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死体愛玩症  作者: ぴあす


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1/1

浮かぶ

 一箇所、二箇所とあかねはドラッグストアを回った。


「同じ効能のお薬を他の薬局などでご購入なさっていませんか?」


「はい」


 この会話を何度も繰り返す。茜はもうこの嘘に慣れた。車のミラーに茜の顔が映る。

 濃いクマと少しコケた頬。周りの人間が茜を不審そうに見つめてきた。


「次で最後でいいかな‥‥」


 茜は車のエンジンを掛けて次のドラックストアへ向かう。


「なんであんなやつ好きになったんだろ‥‥」


 誰もいない車内で茜の声が鳴る。涙声で呟く茜に誰も答えることはない。


「会社もクビ、挙げ句に借金だらけ‥‥なんでだよ‥‥!あたしは、何もしてない‥‥!」


 茜はハンドルを握りしめ歯を食いしばる。歪む視界を拭い大きなため息を吐く。赤い信号から目を落とし涙をこらえた。

 後ろからクラクションが鳴った。信号は赤からすでに青になっていた。茜は急いでアクセルを踏む。


 喘鳴のような息をして最後のドラッグストアにつく。


「同じ効能のおく‥‥」


「はい」


「‥‥その、お客様。本当に大丈夫ですか?明らかに体調が悪そうに見えるんすけど‥‥」


 若い薬剤師が茜の顔を覗き込む。茜は咄嗟に顔を隠す。そして薬剤師から薬を奪いとって逃げるように車に戻った。

 心臓が激しく鼓動した。なぜかは茜には理解ができなかった。


「もう、いい」


 茜はアクセルを踏みアパートに直行する。人生で初めて信号を無視した。


 アパートに着きカバンから鍵を取り出す。揺れるキーホルダーに嫌悪感を覚えた。もうこれは茜しかつけていない。


 鍵を開けて茜は薬でいっぱいの袋だけを持って浴室に向かった。部屋に目を向けたくなかった。

 昨日溜めた残り湯にスーツのまま沈む。


「最後に、アイツのこと殴っとくんだったなぁ‥‥」


 茜の体が重くなっていく。濡れた服が体に密着する感触が気持ち悪かった。


「ま、できたらこうなってないか」


 茜は薬瓶の蓋をゆっくり開く。しかし瓶は滑ってうまく開かない。手が震えているのだ。茜は力を入れ直し薬瓶を開く。中で密集した赤と白のカプセルが茜を見つめているように感じた。


 奇妙な感覚に蓋をして茜は口に薬を流し込んだ。何錠飲んだかわからない。ただ傾けた瓶は茜の手を滑り床に転がった。


 その音は一人の浴室によく響いた。そしてまたすぐに静けさを取り戻した。茜は目を閉じる。最後のひとときを過ごす準備が整った。何も考えずただ”無”になる。


 目を瞑ってから数分がたった。茜が思っていたより最後は遠かった。少し肌寒くなって生きた頃、玄関の方から音がした。


 ガチャ


 茜に人を呼んだ覚えはない。元恋人が来たのか?茜は聞き耳を立てて外の様子を伺った。


「‥‥誰もいねえな」


 知らない声だ。


 低い男の声。元恋人ではなかった。


 少し空いた浴室のドアから男が横切るのが見えた。手元のなにかが光を反射する。


 男の正体は火を見るより明らかだった。


 スマホが振動する。ドアの直ぐ側においていたカバンの中でここだと言わんばかりに鳴るそれは男の視線を浴室に誘導した。


「おい」


 茜の呼吸が荒くなる。足音が近づくごとに心臓の鼓動も早さを増した。


 ゆっくりドアが開く。

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