スチャラカ封印?(千文字お題小説)
お借りしたお題は「読み手が温度を感じられる物語を書く。温度の捉え方は、気温でも心情でも構わない。1000~20000文字 」です。
律子はスチャラカなOLである。
先日、多方面に多大な迷惑をかけたせいで、営業部長に呼び出され、こっ酷く叱責された律子は心を入れ替えたのか、毎日始業一時間前に出社して営業各課のフロアの掃除をし、同じ階の女子トイレの掃除もしている。
もちろん、仕事も真面目に取り組んでおり、梶部係長が、
「何かよくない事が起こるのでは?」
と心配した程だ。
「ようやく身の危険を感じたようね」
必死に仕事をこなしている律子を見て、同期の香はホッとしていた。
同じく同期の真弓が個人的な事情で退社してしまい、入社が一緒なのは律子だけなのだ。
他にも同期はたくさんいるが、所属が違ったり営業職に就いて転勤して顔を合わせなくなった。
ずっと同じ部署で仕事をしているのは律子だけなのである。
一時は藤崎を巡ってライバル関係になった事もあったが、今はもう良き思い出である。
「ふうう、あっつう」
掃除を終えて、額の汗を拭いながら律子が自分の席に着いた。
「お疲れ様です、律子先輩」
後輩の蘭子が湯気が立っているコーヒーを淹れてくれた。
「蘭子ちゃん、体温急上昇してるから、キンキンに冷えた飲み物の方がいいかな?」
律子は渡された紙コップを忙しく指を動かしながら運び、机の上に置いた。
「汗を掻いた時こそ、熱い飲み物の方がいいんですよ」
蘭子はニコッとして言った。
(可愛い、蘭子ちゃん)
彼女と付き合い始めて今が一番の熱々な時である須坂は、顔を火照らせて蘭子を見ていた。
「貴女は胃腸が弱いんだから、ホットの方がいいと思うよ」
香がおしぼりを律子に差し出して言った。
「お、ありがとう、香って、これも熱々じゃん!」
律子は冷たいと思って受け取ったおしぼりが熱かったので仰天して下手なジャグリングのように手の上で踊らせて、机の上に放った。
「大袈裟ね。そんなに熱くはないはずよ」
リアクションがオーバーな律子に香はムッとした。
「そろそろ熱燗の季節ねえ」
律子はおしぼりを頭に載せて温泉に入っているような顔をする。
「あちちってな具合で、耳たぶを触ってさ」
すっかり気分は飲み会の律子だ。
(こいつ、本当に心を入れ替えたのか?)
香は途端に心配になり、
「貴女はお酒が入ると訳がわからなくなるんだから、忘年会では注意しないとダメよ」
釘を刺した。すると律子はニヤリとして、
「酒だけに、それはちょっと『避け』られない、なんちゃって」
途轍もなく寒い駄洒落にフロアの一同が凍りついたのは言うまでもなかった。
という事でありました。