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第11話

 信仰や宗教を否定するつもりは毛頭ない。けれど、自分の大事なものも守れないで、なにが神か、と思ってしまうのは、私が無宗教だからかもしれない。

 理解できないが、自分の信仰に命かけてる人だっているんだろう。イヤ、だったら、命懸けてルール守っとけよ、と思うのだが。

「ああ、馬鹿馬鹿しい」

「私もそう思います。私はお国柄信仰を余儀なくされていますが、命を蔑ろにする信仰はどうかと思ってしまいます」

 お国柄というくらいだから、この国に根ざした信仰があるのだろう。だが、リオはその信仰をあまりよろしく思っていない、と。

「あんたとは話が合いそうだよ」

 ニシッと笑って見せると、苦笑を浮かべている。

「この国では、女性の不倫はご法度?」

「勿論そうです。女性に対しては少々厳しい気もしますが」

 今でこそ女性の不倫も珍しくなくなってきているようだが、女性に少々厳しい気がするのは日本も同じような気がする。

「王妃のそれって、本当に不倫だったのかな? もしかして……」

 私の言わんとしていることが分かったのか、リオは顔を顰めながら頷いた。

 やはり、そうか。王妃はその神官が好きだったわけじゃなく、無理矢理襲われたのだ。

「身籠ったと分かった時点で、どうとでも出来たんじゃない?」

「この国では、堕胎は法で禁じられています」

「そっかぁ。だから、王妃はジェラールの世話をしようとしないのね? その忌まわしい記憶が蘇ってしまうから」

「そういうことになりますね。母上は身籠っていた頃から心を病んでいました。子とともに命をたとうと何度もしたほどに。まだ、母上の傷は癒えていません」

 王妃が喋らないのは心が病んでいるからなのだ。親子揃って喋れないって、なんだか寂しいな。

「いっそのこと養子に出せばいいんじゃない? そうすれば新しい家族で愛して貰えるでしょう? その方が王妃もジェラも幸せでしょう」

 母親に憎まれて生きていくなんて、そんな過酷な道を歩ませなきゃならないのはあまりにも無慈悲だ。

「母上に起こった出来事は、国民には知られてしまっています。どこから洩れたのかは定かではありませんが、母上の国民人気は凄まじく、まさに崇高されているといってもいいくらいですから、その辺から洩れたのかも知れません。ただ、ジェラールは生まれてすぐに病で命を落としたとされています。そうでなければ、ジェラールの命が危険に曝されます」

「まさか、国民がジェラを暗殺しようとするんじゃ」

「まさにその通りです。母上を苦しめるものは排除すべし、と考える国民がいるのです」

 行き過ぎた追っかけというべきか。過激な追っかけは時として何をしでかすか分からないので怖い。

「もしかして、その神官。実は国民にやられたとか言わないよね?」

「それは……分かりません」

 リオのその目にウソはなかった。言葉のとおり、分からないのだろう。可能性として、国民が手を下したということも有り得るということだ。

「ジェラが養子は無理な理由が分かったよ。だから、一部の人間しか知らないのね? そんでもってそれが、外に出せない理由でもあると」

「そういうことです」

 ジェラールの身に危険が降り掛かるのは避けたい。けれど、どうにかして外の世界を見せてあげたい。

「ねぇ、ジェラが男の子だってことは知られてる?」

「知られています」

 そう、と私はニヤリと笑った。

 それなら男の子だとばれなきゃいいんじゃない?

「ジェラに女装してもらえばいいんだと思うわけ」

 ジェラールに女装させるのは申し訳ないけど、外の空気を吸って感じてほしい。その前にこの城の外に私自身が行って見てみないと。危険があるところにわざわざ行かせるわけにはいかないのだ。

「さて、お昼も出来たし、こっちのトレイはリオが持って」

 トレイを一つリオに押し付けて、ノアンさんに挨拶して調理場を出た。

「あかり。そちらも持とう」

 さりげなくリオがもう一つトレイを取り上げた。

「ありがとう」

「イヤ、それにしても二人にしては量が多くはないですか?」

「何言ってんの。リオのもあるんだよ。あれ、勝手に一緒に食べるものだと思い込んでた。リオもジェラをその……恨んでる?」

 勝手にリオはジェラの話やその他の話をしてくれたから、憎からず思っていると思い込んでしまった。

「恨んでなどいません。ジェラールにもっとよくしてやりたいと思うのですが、母上の悲しそうな顔も浮かんでしまって。複雑な気持ちです」

「一緒にご飯食べるのは、ダメ?」

「いいえ、喜んでご一緒します」

 家族の中で、ジェラールをよく思っていないのは、王妃だけではないかもしれない。だが、そこにあるジェラールへの小さな想いが王妃に隠れているだけで、決してないわけではないことに私はホッとしていた。


「ジェラ。お昼の時間だよ」

 私が部屋に入ったとき、ジェラールはチェスと戯れていた。

「ジェラ。今日はリオも一緒にご飯を食べようね」

 ジェラールはリオを見上げ、不安げな表情を浮かべたが、リオが僅かに微笑んで見せると、嬉しそうに口を緩めた。といっても、その動きは微々たるもので、よく見てないと分からない。

「あかり。今、ジェラールは私に笑いかけてくれたのでしょうか?」

「うん、そうだよ。嬉しいって」

 感動です、ぽそりとこぼした声が私の耳に届いた。リオの瞳が爛々と輝いているのを見て、つい吹き出してしまった。

 憎しみなんてこれっぽっちもない。リオからは愛情しか感じられない。

「ああ、私、リオ好きかも」

「は?」

 突然笑いだしたかと思えば、突然そんなことを言い出した私に戸惑いを隠せぬようだった。

「私、リオ好きかも。変な意味じゃなく純粋に。好きだなって思う」

 人としてとか、恋愛感情としてとか、いまいちピンとこないけど、ただただこの人が好きだなって思った。

 戸惑いを隠せないリオににっこりと微笑んで見せた。

「さあ、ジェラ。今日はスパゲッティだよ。良い子は手を洗ってこよう」

 私はリオの戸惑い顔から逃げるようにジェラールを連れてその場から逃げた。

 ジェラールがそんな私を不思議そうな顔で見上げている。

「なんか私変なことをリオに言ってしまった気がする。何言っちゃってんだろう、私」

 これじゃまるで告白だ。イヤ、まるでじゃなく確実に愛の告白だ。

 リオは何を考えているだろうか。もしかしたら戻ったら先程と同じ状態で口をぽかんとしているのかもしれない。そんなリオの様子を思い浮かべたら可笑しくて、クスリと笑いが漏れた。

 ジェラがまた、私をキョトンとした顔で見上げている。

「ううん、何でもない。料理が冷めちゃうから早く行こう」

 リオに対して、後ろめたいとかどんな風に接したらいいのか、とか自分がポロリと出してしまった言葉に後悔したりは全くなかった。

 そう言えば、自分から誰かに好きだなんて言葉言ったのは初めてだったな。

 なんて、正直どうでもいいことを考えていた。だが、私の心臓はドキドキと激しく鼓動していた。頭の中ではどうでもいいことを考えているのに、体の方は緊張している。妙なアンバランスが生まれていた。後々思うことだが、この時私は動揺していたんだと思う。

 私って……リオのことが好きだったんだ、びっくり。

 このドキドキで、恋愛感情じゃない理由が思いつかなかった。

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