祖父を想う
深夜、家に電話があった。応対したのは父だった。
祖父が亡くなった。祖父は数年前に事故にあい、その時に脳を損傷し、寝たきりになっていた。七年の間寝たきりで、そのまま亡くなったらしい。
物心ついてから初めての肉親の死に際し、実感に乏しいというのが正直なところだ。なにしろこちらは東京にいて、祖父はずっと田舎にいた。
父は涙こそ流さないものの、激しく動揺しているように見える。母は慌てた様子で礼服の準備などをしていた。
数年ぶりの田舎は、相も変わらず肥の臭いに満ちていた。これだから田舎は嫌なのだ。
祖父の家に着き、親戚と挨拶を済ませる。
「太かなったね、大輔君」
叔父にそう言われ、気分を害する。
太くとは、大きくなったという方言だ。僕は別に太ってなどいない。
僕たち家族は祖父のいる一室に通され、静寂が訪れた。父も母も何も言わない。
祖父の顔は瘦せこけてはいるものの、ただ寝ているようで、今にも起きてきそうだった。
祖父と顔を合わせるのは、小学校に入りたてだった頃以来だ。夏休みを利用して帰省していた。
祖父はいつも優しい表情を浮かべていた。デレデレしていたと言っても良いだろう。数少ない帰省の機会に、存分に愛情を注いでくれた、と思う。
それでも僕は薄情なことに、実感が薄い。これからも生活自体は何も変わらないのだと、自分でも酷く冷たいことを考えていると思う。
詰襟に袖を通して、式場へ向かう。
焼香の作法を教わり、見様見真似で行っていると、父が滂沱の涙で床を濡らしていた。父の涙など、生まれて初めて見た。その衝撃のほうが余程大きかった。
それからのことはあまり覚えていない。飛行機に乗り、無事家に帰った。
帰り着いてすぐ、荷物を片付けていると、詰襟から線香の臭いが漂ってきた。
僕の体は、そこで初めて涙を流していた。




