第4話 目覚め
・・・・・・・・・・・・何が起こった?
分からない。男の言葉と共に、視界をほんの一瞬黒い物体が横切ったような気がする。恐らく何かが飛んできたのだろう・・・・・でもそれが何なのか確認することはできなかった。
昨日の怪物の時と同じ·····いやそれ以上に速かった。自分がそう判断したのは、昨日あの化け物の凶行を間近で一心に見ていたからだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・?左腕に何か違和感が・・・
──────────ッッッッッッ痛
左腕の違和感を気にしだした途端、神経に針を打ち込まれたかのような鋭い痛みが、時間差で左手に走る。
──────ない。肘より先がない。無くなっている。
痛い───それでいて断面が カーー、と熱くなっており、血が吹き出してくる感覚が腕を伝って頭にやってくる。
「アァッッッ───あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
痛いなんてもんではなかった。今までで感じたことなどない痛み。左腕が鉄板に触れているかのように熱くなり。血管が、肉が、骨が、ありとあらゆる場所が悲鳴をあげている。
「ククク───そう喚くな。そのぐらいの負傷は僕らの世界では日常茶飯事さ。君が近所の人に挨拶をするぐらい当たり前で、何気ない日常の一コマさ⋯⋯⋯⋯⋯」
俺の左腕を吹き飛ばした張本人であろうスーツの男は、周囲に黒みがかった紫色の"球"を浮遊させ、ポッケに手を突っ込みながら不敵な笑みを浮かべている。
(あれで俺の腕を吹き飛ばしたのか?)なんて考えている余裕などなかった。
「⋯⋯⋯⋯まぁ、私も鬼ではない。これから僕の記念すべき養分になる以上⋯最低限なぜ君が殺されねばならないのかぐらいは教えてやる⋯⋯⋯⋯僕の寛大さに感謝することだね。
───ふむ、さて何から聞きたいかな?"なぜ攻撃するのか?""この能力はなんなのか?"それとも⋯⋯⋯⋯⋯⋯おや?」
奴が長々と話し始めた途端、俺は奴の寛大さとやらに感謝して、ありがたくその場を後にしていた。
俺は走って逃げた。超逃げた。血が流れでる左腕を必死に抑え、痛みで歯を食いしばりながらも、頭の中の弱音やうるさく鳴り響く危険信号を黙らせながら走った。
普段ヘタレな俺でも、昨日の一件のお陰で逃げることに関しては判断が早くなっていた。痛みに震えながらも、すぐに足が動いたのは成長と呼べるだろう。
──────あいつはやばい。そんな誰でもわかる感想を胸に入り組んだ路地裏の道をジグザグと走り、先程の入口付近からどんどんと遠ざかる。
幸い、俺には土地勘があったので逃げるルート選びには全く迷いがなかった。分岐が数多くある路地裏でも、俺の足は止まらずに動き続ける。
───が、男も当然追って来ていた。
ドゴオォォォンという凄まじい音と共に、スーツ姿の姿の男は当然のごとく路地裏を破壊しながら、先程の球を飛ばしては気味悪く笑い、その声が路地裏中に木霊している。
紫色の球は路地裏の壁をバウンドしながら、土煙を上げて俺の背後に迫る。
俺はそれに何とか追いつかれないよう、球の破壊音や衝撃に負けず足を走らせる。
思えば随分走った。既に路地裏は終わりを迎え、次は人通りが全くない高架下の小道にまでたどり着いていた。
あの男、球を飛ばしてくるだけで脚自体は速い訳ではないようだ。
とりあえず距離は離せた。このまま走り続ければ。 そんなことを考えていた矢先。
「───そこまで抵抗されちゃあ、私も手加減できないゾォォォォ!!!!」
後ろから追ってきていたはずの男が、目の前の壁をぶち壊しながらカットインしてくる。⋯⋯⋯なぜ?
──────男は球で壁を壊しながら最短距離で間合いを詰めて来たのだ。
気持ち悪い声を上げている男は、自ら生み出した球の上に乗って、こちらを見下していた。
「いやはや素晴らしい逃げ足、それに素人にしちゃ悪くない判断力だ。
だからこそ実に惜しい⋯⋯もう少し私と出会うのが遅ければいい線いっていたかもしれないのにねぇ⋯⋯⋯クフフフフ」
「⋯⋯⋯⋯あんた、なんで襲ってくるんだ!!儀式だかなんだか知らんが、俺はあんたに攻撃される義理はない!!」
「いいやあるさ、大いにあるとも。君も【記憶媒体】に選ばれた【覚者】である以上、命を賭けた戦いに身を投じる運命にある。君はもうこちらの世界に足を踏み入れているのさ。」
「ドライブ⋯⋯⋯?なんの事だ!!俺はそんなものに選ばれてなんかないし、そっちの世界に足を踏み入れた覚えもない!!」
「いいや確かに選ばれているとも⋯⋯⋯君が持っている記憶と、そのビデオテープが証拠だよ君ぃ」
──────男にそう言われて初めて気づくことができた⋯⋯⋯⋯いつの間にか自分の手にはビデオテープが握られている。こんなモノ元々持ってないし持ち出してもいない。ましてや手に持ってなんていなかった。そもそもビデオテープなんてテレビのレトロ特集でしか見たことがない。
にも関わらず、ビデオテープは確かな質感と重量を伴って、自分の右手に握られている。冷たい外側のケースの、ツルツルとしながらもなだらかではない表面の感触がしっかりと伝わってくる。
「───な⋯⋯⋯なんだこれ。確かに昨日のことは覚えているがこんなモノは知らない⋯⋯⋯あんたの仕業か?なんなんだよこれ!!これがあるからなんだってんだ!!」
「それこそが【記憶媒体】であり、我らが能力の源であり、我らが戦う理由だ。我ら【覚者】は日々それを奪い合い戦っているのだ⋯⋯⋯⋯わかったかね?君がこれから死ぬ理由が。」
「⋯⋯⋯⋯分かってたまるか。こんなモノの為に人を殺すって?意味がわからねぇ!!ふざけんな!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごもっともな反応だが⋯⋯素人丸出しだね。世の中、そうやって理解が遅く、適応できないものから死んでいくのだよ。
───と、いうことで⋯⋯⋯大人しく養分と、な、れ!!」
──────────俺にとどめを刺そうと右手を大きく上に挙げ、振りかざされそうになった腕が、ピクリと止まる。
先程壁を壊した衝撃音で、遠くからこちらをザワザワ伺っている人がチラホラ見えたのだ。
そして、何を思ったのか男は球を消し、手も下ろして急に動きを止めた。
(なんだ⋯⋯⋯?急に動きが止まった。周りの人に見られたからか?そんなことで止まるようなやつなのか?──────でも、)
チャンスだ。
そう思って俺は走り出し、近くの見るからに廃墟な建物へと走る。人混みの方に走ろうかとも思ったが、奴が他の人に危害を加える可能性がある以上。その選択は取れない。だからこそ廃墟の階段を駆け上がる。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ククク⋯⋯⋯⋯大莫迦め。」
男はニタリと笑い、逃げた哀れな子羊の後を追う。
──────廃ビルへと逃げ込んだ大牙の目に飛び込んできた光景は、ひび割れたコンクリの床と壁、粉が降ってくる天井、寂れたパイプの階段である。
臭いし虫がいるし光がポツポツと差し込んでいて、正しく廃墟といった建物だ。
もちろん考え無しに廃墟に逃げ込むほど大牙は間抜けではない。ちゃんと勝算があっての事だ。
やつは先程口を滑らせていた⋯⋯⋯このビデオテープが能力の源であると。つまり、何も知らないとはいえ大牙にも、奴に対抗する能力があるということに相違ない。
(あいつは言っていた⋯⋯⋯適応できないやつから死んでいくと。ならやってやる⋯⋯⋯何も知らなかろうが素人だろうが、奴をこの手で倒す!!この能力とやらで!!)
強い決意を胸に、大牙は廃墟を駆け上がる。
(けど、どうやって使うんだ?その能力とやらは。このビデオテープをどうすればいいんだ?)
相変わらず分からないことだらけのまま、右手にあるビデオテープに目をやる。初めて見るビデオテープをまじまじと、入念に力を入れて観察する。
そうしてビデオテープを見つめいる内に、体が痺れるような、体の中をツンとつつかれたような、何かじんとしたものが体中の血管や神経を走ったような気がする。
何やら大牙自身とビデオテープの何かが繋がったような気がした。
─────────雨が降っている。あの日の雨だ、人生で最も記憶に残っていて、それでいて最も思い出したくない記憶。幼い頃の自分の、罪の記憶であり傷の記憶。
あの日の映像が、一瞬、しかしとても長い間頭の中に流れ込んできた──────気がした。
顔の傷がヒリヒリ、ジンジンと痛む。あの日傷に染み込んだ雨の冷たさと痛みすら感じる。
まるで過去に戻って、あの日のことをもう一度体験したようだった。
⋯⋯もし過去に戻れたとしたら、あの日の蛮行を必ず止めていたが⋯⋯
そんなことを考えている内に、廃墟全体に響き、建物を揺らす揺れで ハッと、我に返る。下であの男が自分を探して暴れているのだろう。
時間がない⋯⋯⋯⋯
早い内に能力の使い方を理解しなければ、死ぬだけだ。急いでビデオテープを見つめ直す。
すると、先程まで色がついておらず、今より比較的軽かったビデオテープの外見と重量が変わっている。雷のような、電流のようなマークが描かれ、中にもずっしりと中身が入っているのがわかる。
───まるで自分の記憶が、このビデオテープの中に吸い込まれたみたいに───
そんなことを思っている内に、奴の声が建物中を駆け巡る。
「───隠れてないで出てきたらどうだぁぁぁぁぁい?ここまでしぶといとこっちも迷惑なんだよぉぉう!!今出て来れば痛いようにはしないさ!!
⋯⋯⋯⋯⋯ふぅむ⋯そこか!?それとも、そこかい!?うぅむ⋯ならばここだ!!」
男は叫びながら次々と建物を壊し続けている。柱も、機材も、階段も、俺が隠れてそうな場所をあらかた潰して回っている。
「それにしても君は実にマヌケだよねぇ!!クフフフフフ。あのまま人通りのある所に居れば死なずに済んだのに⋯⋯⋯⋯あぁ!!もったいない!!!!」
奴の声と破壊音がガシャンガシャンと鳴り響き、焦る大牙の鼓膜を刺す。
「僕たち覚者にもいくつかルールがあってねぇ⋯⋯不用意に人前で暴れたり、能力を見せることは禁止なのさ!!だから私はあそこで手を止めたのに⋯⋯君は自ら袋小路に入ったのさ。実に笑える!!
───ほぅら、出てきたまえよぉ〜」
(ヤバいヤバいヤバい!!!!)
このままだと本当にまずい。為す術無く見つかって殺されてしまう。そう焦り冷や汗が滴る大牙の額に、ツンと刺すようにある"声"が響く。
[マワセ]
───突然の謎の声に、大牙は焦って辺りを見渡す。
誰もいない。暗闇があるだけだ。分からない。でもどこからか声がした。あの怪物の声のような、不気味な低い声が。
しかし今はそんなことを気にしている時間がない。声に導かれるかのごとく、大牙はビデオテープをひっくり返し、裏の穴に指をかける。
「回せって⋯⋯⋯⋯この穴に指を引っ掛けて回せってことだよな⋯?」
よく分からないビデオテープの構造に戸惑いながら、ゆっくりと、しかし思い切って指を回す。
──────ガチャリ
重厚な音を立て、ビデオテープが回転する。
ピロロロロロロロ と、ビデオを再生した時のようにテープが回転し、光りながら震え、ビデオテープからテープが飛び出す。
大牙は予想していなかった事態に戸惑いながら光を見つめているが、不思議と⋯⋯頭では理解していた。回せばこうなる、と。
光り輝くテープは、そのまま伸び続け、螺旋を描きながら大牙の胸へと飛び込み、スルスルと体へと入り込む。
まるでテープと体が一体化しているようで、実際に大牙自身もそれを感じ取れていた。テープを取り込むことで体が普通では無くなっていく。間違いなく自分自身だが、違う存在へと。
───テープの入り込んだことで、大牙の顔に大きく広がる一本の線のような傷跡が黒く染まり、雷のようなマークの刻印へと変貌した。
刻印からはビリビリと電流のようなものが散っており、黒い雷のような線状のマークは体中に刺青のように広がっていた。
能力が発現した⋯⋯⋯そう確信できる変化であった。奴に対抗できるだけの能力が。
─────────が。ここで問題発生
頭を、体を、千本のナイフで刺しているかのような痛みが襲う。
爪と肉の間をチクチクに針を埋め込まれたかのように体中が痛い。それだけではない、最も痛むのは顔の傷跡だ。
傷跡が内側から引き裂かれ、体が分裂して中から小さい自分が生まれて来るんじゃないかというくらいにズキズキと、裂けるような痛みに思わず意識を失いそうになる。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
痛いくて先に自分で死にそうになっているが、この痛いという言葉は自分の声ではない⋯⋯⋯⋯⋯⋯質量を持った電流のような痛みと一緒に、"痛い"という言葉が頭に流れ込んで来る。
(痛い⋯⋯⋯⋯⋯確かに痛いけど、なんなんだこの声はッッッッッッ
誰なんだ!?この声の主は、俺じゃないなら誰なんだ!!)
イタイよ⋯
イタイイタイ
痛いぃ 痛いようやめて
痛 イタい
いタイ
「ッッッッだから誰なんだよ!!お前ら!!」
「──────おやぁ⋯?こんなとこに居たかと覚えば⋯⋯一人で何を言っているんだい?そんなに叫んで⋯⋯⋯ククッ なんだか苦しそうだねぇ。」
いつの間にかスーツの男に追いつかれていたが⋯⋯そんなことはどうでもいいくらいに苦しく、また声の正体も分からない。
(誰なんだお前ら⋯⋯⋯誰なんだよッッ)
悶える大牙の脳に、またもや"声"が語りかける。
─────────イタイよ───乱暴にしないで───酷いことしないで───助けて───あいつ許せない──────最低だ──────僕らの痛みに気づいて───
謎の声を聞いて、なぜだか昔に聞いた言葉まで思い出す。
『他人の痛みがわかる人間におなり⋯⋯』
『お前はどうしてこんなことも分からなかったんだ!!』
『だから言ったのに』
『もう⋯⋯⋯遅いよ⋯⋯⋯』
あぁ、思い出したくなかった⋯⋯⋯こんなこと。でも⋯⋯お陰でわかった気がする。
「───さっきの光と君のその変わり様からして⋯⋯⋯能力⋯⋯いや、記憶能力に目覚めたようだね。
⋯⋯⋯どうしてそんなに苦しんでいるのかは知らないが、目覚めた以上、君には死んでもらう。目覚めた人間のほうが気兼ねなく殺せるしね。
───終わりだ。〖廻る禍星〗」
スーツの男は一切の容赦なく、倒れ込む大牙に向けて紫色の球を拳で弾き飛ばす。
─────────確かに、男は球を放った。
しかし球が大牙に直撃することはなく、大牙の少し前でピシャリ と弾け飛ぶ。
「─────────!?
ッッバカなッッ!!!なんだ、何が起こった!?」
焦る男は、今までの余裕の顔面を急激に歪ませ、一切のお遊びなしに残りの球を全て大牙に向けて全力で放つ。
──────が、球は大牙にたどり着く前、大牙の周りにバチバチと帯電する黒い電撃に ピシャリ と全て撃ち落とされ、シャボン玉のように破裂して霧と化している。
「─────────理解した───この声の正体。ずっと頭に響いていた声の正体がよぉ!!」
痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる大牙の目は、今までと違い決意に満ち、目の前の敵を見据えていた。
「この声は人の声でもなけりゃ生物の声でもない⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯この廃墟の声だ!!お前がバカスカ壊していたこの建物の壁や床の声だ!!!!この建物自体が、痛みを訴え!!お前を許さないと言っている!!お前に!!建物自身が味わった痛みを思い知らせてやれとなあ!!!!!」
「な、なんだ⋯⋯⋯お前⋯急に⋯⋯⋯⋯⋯急に何を言っている!?馬鹿なことを!!建物の痛みだと!!ふざけたことを!!」
「馬鹿はてめぇだぜ⋯⋯⋯⋯今の状況を分かってねえ馬鹿はよ⋯⋯⋯⋯だからてめぇは、俺みてぇな素人に負けんだよ!!!!!」
大牙の右手に、とてつもない量の電流が集まる。あまりの光に、大牙の姿がまるまる覆われ、見えなくなってしまう程に、廃墟の外から⋯いや、街の至る所から輝きが見えてしまうほどに!!大牙の右腕は、黒い稲光をその手に宿す。まるで、この廃墟そのものを拳に宿しているかのように。電撃を拳に握りしめる。
握る電撃はこの建物が味わった痛みそのもの⋯⋯⋯それを握る大牙の右腕の痛みは想像を絶する。溶岩をその手で握っているようなものである。
───それでも、大牙は止まらない。握る手を緩めることはしない。もう、悩まない。
「ま、ま、ま、待て!!待つんだ!!そんなもの喰らったら⋯⋯⋯待ってくれ!!話を聞いてくれ!!!!!!」
「──────あんたも言ってただろ?あんたらの世界じゃこんなの当たり前だって、適応できなければ死ぬって。
⋯⋯⋯それに、あんたは今まで殺してきた人間の話を聞いたのか?寄り添ったのか?情けをかけたのか?
⋯⋯⋯聞いてんだよ!!なぁ!!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯ま、待ってくれよ⋯⋯⋯⋯⋯待っ─────────」
「─────────終わりだ。」
「あ、あ、ありえない!!この私が!!この私がぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!」
右手から解き放たれた黒い稲妻が⋯⋯男の胸へと走る。地から空へと駆け昇る雷のように。吼え叫ぶ龍のように──────
───────────────────────────────────────────────────────────────音が激しすぎてまともに聞こえないほどに、鼓膜を打ち破らんとするような轟音が、雷雲の中にいるかのように鳴り響き、辺りに衝撃を伝える。
音と共にやってきた衝撃は、廃墟どころか街全体を揺らし、地中深くで爆弾を爆発させたかのような地鳴りを発生させる。
男の情けない断末魔は雷の轟音にかき消され、男の体は丸ごと黒い稲妻に呑まれながら、彼が廃墟に与えたダメージを一身に受け、見事に吹き飛んだ。今まで彼がやってきたことの報いを受けたのだ。他人を殺そうとした以上当然殺されても文句は言えない。
───────────終わった。勝ったのか?実感がない。何が起こったのかもよくわかってない。だが、終わったことだけはわかる。
喜んでいいのか分からない。そもそもあまりの痛みで意識が朦朧としている。
(少し休もう⋯一歩も動けそうにない)
そう思って横に倒れ伏せたが、事態がまだ解決していないことがわかる。
────────────崩れる。
先程の衝撃と奴が与えたダメージで廃墟が崩れそう⋯⋯⋯というより間違いなく崩壊する。
天井からはポロポロと石の破片が落ちてきて、顔の横に飛び散る。横たわる地面も傾いてきて、壁にもヒビが入っている。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯死ぬのか。結局。
かろうじてあの男に勝ったものの、最終的に建物の崩落に巻き込まれて死ぬとは⋯⋯⋯自分らしいといえば自分らしいかもしれない。
大人しく諦めて死のう⋯⋯そんな考えすら浮かんでくるほどに、絶望的な状況だった。
これで本当の幕引きである───────
「────────よお、また会ったな」
─────────あの時の、見覚えのある眼帯の少年だった。
彼の顔を見た途端、なんだか安心してしまって、こんな状況なのに意識が⋯⋯⋯⋯段々と途切れていった。
もう、目覚めないかもしれないのに。
「俺が来たからにゃもう平気だ。寝てていいぞ」
───彼の穏やかな声に従って、ゆっくりと、目を閉じた──────




