至ってもそこそこの病や毒を治すというくらいだ。
失くした手足、死に至る病や毒を治すともなると、とてもではない法外な治療費をふっかけられるので貴族や王族でもない限りは諦める他ない。
それにしても『化学技術』の発展したこちらの世界ではどうなのだろうか。
魔力が希薄なため、治癒魔法や解毒魔法の期待は望めない。
しかし『化学技術』の優れたこの世界ではどこまで人を癒すことができるのかは追々学んでいくことにしよう。
回想はさて置き、これから先セイジの体で生活することになるわけだが、少しでも見識を広げておきたい。
ある程度は今回の事故で辻褄が合わせられるかもしれないが、知っておくに越したことはない情報はたくさんあるだろう。
我の出す紅茶とセイジの出す菓子に舌鼓をうちつつ、次にセイジに聞きたいことを考える。
それにしてもセイジの出す菓子はうまい。
セイジが出したのはポテトチップスなる菓子に続き、煎餅、あられ、クッキー、チョコレート等など。
最後にプリンというスライムのようなプルプルとした触感の菓子を出した。
セイジに勧められるまま食べてみるが、これもまたうまい。
我の食べる様子に気をよくしたセイジはこれはどうだろうかと別のものを出した。
セイジが出したのはプリンの亜種と思われる『ゼリー』なるもので、これもまたうまかった。
多分ではあるがこれらの菓子は『アスタロト』が非常に気に入るだろうと思った。
女性というものは元来甘いものが好きらしく、彼女も魔族ではあるがその例に漏れないと思う。
我自身、甘いものは彼女ほどではないが結構好きなのである。
あまり配下の前では格好がつかないので言わないし食べないが・・・。
それにしてもこちらの世界は食文化も素晴らしい。
セイジの出す菓子はどれもこれもうまいものばかりだ。
セイジは見たところ貴族でも王族でもなさそうな一般市民だと思われる。
にも拘らずうまいものを知っている。
他にもうまいものがこの世界にはあるのだろう。
実に興味深い。
一息吐いたところで話を再開することにした。
まず最初に聞くのはセイジの家族構成についてだ。
先ほどセイジの母親と妹を蘇らせたことで、少なからずその二人と今後生活することになる。
母親や妹の名前がわからないではお話にならないからだ。
まあ、セイジと情報を共有しているので知ろうと思えば知ることもできるが、本人の口から聞いておいて損はないだろう。
「セイジよ、先程は難しい話になってしまったが次はもっと簡単な話にしよう」
「あ、はい。なんでしょう?」
「そうだな・・・ではまずセイジについて教えてくれ。それから先ほどのセイジの母親や妹についても教えて欲しい」
「分かりました。家のこととかも説明したほうがいいですか?」
「そうだな。よろしく頼む」
そして始まったセイジ及びセイジの家族関係や家のこと。
まずはセイジについてだ。
名は桜聖司。
『桜』が苗字で名を『聖司』という。
あちらの世界では名前が先に来て苗字が後ろに来る。
あちらの世界風に言うなら『セイジ=サクラ』ということだろう。
苗字・・・は基本貴族につくものというのが我の常識であるが、この世界では殆どの人間が苗字を持っているとのことだ。
ちなみに名前の書き方も教わることにした。
苗字である『桜』はまあいいとしても『聖司』という名前。
『聖』を『司る』・・・か。
一応魔界の王であった我が名乗っていいのかどうか・・・我自身が非常に名前負けしている気がしてならなかった。
聖司に当初言われた『悪魔』という言葉を思い浮かべる。
我は決して『悪』ではないと信じたいが、それでも『聖』ではないかもしれないと思う。
一応我独自の治癒魔術で人を蘇らせることは出来ることはできるが・・・うーん、何やら釈然としないものがある。
それに5歳という年齢なのにも関わらず聡いことについて。
実家が飲食店をしており、母の手伝いで接客をしていたことから会話術に長けている。
また、本人自身本を読むことが好きで、色々な知識を持っている。
実際、融合してわかったことだが聖司は非常に頭が良いことがわかった。
知識の吸収力が群を抜いている。
その代わりかもしれないが、知識が優れているのに対して身体が弱いと聖司自身も言っていた。
元々生まれつきなのだそうだが、それに関しては我と融合したことにより解決できていると思われる。
容姿については聖司自身、現時点で幼いため何とも言えないが、母親によく似ている。
かなり中性的な顔立ちをしているように思う。
性格は大人しく控えめ。
良く言えばであるが、性格は我と似たところがあるように思われる。
辻褄が合わせやすそうで中々に好都合に思う。
次に聖司の母親について。
名は桜美代子。
歳は28だそうだ。
専門学生時代にバイト先である店主であった聖司の父親と知り合い結婚し、聖司と妹を産んだそうだ。
聖司の父親、つまり美代子の旦那は聖司が3歳、花梨が1歳の時に交通事故で他界したとのこと。
つまり未亡人で二人の子を持つシングルマザーというわけだ。
それにしても旦那が亡き後は店主として店を切り盛りし、二人の子供を育てているというのには感服する。
聖司が少しでも母親の手伝いをしようというのも頷ける。
我も聖司として生きていく上で美代子の手伝いが少しでもできればと思う。
積極的に行うよう心がけよう。
あわよくば美代子の手腕や経営面も学びたく思う。
聖司に話を聞く限り、非常に母性豊かな性格のようだ。
次に聖司の妹について。
名は桜花梨。
歳は聖司の2つ下で3歳だそうだ。
聖司によく懐いており、常に付いて周ってなんでも真似したがる妹らしい。
聖司も満更ではないようで、我に「妹と仲良くしてやってください」と頼まれた。
我自身そのつもりではいるが、兄という立場になる以上しっかりしないといけないと身を引き締めた。
まあ、我自身これでも『アスタロト』を育てた身であるので同じように接していけば間違いはないと思う。
今回は血の繋がった妹であるとのことなので『あの時』のように押し切られることもないであろう。
何にせよ大事にしようと心に決めた。
性格は明るくて活発。
店の客にも聖司に付いて回っていることから可愛がられているとのことだ。
聖司の妹であることから察するに外見も可愛らしい容姿をしていると思う。
そして最後に聖司の父親について。
名は桜勇司。
今は他界して故人となっているが、38歳で亡くなったそうだ。
亡くなった当時、聖司が3歳だったということもあってかあまり覚えていないそうだが、中々豪快で人情溢れる人物だったらしい。
元々、自身が店を構える店主であったが、当時専門学生だった美代子に惚れられ、押し切られるようにして結婚したようだ。
・・・どこかで聞いた話だな、我と同じか。
生きていれば話をしてみたくなった。
ちなみに料理の腕は一級品で美代子に腕前を伝授したそうだ。
続いて聖司の実家である飲食店『桜屋』について。
今我らがいるところも後々説明するが、まずは『桜屋』について
『桜屋』は今いる竜田姫市から西にある佐保姫町に店を構えている。
佐保姫町駅前にある佐保姫町アーケード街の中の中央角地にある大衆食堂兼桜家の実家。
美代子の腕と味が口コミで、仕事帰りのサラリーマンや学校帰りの学生が腹ごなしに通う。
また、昼時には主婦衆や昼休憩のサラリーマンがランチに通う。
他県からの観光客もよく来店するらしい。
大衆食堂にカテゴライズされているが内装は割とオシャレな空間でお茶をしに来るお客も多い繁盛店とのことだ。
『桜屋』のある佐保姫町について。
佐保姫町は町が山を保有しており、町といってもかなり広大な区域を持っている。
有名どころで佐保姫岳があり、秋には紅葉狩りに来る人も多く、冬場はスキー場として栄える。
その麓に佐保姫山温泉街があり、「アクアイフリート」が有名な温泉兼観光地。
佐保姫山温泉街から少し下ったところに佐保姫アーケード街がある。
元々、佐保姫町は昔、城下町として栄えており、その名残が今での残っている。
また佐保姫町には佐保姫アーケード街の他にもオイングループのショッピングモールがあり、だいたいそこに行けばなんでも揃う
オインのモールがあるにもかかわらず、佐保姫町アーケード街は下町のようなイメージでそれなりに栄えている。
また、佐保姫町アーケード街に隣接して竜田姫市に向けての電車が通っているため、仕事帰りの社会人が一杯引っ掛けていくことが多々ある。
佐保姫町アーケード街のすぐ近くには佐保姫小、中、高と学校があるため、他市から来ている学生も佐保姫町アーケード街で寄り道することも多い。
大きい主要道路が2つ交差している立地から交通の便もよい。
他にも色々と施設はあるらしいが、一先ず佐保姫町についてはこんなものらしい。
続いて今我らのいる竜田姫市について。
竜田姫市は大きな市街地で、佐保姫町並に広大な区域である。
また、竜田姫市は交通の便が盛んで、愛知県に向けての大きな駅がある。
駅下にはデパ地下みたいな施設があり、他にも「アパタ」と呼ばれるショッピングビル、竜田姫市の駅周辺にも商店街があるとのことだ。
竜田姫商店街は佐保姫町アーケード街より敷地こそ広いものの、栄えぶりは同じくらいらしい。
佐保姫町アーケード街が「質」を取るなら竜田姫商店街は「量」と「安さ」を売りにしている。
また、筒姫市や竜田姫市郊外にしか県内に存在しない安さの殿堂「ドソキー・ホーテ」や一部の客層に人気のあるらしい「アニュメート」「ガンニョム喫茶」等がある。
郊外には所々大きな工場があり、昔から工業地帯としても栄えているらしい。
有名なのは「竜田姫とんてき」が名物。
そして竜田姫市には竜田姫市立総合病院という大きな医療施設があり、恐らく桜家3人はそこに運び込まれているのだろう。
我が完全に治癒したし、三人とも怪我はないのですぐに出ることになると思うが。
今のところ佐保姫町や竜田姫市について話を聞いたが、他にも筒姫市と白姫市というのがあるらしい。
筒姫市は大きな自動車メーカーの工場が有り、このメーカーが出資元の大きなサーキット兼遊園地がある。
白姫市は県庁所在地で白姫ギョーザが有名とのことだ。
まあ、今まで行った機会もないと聖司が言っていたため、それほど気にするほどでもないように思う。
なにせ我は一応現時点では5歳の子供であるわけだし、見知らぬ土地をあれこれ出歩くのはよろしくないだろうしな。
このように一通り聖司から説明を受けていると結構な時間が経っていたようだ。
今我らの体は精神の部屋の窓から見たところ、どこかの白い部屋のようなところにいる。
とにかく室内は白く、清潔感が漂い、所々にベッドが並んでいる。
おそらく病院という施設の中の一室なのだと思う。
「聖司、これが病院とやらの中か?」
「そうですね。見た感じ病室の中にいるようですし」
聖司と共に外の様子を伺っていると何やらガラガラと音がし、バタバタと誰かが複数人が近づいてくる気配がした。
「おや、誰か来たようだな」
「あ、そろそろアモンさん外に出た方がいいんじゃないです?」
「なぜだ?」
「多分病院の先生や看護師さんが来たんだと思います。ひょっとしたらお母さんと妹も来たのかも」
「なるほど、美代子と花梨は我が完全に蘇らせたから可能性はあるな」
我らの体の周りには白衣を着た男女と美代子と花梨の姿が映った。
白衣の男女はともかく美代子も花梨も心配そうに我らの体を見ている。
今我らの体はベッドに寝かされていて、目も閉じており気絶している状態にある。
あまり美代子と花梨に心配をかけるのは良くないだろう。
「では聖司、我は表に出てくる」
「はい、わかりました。お母さんと妹をよろしくお願いします」
「心得た。任せておけ。・・・ああ、それと」
「はい?」
「菓子馳走になった。うまかったぞ」
「いえいえ、まだまだ他にもアモンさんに食べてもらいたいものがあるのでまたお話しましょう」
「ああ、それでは行ってくる」
「いってらっしゃい」
精神内の部屋を出る間際、ふと振り返る。
振り返ると聖司は我を見つめていた。
目が合うと聖司はニコリと笑って手を振ってきた。
我も同じように手を振り返すと、部屋の扉を開け外へと歩を進めた。
扉の外に出て上を見上げる。
景色は何もない空間だが、フワリと体が浮き、上へと向かってどんどん上がっていく。
これから我はこの世界の『日本』で生きていくことになる。
あの世界で我が求めた生活は手に入れられなかったが、こちらではどうだろうか。
せめて後悔は残らないように生きようと思う。
そこで我はいつも口癖のようにつぶやいていた言葉が自然とポロリと溢れた。
「我は幸せな未来を望む。この先の未来に幸あれ」
そうして我の精神体は光に包まれ、外界へと出たのだった。
設定とかは後々キリのいいところで載せたいと思います。
多分話が進むごとに設定資料は更新されていく形になると思います。
次話は美代子、花梨との対面の話です。
ここからアモンの桜聖司としての日常の話になっていく流れになると思います。