第一陣営 秘密結社メメント・モリ3
──────死んだのか? 私は──
てことはここは天国?
そんなことを、微睡む意識の中考えていた。
そもそも、自分が天国に行ける人間なのかという疑問は残るが、地獄に行くのも想像がつかない。
あの世とはどんなものなのだろう? 自分は死んだのだから当然そこに行くのだろう。そう思っていたが⋯⋯徐々にまともに戻り始めている意識が、それを否定する。
どうやら、まだその時ではないらしい⋯⋯
「───ここ、は⋯⋯?」
「あ、起きたね! やっぱりすごい回復力だ! さすがだね!」
ゆっくりと起き上がると、目の前の知らない人物がこちらに寄ってくる。
「⋯⋯えっっと⋯⋯どなた?」
「あぁ、失礼! 僕は洞木というものだ! と、言っても、起きたばかりだと何が何やら分からないだらうけど⋯⋯」
「いや、大丈夫⋯です。私は小隈っていいます⋯⋯えっと、私は確か⋯⋯」
自己紹介を済ませ、昨日の気絶する前のことを思い出そうとして意識を巡らせる。
「あぁ、そうだ、あの訳分からないスーツ男に殺されそうになって⋯⋯それで反撃したらビルが崩れて⋯⋯」
「うん、その通り⋯⋯何せその崩れたビルから君を助け出したのが僕だからね!」
「⋯⋯! そうだったんですか⋯⋯えっと、ありがとうございます」
「いやいや、なんて事ないさ! ちなみに、君の左腕を直したのも僕だよ!」
そう言われ自身の左腕に目をやると、昨日あの男に落とされたはずの腕が元通りになっていた。
「ほんとだ⋯⋯! 重ね重ねどうも⋯⋯何と礼を言えばいいか」
「いやほんとにいいのさ! 困った時はお互い様だしね!
⋯⋯それに、見てたよ! 君が"凶星"に勝つところ! だから僕は君を助けたのさ!」
「凶星?」
「⋯⋯やっぱり! 何も知らないルーキーなのにあの凶星を討ち取ったのかい! これはビックニュースだぞ!」
何やら男は興奮し始め、さらに身を寄せてきた。
「あー、えっと、私、それがなんの事かよく分かってなくてですね」
「だろうね、何も知らないルーキーじゃ⋯⋯でも、凶星を討ち取ったんだ、自分が普通じゃない世界に足を踏み入れたことぐらいはわかるだろう?」
目の前の男の言う通りである。ここのところ大牙は有り得ない出来事ばかりと遭遇している⋯⋯今までの普遍的な日常が嘘のように。
「そうですね。訳分かんない化け物に襲われたり、スーツの男に襲われたりでもう何がなんだが⋯⋯」
「そのスーツの男が凶星という男だよ、あの辺を縄張りとしていたんだ」
「縄張り?」
「えっと、君がどこまで知っているのかを知りたい。その男から何か言われなかったかい?」
「⋯⋯能力とか、自分がプレイヤーだとかは言われましたね」
大牙あの男に言われたことを思い浮かべる。あの男は、あのビデオテープこそが自分が襲われる理由だと言っていた。
「あの⋯⋯能力とかって一体?」
「ふむ! 能力というのは【記憶能力】といってね、ビデオテープに選ばれた者の一番記憶に残っている思い出を元に構成される能力のことだよ」
「⋯⋯一番記憶に残っている思い出⋯⋯それがそのまま能力になるってこと⋯ですか?」
「うむ! 心当たりは無いかい? 記憶が元になっているから力の使い方も何となくでわかったはずだよ」
───心当たりならある。自分の最も記憶に残る思い出は、あの日に負った心と、この顔の傷の思い出である。
⋯⋯確かに、あの日も激しい雨だった⋯⋯雷の鳴り響くような、激しい雨。
「なるほど⋯⋯私はその【記憶能力】ってのを使ってあの凶星って奴を倒したってことか⋯⋯」
「ふむ! 素晴らしい能力だった! ちなみに、君を治したのも私の【記憶能力】の力だ」
「なるほど」
「そして! その【記憶能力】を持った者たちのことを、覚者と呼ぶ」
洞木という男からの説明で、昨日あの男が言っていた言葉がやっと理解できた。
「えっと、言葉の意味は理解できたんすけど、なんで襲われたのかとかがイマイチ⋯⋯」
「⋯⋯それはだね、僕たち覚者はその名の通り、とある生存競争の参加者なんだ」
「生存競争⋯⋯」
「僕たち覚者は、生きるために、他者を殺さねばならない」
「こ、殺す?」
あまりの突然の発言に疑問と驚きが隠せない。
「僕たち覚者は、生きているだけで体内のメモリという名のテープを消費する⋯⋯テープっていうのは【記憶能力】を使うためのエネルギー、言ってしまえば心臓を動かすための血液みたいなものさ」
「あー、マナとかみたいな?」
「あぁ、僕達覚者はテープがないと消滅してしまうんだ。⋯⋯死ぬってことさ」
「死ぬ!?」
あまりに突然の発言に思わず驚いて身を乗り出してしまった。
「覚者はテープがないと死んでしまう⋯⋯そしてテープは能力を使う度に消費するし、ただ生きているだけでちょっとずつ消費する」
「じゃ、じゃあどうするんですか?」
「それが正に僕たち覚者が戦う理由だ、僕たちは、自身のテープを補給するために他の覚者の中にあるテープを奪う必要がある⋯⋯それしか補給手段がないからね。
つまり、他の覚者を殺して奪う必要があるってことさ」
「⋯⋯じ、じゃあ! 自分が生きるためには他人を殺さないといけないってこと!?」
「正に、だ。生物が飲まず食わずでは生きていけないように、我々覚者は獲物を獲らなければテープ不足で死ぬということさ」
自分の立場を突きつけられた大牙は、言葉を発することが出来なかった。
自分が普通じゃない世界に足を踏み入れたことは理解していたが、まさかここまで厳しい現実が待っているとは考えもしなかった。
男の話を聞く限り、これから大牙は生きていくために他者を殺す必要がある。
「で、でも!! おかしいですよ! そんな日常的に能力持った人たちが殺し合ってるなら、今の時代すぐ世間にバレるはず! なんで誰も気づけてないの!?」
「⋯⋯君も、覚えがあるんじゃないかな? 世間が気づかない真実に」
そう言われて大牙が思い出すのは、先日の怪物騒ぎだ。
あれだけのことが起きていながら、誰も怪物について覚えていなかった。
「あ⋯⋯ある⋯⋯あります。覚えが⋯⋯なんで、なんでみんな⋯⋯忘れてるの?」
「⋯⋯⋯⋯ここからが本題だ。
何をしても許される⋯⋯何をしても忘れられ、元通りになる夢の時間があると言われたら、君はどうする?」
「何をしても、許される? ⋯⋯そんな時間が⋯あるんですか?」
「あぁ、あるとも、その名を"神隠し時間"と言う。そこが、僕ら覚者の戦場だ」




