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散らない花は実らない

「元の老いゆく肉体に戻りたいか? 否、そんなはずなかろう。今まで数百年とその身で生きてきて、今更戻れるかて」


 自分と同じく不老の血肉を持った彼――正確には性別はないとされている――が、低い声でくつくつと笑う。

 

「しかし、お主も哀れなこった。以前はあんなに素敵な仲間に囲まれておったのになぁ。誰も彼も、お主を置いて死んでしまった。そんな人生にも辟易したから、こんなところで独り寂しく暮らしておるのじゃろう?」


 哀れまれるのも癪なものだ。だがわざわざ感情的になるのも馬鹿らしかった。彼の緑眼の奥で、野心に塗れた欲心がギラギラと光るのが見えるものだから。


「我々の元に来い。不老となったお主は最早我々の仲間。お主の望む人間をも不老にし、永劫の楽園を創ろうじゃあないか」


 なんて素敵な提案なんだろう。

 愛した人が先立つ悲しみを味わわずに済む。不死ではない限り全く無いわけではないだろうが、可能性はずっと減る。あとはもう、時間の許す限り人生を謳歌するだけだ。

 きっと日の当たる場所には戻れない。不老というのは人からするとそれだけ脅威となるものだ。でも、人里離れた場所で暮らすことになろうと、仲間がいれば怖いものなどない。たとえ国が滅びようと、世界が亡くなるその時まで自分たちだけで好きに生きていたっていいのだ。


 彼らの元に行くというのは、そういうことだった。

 あまりにも完璧な理想論すぎて、反吐が出た。


「お前たちは、世界の本質をわかっていない」


 巡り巡る世界の理を。光と闇の関係を。人間という、光無しで生きられないながらに陰の面を兼ね備えた、矛盾にまみれた不完全な生物を。


「有限だから人は懸命に生きるんだ。闇があるから光が差すように、裏があるから表があるように、辛く悲しい死があるから生きる喜びが存在するんだ。

手に入れた永い時間に麻痺して、老いず変わらずの仲間と安全な生活場に篭って、俗世に触れずに自分勝手に生きてきたお前たちにはわからない」


 尤も、理想を追い求めるという彼らの行為自体は否定しない。ただ、本当にそれが目指すべき理想なのかを見つめ直すこともなく、数千を超える長い年月を盲目に過ごしてきたところを、心底軽蔑する。

 彼らなんかより、定命であれど世代を超えて進化成長しながら、光と闇の狭間で生きてきた人間たちの方がよっぽど賢明で偉大だ。


「たとえ何人に先立たれようと、孤独で寂しい人生だろうと、僕は可死の人間の社会で生きる方を選ぶ。お前たちに用はない、帰れ」


 自分は、儚く散りゆく人間たちを愛して生きていく。永遠じゃなくていい。人間たちに永遠など望んじゃいない。たとえそこにあるのが悲しみだろうと、有限の美に酔っていたい。


 愚者の私欲の糧になってやるつもりは無い、あっちに行け。

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