私の変化
目を開ける。
それからゆっくり深呼吸。
「やっぱり、夢か」
二十歳の誕生日の翌日、布団の上で目覚めて、思わず呟く。
夢の中でとはいえ、久しぶりにおじに出会えて、朝から嬉しいような少し寂しいような、ちょっと変な感じになってしまった。
何気なく時計を見ると、まだ六時前。普段なら迷わず二度寝する時間なのだが、今朝はそんな気になれずのそのそと起きあがることにする。
今日の講義は十時頃からなので時間的にはかなり余裕がある、というわけで、さっさとシャワーを浴びた後、珍しく台所に立つことにした。といっても、たいしたものを準備するわけでもなく、みそ汁に卵焼き、サラダと何のひねりもないメニューだ。手早く作った朝食をテーブルに並べる頃に、ちょうど両親が起きてきた。
「おはよう、父さん、母さん」
あくびをしながらリビングに入ってくる二人に挨拶をしながら、三人分のコーヒーを淹れる。
「ああ、おはよ――――お前、今、父さんって言ったか?」
「うん、言ったよ」
さすがは父さん。寝ぼけ眼でもしっかり反応してくれる。
「それにその格好。今日何かあるのか?」
「あら、本当。珍しいわね、そんな服着るなんて」
父さんに続いてリビングに入ってきた母さんも、口をそろえてそんなことを言う。
まあ、無理もないことだと思う。私がスカートなんかはくのは、年に数えるほどしかないのだから。
「ん……別に何もないけど。おかしい?」
特に気負って選んだ服装というわけでもないが、続けざまにそう言われると、不安になってくる。
「そんなことないわよ。普段からもっとかわいい格好をしてくれた方が、私は嬉しいわ」
か、かわいい格好か…………。
なんかこう、自分とはかけ離れた話をしているみたいで、妙な感じがする。
「まあ、服のことなんてどうでもいいから、さっさと朝ご飯食べてよ。さめちゃう前に」
にこにこしている母さんと複雑な表情の父さんを促して食卓に着き、いただきますと手を合わせて箸を取った。
「それで、一体どういう心境の変化なんだ?」
朝食後、母さんが食器を片づけにキッチンへ引っ込むと同時に、父さんはそう聞いてきた。
「夕べの話が関係している。そう思っていいのか?」
んー、やっぱりそう考えるよなあ。
実際のところ、間違ってるわけでもないし。
「それもあるけど。昨日の夜、ちょっとした夢を見たからっていうのが一番大きいかな」
父さんにこういう話をするのは久しぶりだけど、やはり言いにくい。
「夢?」
と言ってもまあ、別に悪いことしてるとか、やましい気持ちがあるわけでもない。なので結局若干開き直り気味に、夢の内容を話すことにする。
「おじさんと、少し話した」
ぴくり、と父さんが反応するのがわかった。
「話と言っても、ちょっとした問答みたいな感じだったけど」
父さんは黙ったまま手元のコーヒーカップを見つめている。…………何年か前にも似たようなことがあったなとか考えていると、驚くほど落ち着いた声で続きを促された。
「他には、何か言っていたか?」
他に、か…………。
ああ、そう言えば。
「成人、おめでとう。って」
その途端、父さんの顔が一瞬くしゃりとゆがんだ――――ように見えた。が、そんなことは気のせいだと思えるほど、すぐに笑顔へと変わった。
「そうか。良かったな」
そして椅子から立ち上がり、私の頭を一撫でしてリビングの扉へと歩いていく。
ドアノブに手をかけたところで、思い出したように振り返り、
「あいつとした問答とやらの中身は、あとでゆっくり聞かせてくれ」
そんなことを言い残して、出て行った。




